
さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。
また、本記事は、交通事故で転倒するなどして「お尻を強く打ち」、仙骨を骨折したケースについて詳しく整理しています。
通事故によって負う傷害は多岐にわたりますが、一見軽傷に見えても、その後の生活に重大な影響を及ぼす部位の骨折があります。その一つが、骨盤の中央に位置する「仙骨」の骨折です。仙骨は体幹の要であり、この部位を損傷すると、激しい痛みだけでなく、神経障害や排泄機能の障害など、深刻な後遺症が残りかねません。
以下では、仙骨骨折の後遺障害や、慰謝料、適正な賠償額について、交通事故チームの弁護士が分かりやすく解説します。
仙骨とは

仙骨は、脊柱の一番下の部分、腰椎の下にあり、骨盤を構成する重要な骨です。幼少期にはいくつかの骨が分かれていますが、成人になるまでに5つの仙椎が癒合して一つの逆三角形の大きな骨を形成しています。この仙骨は、左右の腸骨と強固な靭帯で結ばれて「仙腸関節」を形成し、体重を支え、上半身の衝撃を吸収するクッションのような役割を担っています。
さらに重要な役割として、仙骨の中央には脊柱管の延長である仙骨管があり、そこを排泄機能や生殖機能などに関わる重要な神経の束、すなわち「仙骨神経叢」が通っています。仙骨骨折が生じた場合、単に骨が折れるという問題に留まらず、この重要な神経組織が損傷を受け、日常生活に不可欠な機能に深刻な影響を及ぼす危険性があるのです。仙骨は筋肉や脂肪に覆われているため、外見から損傷が分かりにくく、症状が進行してから初めて骨折が判明することもあり、特に注意を要します。
骨折の原因(尻もち・転倒による骨折)

仙骨骨折は、非常に大きな外力によって発生することが一般的です。交通事故においては、以下のような状況で仙骨に強い衝撃が加わり、骨折に至ることが多く見られます。
1. 尻もちや転倒による衝撃
バイク事故や自転車事故、あるいは歩行者としての交通事故で、体が投げ出され、地面に強く尻もちをつく形で着地した場合、その衝撃が仙骨に直接、あるいは骨盤を介して集中します。特に、高い位置から落下したり、車との衝突によって地面に叩きつけられたりした場合、その衝撃は仙骨の耐性を遥かに超えるものとなり、骨折を引き起こします。骨盤の輪状構造が破壊される複雑な骨盤骨折を伴うことも珍しくありません。
2. 車内での強い圧迫や衝突
四輪車同士の衝突事故においても、シートベルトによって体が固定されているにもかかわらず、急激な減速や衝突のエネルギーが体幹、特に骨盤周囲に集中することで仙骨に圧力がかかり、骨折することがあります。また、側方からの強い衝撃により骨盤全体が変形し、その結果として仙骨に力が加わる場合もあります。
仙骨骨折は、安定型骨折と不安定型骨折に分類されますが、交通事故のような高エネルギー外傷によるものは、多くの場合、骨盤の安定性を損なう不安定型骨折となりやすく、重篤な結果を招きやすい傾向にあります。不安定型骨折の場合、骨折部位が動きやすく、神経や血管を傷つけるリスクが高まるため、迅速かつ適切な治療が必要です。治療が遅れたり、不適切であったりした場合、後遺障害が残る可能性が飛躍的に高まります。
痛み等の症状

仙骨骨折の主な症状は、骨折の程度や、神経損傷の有無によって大きく異なります。
1. 激しい疼痛
最も顕著な症状は、骨折部位周辺の激しい痛みです。仙骨は体重を支える骨であるため、立位や座位、特に座り直したり、立ち上がったりする動作時に強い痛みを伴います。痛みのために体動が著しく制限され、寝返りすら困難になる場合もあります。この痛みは、骨折による物理的な刺激だけでなく、骨折部位周辺の筋肉や靭帯の損傷、炎症によっても引き起こされます。症状が慢性化すると、座る姿勢を長時間保てなくなり、仕事や日常生活に甚大な支障をきたします。
2. 神経症状(坐骨神経痛、知覚障害)
仙骨神経叢が骨折片によって圧迫されたり、損傷を受けたりした場合、様々な神経症状が現れます。具体的には、仙骨から分岐する坐骨神経が刺激され、臀部から太ももの裏、さらには足先にかけての痛みやしびれ(坐骨神経痛)が生じることがあります。また、仙骨神経が支配する領域の皮膚の感覚が鈍くなる知覚障害や、逆に過敏になる知覚過敏が起こることもあります。これらの神経症状は、骨折が治癒した後も持続することが多く、後遺障害認定において重要な要素となります。
3. 排泄機能障害・性機能障害
仙骨神経叢は、膀胱や直腸の働きを司る自律神経も含むため、重度の仙骨骨折、特に骨折線が仙骨管を通過するような場合には、排尿・排便機能に深刻な影響を及ぼす可能性があります。具体的には、尿意・便意の感覚が鈍くなったり、失禁したりするなどの排泄機能障害が生じます。また、男性では勃起障害、女性では性交痛や不感症などの性機能障害を伴うこともあります。これらの機能障害は、被害者の精神的な苦痛も非常に大きく、早期の専門的な治療と、後の後遺障害認定手続きにおいて、細心の注意を払った立証が求められます。
認定されうる後遺障害

交通事故による仙骨骨折を負い、適切な治療を継続してもなお症状が残ってしまった場合、残存した症状は後遺障害として認定される可能性があります。仙骨骨折の場合、主に「体幹骨の変形障害」「神経系統の機能の障害(神経症状)」「排泄機能の障害」の3つの側面から後遺障害等級が検討されます。
1. 体幹骨の変形障害
仙骨の骨折が癒合する際に、骨が本来の形とは異なる形で固まってしまった場合(変形癒合)、または骨折部が適切に癒合しない場合(偽関節)、脊柱の変形障害として評価されます。
- 著しい変形が残った場合: 仙骨を含む脊柱の変形が著しいと判断されると、脊柱に著しい変形を残すものとして6級5号が認定される可能性があります。これは、X線やCT画像から、仙骨の著しい変形が客観的に確認できる場合に該当します。
- 変形が残った場合: 著しいとまではいかなくとも、変形が確認されれば、脊柱に変形を残すものとして8級2号が検討されます。
仙骨は骨盤の奥深くにあり、その変形を画像所見で明確に示すことが立証上のポイントとなります。
2. 神経系統の機能の障害(神経症状)
骨折によって仙骨神経叢が損傷を受け、疼痛やしびれなどの神経症状が残存した場合、以下の等級が検討されます。
- 局部の神経系統の機能の障害(12級13号): 痛みやしびれが医学的に説明可能であるものの、9級ほどの労働能力の喪失には至らないと判断される場合です。骨折部位や神経経路に沿った症状の再現性、一貫性が重要となります。
- 局部に神経症状を残すもの(14級9号): 痛みやしびれが残っているものの、医学的な証明が困難な場合や、症状の程度が軽微であると判断される場合です。
3. 排泄機能の障害
仙骨神経の損傷により、排尿機能または排便機能に障害が残った場合、別途後遺障害等級が認定されます。
排尿障害が出現した場合は対処方法を検討する必要があります。
尿閉などの排尿障害が出現した場合、まずは障害の程度の評価から行います。
骨折で認定されうる後遺障害等級の損害賠償について

後遺症慰謝料について
後遺障害等級は、症状の重さに応じて最も重い1級から最も軽い14級まで区分されています。そして、等級が認定されるかどうか、また何級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金の額が、数百万円から、重い場合には数千万円以上も変わってくるのです。
適切な後遺障害等級が認定されたら、次はいよいよ保険会社との具体的な賠償金の交渉です。ここで知っておかなければならないのが、慰謝料などの計算に用いられる「3つの基準」の存在です。
→慰謝料の計算には3つの基準がある
- 自賠責基準: 法律で定められた最低限の補償。最も金額が低い。
- 任意保険基準: 各保険会社が独自に設定している基準。自賠責基準よりは高いが、次に述べる弁護士基準には及ばない。
- 弁護士基準(裁判基準): 基本的には、過去の裁判例をもとに設定された基準。3つの基準の中で最も高額であり、法的に認められる正当な賠償額と言える。
保険会社が被害者本人に提示してくる金額は、通常「任意保険基準」か、それに近い低い金額です。被害者が「弁護士基準」で賠償金を受け取るためには、弁護士を立てて交渉することが事実上、不可欠となります。
参考までに、後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。
※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。
| 後遺障害等級 | 裁判基準 | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 第1級 | 2,800万円 | 100/100 |
| 第2級 | 2,370万円 | 100/100 |
| 第3級 | 1,990万円 | 100/100 |
| 第4級 | 1,670万円 | 92/100 |
| 第5級 | 1,400万円 | 79/100 |
| 第6級 | 1,180万円 | 67/100 |
| 第7級 | 1,000万円 | 56/100 |
| 第8級 | 830万円 | 45/100 |
| 第9級 | 690万円 | 35/100 |
| 第10級 | 550万円 | 27/100 |
| 第11級 | 420万円 | 20/100 |
| 第12級 | 290万円 | 14/100 |
| 第13級 | 180万円 | 9/100 |
| 第14級 | 110万円 | 5/100 |
請求できる損害賠償の項目

後遺障害が残った場合、交通事故で請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。主に以下の項目があります。
- 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代など。
- 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減の損害。
- 入通院慰謝料: 入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する補償。
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害が残ったことによる将来にわたる精神的苦痛への補償。
- 逸失利益: 後遺障害によって将来得られるはずだった収入が減少したことへの補償。
逸失利益 – 将来の収入減に対する補償について
将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。
逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。
ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。
中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。
まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
| 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
- 基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
- 労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。上記に掲載した表に載っています。
- 労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
- ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。
骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)

事故で通院をした場合は、後遺障害慰謝料とは別で、通院(傷害)慰謝料が請求できます。後遺障害が認められない場合は、この通院慰謝料のみを請求します。
骨折など、むちうちより重い怪我の場合は、より高額な慰謝料基準が適用されます。
なお、すべての損害に共通ですが、過失がある場合は、過失分が引かれます。
(例)
・通院期間6ヶ月の場合:基準額 約116万円
→過失9対1の場合の請求額:116万円 × (1 – 0.1) = 約104.4万円
・通院期間1年の場合:基準額 約154万円
→過失9対1の場合の請求額:154万円 × (1 – 0.1) = 約138.6万円
※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。

●表の見方
- 入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
- 通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
- 両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。
後遺障害の等級認定について

後遺障害は、慰謝料等の保険金に大きな影響を及ぼします。
後遺障害の等級認定は、医師の診断書を元に損害保険料率算出機構が行いますが、被害者が考えているような認定が受けられないことがしばしばあります。
つまり、考えていたよりも低い等級で認定されてしまったり、等級がつかない「非該当」とされることもあります。
適正な後遺障害の認定を受けるためには、適切な治療を受け、適切な検査を受け、適切な行為障害の診断書を作成してもらうことは、重要です。
同じ症状でも、医師がどのような治療を選択するか、検査を選択するかは、全く違います。また、診断書の書き方も全く違います。
従って、適切な後遺障害の認定を受けるためにも、受傷直後、症状固定前から、弁護士に相談されることが重要です。
交通事故に遭われた場合、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。
- 法律相談料は初回無料
- 10分無料電話相談実施中(お気軽にお電話ください)
- ラインでの相談無料

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
骨折等を伴う交通事故弁護士への早期相談が重要です

交通事故には、その痛みの辛さが他人に理解されにくく、適切な補償を受けられずに泣き寝入りしてしまいがちな怪我もあります。
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