相続人の中に行方不明者がいる場合の遺産分割手続きについて

遺産分割は相続人全員で行う必要があるところ、相続人の中に行方不明者がいて連絡も取れず、困っているということはありませんか?本稿では、相続人の中に行方不明者がいる場合の遺産分割の進め方について、弁護士が解説します。

遺産分割をしたいが、相続人の中に行方不明者がいて困っている

遺産分割をしたいが、相続人の中に行方不明者がいて困っている

相続が発生したものの、被相続人が遺言を残していない場合には、相続人間で遺産分割を行う必要があります。

遺産分割は「相続人全員」で行う必要があり、本来相続人となるべき者を一人でも欠いた遺産分割協議は無効です。

ここで、相続人の中に「ここ何年も音信普通で、どこにいるか親族の誰も知らない」という人がいると、遺産分割を進めることができません。

遺産分割を進めることができないということは、被相続人の預貯金の解約払い戻しも、被相続人名義の不動産についての相続登記も、何一つすることができないということを意味します。

このように、相続人の中に行方不明者がいる場合、どのようにして遺産分割をすればよいのでしょうか?

方法① 住民票の調査

方法① 住民票の調査

「相続人の中に行方不明者がいて困っている」というご相談でも、住民票の移転を調査して、最新の住所に手紙を送ったところ応答があった、というケースも散見されます。

まずは、遺産分割交渉を依頼する弁護士に、戸籍附票の取り寄せをお願いして、最新の住民票上の住所を確認してみましょう。

その住所に居住していることが確認できれば、通常どおり遺産分割手続きを進めていくことができます。

方法② 不在者財産管理人の選任

方法② 不在者財産管理人の選任

不在者財産管理人とは

不在者財産管理人とは、行方が分からなくなった者(不在者)に代わって、その者の財産を適切に管理・保全するために、家庭裁判所が選任する管理人のことです。

不在者本人の財産を保全するとともに、残された関係者が法的な手続きを進めることができるようにすることを目的とした制度です。

遺産分割の場面では、不在者財産管理人が、行方不明者の相続人に代わって、他の相続人と遺産分割協議を行ってくれるのです。

「不在者」と言えるか?

不在者財産管理人を選任することができるのは本人が「不在者」である場合に限られ、「不在者」とは、従来の住所や居所を去り、容易に帰ってくる見込みがない者のことを言います。

一般的な会話の中で「行方不明者」と言う時は、単に“居場所が分からない人”を指していることが多いと思いますが、それだけでは法律上の「不在者」には当たりません。

「不在者」に当たるというためには、さらに、
■以前の住所・居所を去っていること
■戻ってくる見込みがないこと(たとえば数年に渡って音信不通であること)
■現実にその者と連絡が取れず、居所も不明であること
が必要です。

つまり、「どこにいるか分からないけれども、LINEでのやり取りはできる」という場合には、その人は「不在者」とは言えないわけです。

不在者財産管理人の選任手続

「相続人の中に不在者がいて、遺産分割が進められない」という状況は、不在者本人からすれば、その財産(相続分)を保全する必要がある状況であると言えますので、財産管理の必要性も認められます。

そこで、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。

相続人のいずれかが申立人となって、不在者の「従来の住所地」または「居所地」を管轄する家庭裁判所に申立を行います。

その際、不在者の戸籍謄本や戸籍附票、不在の事実を証明する資料(宛所不明で返送されてきた郵便物の写しや、警察署で交付される行方不明届出受理証明書などです)等を添付します。

なお、申立にあたっては、裁判所に納める予納金(30万円~100万円程度で、事案ごとに家庭裁判所が定めます)が必要です。

不在者財産管理人の候補者で適任者がいるのであれば、その者を指定した申立をすることも可能です。

もっとも、遺産分割を行う場合、同じ相続人の立場にある者では利害が相反するため、利害関係のない第三者(司法書士や弁護士など)が選任されることが多いです。

不在者財産管理人との間で遺産分割を行う

不在者財産管理人が選任された後は、その管理人が不在者の代わりに遺産分割協議や遺産分割調停に参加し、遺産分割を進めていくことになります。

ただし、不在者財産管理人は、家庭裁判所の監督のもと、不在者本人の財産管理に当たるという立場にありますから、その立場から来る制約もあります。

具体的には、次のような流れとなります。

  • STEP.01
    不在者財産管理人が、家庭裁判所に対して「遺産分割協議に参加することの許可申立」を行い、許可を得る
  • STEP.02
    不在者財産管理人が、遺産分割協議に参加し、相続人らと遺産の分け方について協議する
  • STEP.03
    協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成する(不在者財産管理人も協議書に署名・押印します) 
  • STEP.04
    不在者財産管理人が、成立した遺産分割協議書に基づいて遺産分割を実施することにつき家庭裁判所の許可をとる
  • STEP.05
    遺産分割協議書に基づいて遺産分割を実行
    (不動産の登記名義の変更や、預貯金の解約払い戻し等を行います)

方法③ 失踪宣告

方法③ 失踪宣告

不在者財産管理人を選任する方法の他に、失踪宣告を利用するという方法もあります。

失踪宣告とは、生死不明の者を法律上死亡したものとみなす制度です。

不在者の生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、他の相続人が申立人となって、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申立を行います。

申立には、不在者の戸籍謄本や戸籍附票、失踪の事実を証明する資料等を添付する必要があります。

家庭裁判所で失踪宣告がなされ、確定すると、その不在者は法律上死亡したものとみなされます(戸籍上も「死亡」と記載されます)。

「相続人の中に不在者がいて、遺産分割が進められない」という場合も、この制度を利用すれば、その不在者は法律上死亡したことになりますので、その不在者を除いて(その不在者に相続人がいればそれらの相続人を加えて)遺産分割協議を行うことが可能になります。

不在者財産管理人選任と失踪宣告のどちらがよいか?

不在者財産管理人選任と失踪宣告のどちらがよいか?

不在者財産管理人の選任は、不在者がどこかで生きていることを前提にしており、生きている可能性のある人の財産を、代わりに管理・保全する制度です。

これに対し、失踪宣告は、亡くなっている可能性が高い人を死亡したものとみなして、その人にまつわる権利関係を清算する制度です。

不在者財産管理人の選任は、管理人が不在者の代理人として遺産分割に入ってくるので、不在者を廃除していないわけですが、失踪宣告の方は、不在者が死亡したものと扱い、遺産分割から廃除してしまうわけです。

方法としてはどちらを選択してもよいように思えますが、上記のような制度の在り方に違いがありますので、注意すべき点もあります。

それは、「遺産分割が完了した後、その不在者が戻ってきた場合に、どうなるか」という点です。

不在者財産管理人を選任した場合には、管理人が不在者の代わりに参加した遺産分割によって不在者の権利は守られていますので(例えば、遺産分割によって不在者が取得すべきであった代償金相当額が供託されている等)、その後に不在者が戻ってきたとしても、大きな問題は生じないことが多いでしょう。

一方、失踪宣告の場合は、遺産分割が完了した後に不在者の生存が確認でき、失踪宣告が取り消されると、(他の相続人の主観的要件にもよりますが)いったん完了した遺産分割が無効となり、やり直しを求められる可能性があります。

これは大変なことで、不動産の相続登記についてやり直しが必要になったり、相続税の申告・納税も終えていた場合はその税務処理の修正も必要になることを意味します。

このため、行方不明になっている相続人と連絡が取れない期間が比較的短く、将来戻ってくる可能性も否定できない場合には、失踪宣告よりは、不在者財産管理人の選任の方が安全と言えます。

ただし、不在者財産管理人選任には、「遺産分割だけをピンポイントで行うわけではなく、不在者の財産全般の管理が必要となるため、申立に必要な予納金も高額であり、事案も長期化しやすい」というデメリットがあります。

事案ごと、個別の事情ごとに、適した方法は異なりますので、相続人の中に行方不明者がいて、遺産分割が進められずに困っているという方は、一度、相続問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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