
人口減少と少子高齢化の時代を迎えるにあたり、人手不足解消のために外国人労働者を雇用する機会が増えていくことが予想される中、外国人労働者を雇用するにあたっては、労務管理上で注意すべき点がございますので、解説をいたします。
人口減少社会と外国人材の重要性

日本社会は、人口減少と少子高齢化の時代を迎えています。この構造的な課題は、特に中小企業にとって人手不足という形で経営の根幹を揺るがす喫緊の課題となっています。
このような状況下で、外国人労働者の受け入れは、もはや単なる「一時的な労働力補充」ではなく、持続的な事業成長と企業存続のための重要な戦略の一つとなっています。2023年時点で、日本国内の外国人労働者数は過去最高を更新し続けており、多くの企業にとって、外国人材との共存は「当たり前」の時代に入りました。
しかし、異なる文化、言語、法制度を持つ外国人労働者を雇用する際には、日本人労働者を雇用する以上に特有の労務リスクが存在します。
雇用前の重要確認事項:不法就労助長罪のリスク

外国人労働者を雇用する際、経営者が最も厳格に守らなければならないのが、在留資格と就労制限に関するルールです。これを怠ると、企業側が不法就労助長罪に問われるリスクがあり、3年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い罰則が科せられる可能性があります。
在留カードの確認徹底
まず、採用面接時および雇用契約締結前に、必ず在留カード(特別永住者の場合は特別永住者証明書)の現物を確認し、以下の3点を徹底的にチェックしてください。
- 在留資格: どのような活動が認められているかを確認します。(例:「技術・人文知識・国際業務」「特定技能」「永住者」など)。
- 在留期間: 期限が切れていないか、また、雇用開始までに更新手続が完了しているかを確認します。
- 就労制限の有無: カード裏面の「就労制限の有無」欄を確認します。
- 「就労不可」と記載されている場合:原則として雇用できません。
- 「在留活動による」と記載されている場合:資格に応じた職種・業務のみ可能です。(例:「留学」は原則不可ですが、資格外活動許可があれば週28時間以内など制限があります)。
雇用契約と労働条件の設定:公平性の担保

外国人労働者であっても、日本の労働基準法や最低賃金法が完全に適用されます。賃金、労働時間、その他の労働条件において、国籍を理由とした差別的取扱いは一切許されません。
労働条件の明示と言語の壁
労働契約の締結に際しては、労働条件を明示することが法律で義務付けられています(労働基準法第15条)。外国人労働者の場合、この「明示」のプロセスにおいて特別な配慮を行うのが望ましいです。
- 母国語または理解できる言語での明示: 労働条件通知書は、本人が内容を完全に理解できる言語で作成し、交付することが強く推奨されます。厚生労働省は、主要な言語(英語、中国語、ベトナム語、タガログ語、インドネシア語など)のモデル様式を提供しています。
- 専門用語の平易化: 日本語の専門的な労働用語(例:「所定労働時間」「割増賃金」「年次有給休暇の計画的付与」など)は、外国人にとって非常に難解です。平易な表現を用いるのが適切です。
賃金設定と最低賃金
「慣れていないから」「日本語が不自由だから」といった理由で、日本人労働者より低い賃金を設定することは、同一労働同一賃金の原則および最低賃金法に照らして不適切です。必ず、日本人労働者と同様の基準で賃金を設定し、最低賃金をクリアしていることを確認してください。
文化・言語の壁を乗り越える労務管理

外国人労働者の定着率を高め、生産性を向上させるためには、単に法律を守るだけでなく、異文化理解に基づくきめ細やかなサポートが不可欠です。
コミュニケーションと教育訓練
- 多文化理解の推進: 経営者自身が、宗教上の配慮(食事制限、礼拝時間など)や文化的な慣習(休暇の取り方、時間感覚など)について理解を示すことが、信頼関係構築の第一歩です。
- メンター制度の導入: 日本人従業員の中に、外国人労働者をサポートするメンターやバディを配置し、業務だけでなく、日常生活や役所手続きに関する相談に乗れる体制を整えます。これにより、孤立を防ぎ、定着率向上につながります。
- 日本語学習支援: 業務に必要な日本語能力の向上は、安全管理やチームワークに直結します。OJT(On-the-Job Training)だけでなく、日本語学習の機会を提供したり、費用を補助したりするなどの支援は、従業員のモチベーション向上とスキルアップに大きく貢献します。
労務トラブル事例と予防策
外国人労働者との間で発生しやすい労務トラブルには、以下のようなものがあります。
- 労働時間・残業代に関する認識の相違:
- 予防策: 始業・終業時刻、休憩時間、残業のルールを視覚的に分かりやすい資料(多言語の図解など)で明示し、毎日確認する習慣をつけます。曖昧な「サービス残業」は厳禁です。
- 有給休暇に関する誤解:
- 予防策: 日本の年次有給休暇の発生要件、付与日数、取得ルールについて、入社時だけでなく定期的に説明会を実施します。
- ハラスメント:
- 予防策: 文化的な背景から、日本人には冗談でも、外国人にはパワハラやセクハラと受け取られるケースがあります。全従業員を対象に異文化間のコミュニケーションに関する研修を実施し、企業全体でハラスメント防止意識を高めます。また、多言語対応の相談窓口を設け、安心して相談できる環境整備が不可欠です。
特定技能制度と外国人技能実習制度の理解

外国人材の雇用において、特に利用が多い特定技能制度と外国人技能実習制度については、経営者としてその制度趣旨と遵守事項を深く理解する必要があります。
特定技能制度:即戦力としての期待
特定技能制度は、特定産業分野における人手不足解消を目的とし、即戦力となる人材を受け入れる制度です。
- 特定技能1号: 最長5年間。一定の技能と日本語能力が必要です。
- 特定技能2号: 熟練した技能が求められ、在留期間の上限がなく、家族の帯同も認められます。
経営者の義務: 特定技能1号の労働者を受け入れる場合は、1号特定技能外国人支援計画を作成し、入管への申請時に提出する必要があります。これには、空港への送迎、住居の確保、生活オリエンテーション、苦情・相談への対応などが含まれます。この支援体制が不十分だと、特定技能外国人を受け入れられなくなるため、注意が必要です。
技能実習制度:人権侵害リスクの管理
技能実習制度は、「国際貢献」を目的として、日本の技能・技術・知識を開発途上国へ移転するための制度です。
- 新制度への移行: 技能実習制度は「育成就労制度」への移行が予定されており、我が国での3年間の就労を通じて特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的とします。
- 経営者の義務: 技能実習生は、転籍(転職)が原則制限されていることから、企業側による労働関係その他法令の違反がないよう、より厳格な管理が求められます。
まとめ:外国人材を「人財」とするために

外国人労働者の雇用は、法的な側面、文化的な側面、そして経営戦略的な側面の全てにおいて、より高度な労務管理能力を経営者に求めています。
| 経営者のチェックリスト | 実施事項 |
| 法的な確認 | 在留カードの現物確認と就労制限の厳守を徹底する。 |
| 契約の適正化 | 労働条件を母国語または理解できる言語で、明確かつ公平に明示する。 |
| 定着支援 | 多言語での相談窓口、メンター制度、日本語学習支援を実施する。 |
| ハラスメント防止 | 異文化理解を含むハラスメント研修を全従業員に義務付ける。 |
| 制度の理解 | 特定技能や技能実習制度の制度趣旨を理解し、適切な運用を行う。 |
外国人材は、日本の労働力不足を補うだけでなく、企業に多様性と新たな視点をもたらす貴重な「人財」です。彼らが安心して、そして意欲を持って働ける環境を提供することこそが、経営者にとっての最大の投資であり、この共存時代を乗り切るための鍵となるでしょう。
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