
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
原材料費や人件費の高騰が続く中、取引先への条件交渉は企業の死活問題だと思います。「1社では弱くても、他社と足並みを揃えれば交渉がスムーズに進むはず」―そう考えたことはないでしょうか?確かに、公正取引委員会も、中小企業の正当な転嫁を後押しする姿勢を見せていますが、一歩間違えれば独占禁止法違反のリスクもあります。本コラムでは、公取委の最新の指針を交えつつ、共同交渉が「アウト」になる境界線を徹底解説します。
団結することは違法なのか?

ビジネスの世界において、特に圧倒的なシェアを持つ取引先を相手にする場合、中小の事業者が単独で値上げを訴えたとしても、門前払いされてしまう可能性があるといえます。そのような中で、「他社と一緒に一斉に交渉すれば、相手も聞き入れてくれるはずだ」という発想は、現場ではごく自然のように思えます。
しかし、この「他社と足並みを揃える」という行為には、独占禁止法(独禁法)上の「不当な取引制限(カルテル)」となってしまうリスクがあります。他方、近年の物価高騰を受け、公正取引委員会(公取委)も「中小企業の適切な価格転嫁」を支援するため、共同交渉に関する一定の見解を示しています。したがって、その微妙な境界線を正しく理解しておく必要があるといえるでしょう。
団体交渉が認められるケースとは

実は、公取委はすべての共同交渉を問題と捉えているわけではありません。特に、中小企業における労務費や原材料費の上昇の適切な価格転嫁について、公取委は、問題意識を持っているようようです。
価格転嫁に関する指針
「立場の弱い中小企業が、共通のコスト上昇分を転嫁するために団体で交渉すること」について、公取委は、おおよそ、以下の条件を満たす場合には、ただちに独禁法違反にはならないという趣旨の指針を示しています。
- 目的が正当であること: 不当に利益を上乗せするためではなく、上昇したコスト(人件費や燃料費など)を適切に転嫁することが目的である場合。
- 競争を実質的に制限しないこと: そのグループのシェアが圧倒的ではなく、市場全体の価格を自由に支配するような状況にないこと。
すなわち、「弱い立場にある中小企業が、適正な対価を求める団結」については、一定の理解が示されているといえます。
どこからがアウトか? 超えてはいけない境界線

もっとも、無条件に他社と手を組んで良いわけではありません。例えば、以下のようなケースでは、独禁法違反と判定されるリスクが高いと考えられます。
1. 具体的な「販売価格」の合意
「共通のコスト上昇を交渉の場に持ち出す」のは合理的と言えますが、事前に「最終的な販売価格を〇〇円で統一しよう」と決めるのは価格カルテルと判断されるおそれがあります。
価格は、自由な競争に基づき、各社が独自に決めるべき経営の根幹であるためです。
2. 強制力を伴う団結
取引の相手方に対し、「この条件を飲まないなら、我々全員が取引を停止する」などと、団結して取引を拒絶する行為は、交渉の域を超えた「共同の取引拒絶」として厳しく罰せられる可能性があります。
3. 「効率的な企業」の努力を奪う合意
本来、企業努力でコストを抑えている会社が安く提供できるはずなのに、他社と足並みを揃えることでその競争を止めてしまうような合意は、消費者の利益を損なうこととなるため、違反となる可能性が高いといえます。
安全な交渉を行うために

では、どのように交渉を進めるのが正解なのでしょうか。
まずは、他社の動向に合わせるのではなく、自社の人件費や設備投資額がどう推移しているかといった自社のデータに基づいて積算資料を用意することが大切といえます。
その上で、安全な交渉を行うためには、団体やグループで交渉を行う場合は、あくまで「コスト上昇という事実の共有」にとどめ、最終的な価格決定は各社が「個別交渉」で行うという一線を画すことが不可欠だといえます。
まとめ

独占禁止法は、近年ますます執行が強化されており、一度違反とみなされれば巨額の課徴金だけでなく、「指名停止」や「社会的信用の失墜」という致命的なダメージを受けるおそれがあります。
「この団体交渉は、公取委の指針に沿っているか?」、「どこまでの情報交換なら安全か?」といった判断を現場や経営陣だけで行うのは、リスクが高いといえるでしょう。
これらの複雑かつ専門的な手続の中で、企業が冷静に対応し、最大限の防御を行うためには、独占禁止法に精通した弁護士のサポートが不可欠です。
独占禁止法は専門的な法分野だといえますので、お悩みの際には、同法に精通した弁護士に一度ご相談されることをお勧めいたします。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 企業が直面する様々な法律問題については、各分野を専門に担当する弁護士が対応し、契約書の添削も特定の弁護士が行います。企業法務を得意とする法律事務所をお探しの場合、ぜひ、当事務所との顧問契約をご検討ください。
※ 本コラムの内容に関するご質問は、顧問会社様、アネット・Sネット・Jネット・保険ネット・Dネット・介護ネットの各会員様のみ受け付けております。





