
さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。
また、本記事は、自転車事故・バイク事故を含む交通事故で、足の指を骨折したケースについて詳しく整理しています。
交通事故によって負う傷害の中でも、足の指の骨折は、一見軽傷と見過ごされがちですが、その後の歩行やバランス機能に重大な影響を及ぼす可能性があります。足の指は、私たちの「歩く」という基本的な動作を支える非常に重要な部位であり、その機能を損なうと、日常生活だけでなく、仕事や運動能力にも大きな支障をきたしかねません。
以下では、足の指の骨折の後遺障害や、慰謝料、適正な賠償額について、交通事故チームの弁護士が分かりやすく解説します。
足の指の構造と、歩行・バランスにおける重要な機能

足の指(足趾:そくし)は、単なる体の末端ではなく、人体の中でも特に精密な構造を持つ部位であり、歩行・走行時の衝撃吸収、バランス保持、そして推進力の生成という、極めて重要な役割を担っています。
片足だけで、指の骨(趾骨:しこつ)や足の甲の骨(中足骨:ちゅうそくこつ)を含め26個の骨が組み合わさって機能しています。
足の指の骨の構成
親指(母趾:ぼし)は基節骨と末節骨の2つの骨から構成され、その他の4本の指(第2〜5趾)は、それぞれ基節骨、中節骨、末節骨の3つの骨から構成されています。これらの骨が連なることで、指の関節(中足趾節関節:MTP関節や趾節間関節:IP関節)を形成し、足指の細かい動き、特に地面を掴むグリップ力や、歩行時の蹴り出しの動作に深く関わります。
- 第1趾 = 母趾(ぼし) = 足の親指
- 第2趾 = 足の人差し指
- 第3趾 = 足の中指
- 第4趾 = 足の薬指
- 第5趾 = 第5趾(だいごし) = 足の小指
特に、親指は「母趾(ぼし)」という漢字の名称で呼ばれることが多いです。
衝撃吸収とバランス調整の要
足指が適切に働くことで、土踏まず(足部アーチ)の形成が維持され、着地の衝撃を吸収します。また、地面状況を把握し、踏ん張りや反り返しなど微細な調整を行うことで、転倒防止や重心維持にも重要な役割を果たします。
交通事故による足の指の骨折は、この精密な構造にダメージを与え、痛みだけでなく全身のバランスや姿勢にまで影響が及ぶ可能性があります。
交通事故における足の指の骨折の原因

足の指の骨折は、主に足の指に直接的かつ強い外力が加わることによって発生します。交通事故においては、以下のような状況が骨折の主な原因となります。
自転車事故やバイク事故での直接的な打撲・転倒
自転車やバイクで走行中に車と衝突したり、転倒したりした際、地面や車体の一部に足の指を強く打ちつけたり、挟まれたりすることで骨折に至ります。特にバイク事故では、車体と地面の間に足が巻き込まれてしまうことで、指に強い圧迫力やねじれの力が加わり、複雑な骨折(粉砕骨折など)を引き起こすリスクが高くなります。
四輪車内での衝撃
四輪車同士の衝突事故においても、車内で足が前の座席やダッシュボード、あるいは車体構造の一部に強く打ち付けられることで、足の指に強い衝撃が加わり骨折することがあります。
歩行中の事故での轢過・巻き込み
車両に踏まれたり巻き込まれたりすることで、重度の骨折や切断に至る場合もあります。
足の指の骨折で現れる症状

足の指を骨折した場合、その症状は骨折の程度や部位によって異なりますが、一般的には以下のような症状が現れます。
強い痛みと腫れ
骨折部位には、受傷直後から激しい痛みが生じます。特に足の指は常に地面に接するため、体重をかけると痛みが強まり、歩行が困難になることが多くあります。患部は大きく腫れ上がり、内出血により青あざ(皮下出血斑)が数日後に出現することもあります。爪の下に出血が溜まり、爪が暗い紫色になる爪下血腫が生じることもあります。
変形と可動域制限
骨が大きくずれて折れた場合、指の形が不自然に曲がったり、皮膚が隆起したりする変形が見られることがあります。また、骨折した指を動かそうとすると激しい痛みを伴うため、指の動き(屈伸)が制限されます。適切な治療が行われないと、骨が不自然な形で固まってしまい(変形癒合)、永続的な指の機能障害につながる可能性があります。
神経症状
骨折の衝撃によって、足の指や足底を通る神経が損傷したり、骨折後の治癒過程で神経が圧迫されたりすることで、骨折が治癒した後も、痛みやしびれといった神経症状が残ることがあります。この慢性的な痛みやしびれは、後遺障害の認定において重要な要素となります。
認定されうる後遺障害と等級

1. 欠損障害・機能障害
足の指の後遺障害では、まず「失ったか」「用を廃したか」が重要です。本数と部位で等級が定められています。
- 欠損障害:指の一部または全部を切断により失った場合などが該当します。切断の程度によって、第5級から第13級までが認定される可能性があります。例えば、1足の足指の全部を失った場合は第8級10号、親指(第1の足指)を失った場合は第10級9号、親指以外の4本を失った場合も第10級9号などが検討されます。
- 機能障害(用を廃したもの):「用を廃した」とは、指の関節が固まって動きが極端に制限された場合(可動域が健側の2分の1以下、または4分の3以下など)や、指の骨を一部失った場合などが該当します。これも指の部位と本数によって、第7級から第14級までが検討されます。例えば、1足の足指の全部の用を廃した場合は第9級15号、親指の用を廃した場合は第12級12号などが検討されます。
| 第7級11号 両足の足指の全部の用を廃したもの 第9級15号 1足の足指の全部の用を廃したもの 第11級9号 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの 第12級12号 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの 第13級10号 1足の第2の足指の用を廃したもの 第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの 第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの 第14級8号 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの |
2. 神経系統の機能の障害(神経症状)
骨折部位周辺の神経(末梢神経)が損傷を受け、疼痛やしびれなどの神経症状が残存した場合に検討されます。
- 第12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
痛みやしびれが、画像所見(骨折による変形、癒合不全、神経の圧迫など)や神経学的検査によって医学的に説明・裏付けができる場合に認定されます。 - 第14級9号:局部に神経症状を残すもの
痛みやしびれが残っているものの、画像所見や他覚的な神経学的検査での裏付けが困難な場合や、症状の程度が軽微であると判断される場合に認定されます。
足の指の骨折後の神経症状は、歩行時や体重負荷時に増強することが多く、その立証には、一貫した訴えに加え、足底や指の知覚検査での異常所見、骨折部位と症状部位の医学的な因果関係を明確にすることが非常に重要となります。
3. 変形障害
骨折が治癒する際に、骨が本来の形とは異なる形で固まってしまった場合(変形癒合)、変形障害として評価されることがあります。足の指の場合は、特に欠損障害や機能障害の認定基準と密接に関連しており、指の変形自体が機能障害の根拠となることもあります。
骨折で認定されうる後遺障害等級の損害賠償について

後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金が請求できるようになります。この賠償金の額は、認定された等級に応じて、数百万円から数千万円以上に大きく変わってきます。
後遺症慰謝料について
後遺障害等級は、症状の重さに応じて最も重い1級から最も軽い14級まで区分されています。そして、等級が認定されるかどうか、また何級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金の額が、数百万円から、重い場合には数千万円以上も変わってくるのです。
適切な後遺障害等級が認定されたら、次はいよいよ保険会社との具体的な賠償金の交渉です。ここで知っておかなければならないのが、慰謝料などの計算に用いられる「3つの基準」の存在です。
→慰謝料の計算には3つの基準がある
- 自賠責基準: 法律で定められた最低限の補償。最も金額が低い。
- 任意保険基準: 各保険会社が独自に設定している基準。自賠責基準よりは高いが、次に述べる弁護士基準には及ばない。
- 弁護士基準(裁判基準): 基本的には、過去の裁判例をもとに設定された基準。3つの基準の中で最も高額であり、法的に認められる正当な賠償額と言える。
保険会社が被害者本人に提示してくる金額は、通常「任意保険基準」か、それに近い低い金額です。被害者が「弁護士基準」で賠償金を受け取るためには、弁護士を立てて交渉することが事実上、不可欠となります。
参考までに、後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。
※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。
| 後遺障害等級 | 裁判基準 | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 第1級 | 2,800万円 | 100/100 |
| 第2級 | 2,370万円 | 100/100 |
| 第3級 | 1,990万円 | 100/100 |
| 第4級 | 1,670万円 | 92/100 |
| 第5級 | 1,400万円 | 79/100 |
| 第6級 | 1,180万円 | 67/100 |
| 第7級 | 1,000万円 | 56/100 |
| 第8級 | 830万円 | 45/100 |
| 第9級 | 690万円 | 35/100 |
| 第10級 | 550万円 | 27/100 |
| 第11級 | 420万円 | 20/100 |
| 第12級 | 290万円 | 14/100 |
| 第13級 | 180万円 | 9/100 |
| 第14級 | 110万円 | 5/100 |
請求できる主な損害賠償の項目

後遺障害が残った場合、交通事故で請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。主に以下の項目があります。
- 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代など。
- 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減の損害。
- 入通院慰謝料: 入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する補償。
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害が残ったことによる将来にわたる精神的苦痛への補償。
- 逸失利益: 後遺障害によって将来得られるはずだった収入が減少したことへの補償。
逸失利益 – 将来の収入減に対する補償について
将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。
逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。
ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。
中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。
まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
| 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
・基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
・労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。上記に掲載した表に載っています。
・労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
・ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。
足の指の骨折による後遺障害であっても、歩行機能やバランス能力の低下から、労働能力が喪失したと認められれば、この逸失利益を請求することができます。特に、立ち仕事や重労働、歩行を伴う業務に従事している方の場合は、その影響が大きく評価されることになります。
骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)
事故で通院をした場合は、後遺障害慰謝料とは別で、通院(傷害)慰謝料が請求できます。後遺障害が認められない場合は、この通院慰謝料のみを請求します。
骨折など、むちうちより重い怪我の場合は、より高額な慰謝料基準が適用されます。
なお、すべての損害に共通ですが、過失がある場合は、過失分が引かれます。
(例)
・通院期間6ヶ月の場合:基準額 約116万円
→過失9対1の場合の請求額:116万円 × (1 – 0.1) = 約104.4万円
・通院期間1年の場合:基準額 約154万円
→過失9対1の場合の請求額:154万円 × (1 – 0.1) = 約138.6万円
※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。

●表の見方
- 入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
- 通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
- 両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。
後遺障害の等級認定について

後遺障害は、慰謝料等の保険金に大きな影響を及ぼします。
後遺障害の等級認定は、医師の診断書を元に損害保険料率算出機構が行いますが、被害者が考えているような認定が受けられないことがしばしばあります。
つまり、考えていたよりも低い等級で認定されてしまったり、等級がつかない「非該当」とされることもあります。
適正な後遺障害の認定を受けるためには、適切な治療を受け、適切な検査を受け、適切な行為障害の診断書を作成してもらうことは、重要です。
同じ症状でも、医師がどのような治療を選択するか、検査を選択するかは、全く違います。また、診断書の書き方も全く違います。
従って、適切な後遺障害の認定を受けるためにも、受傷直後、症状固定前から、弁護士に相談されることが重要です。
交通事故に遭われた場合、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。
- 法律相談料は初回無料
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弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
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交通事故には、その痛みの辛さが他人に理解されにくく、適切な補償を受けられずに泣き寝入りしてしまいがちな怪我もあります。
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