
交通事故に遭ってしまった際、幸いにも大きな怪我がなかったとしても、愛車が修理や廃車となると、日常生活の足がなくなってしまい、非常に困ります。そこで、「レンタカーを借りて、その費用を相手に請求できないだろうか?」とお考えの方は多いと思います。
結論から言えば、レンタカー代は相手保険会社から支払われる可能性が高いです。
しかし、無条件に全額が支払われるわけではありません。
このコラムでは、物損事故におけるレンタカー代の請求条件や、スムーズに支払ってもらうためのポイントをご案内いたします 。
そもそも、交通事故の「物損事故」って何?

交通事故後の手続きを進める上で重要になるのが、その事故が「物損事故」なのか「人身事故」なのか、という区別です 。
物損事故(物件事故)とは?
車両の損害
自動車やバイク、自転車などが破損した場合です 。バンパーが凹んだ、ドアが歪んだ、ヘッドライトが割れたといった外見の損傷だけでなく、内部の部品の破損も含まれます。
財物の損害
建物(家屋の壁、フェンスなど)、電柱、ガードレール、店舗の商品、車に積んでいたスマートフォンや荷物など、車両以外の物が破損した場合も含まれます 。
物損事故の場合、加害者側は基本的に、被害者が被った物の損害に対する賠償責任を負います 。主な賠償の対象は、修理費用、買い替え費用、代車費用、評価損(いわゆる「格落ち」)、休車損害などです 。
人身事故とは?
一方、人身事故とは、交通事故によって人が死傷した事故を指します 。
被害者だけでなく、加害者や同乗者など、事故に関わったいずれかの人が怪我をしたり、最悪の場合死亡してしまったりした場合に、人身事故として扱われます 。
もし事故に遭った際、少しでも身体に違和感がある場合は、その場で警察に「怪我はない」と伝えてしまうと、物損事故として処理されてしまうので注意が必要です。
後から痛みが出てきて人身事故に切り替えることも可能ですが、こうした無用な手続きを省くためにも、最初にお伝えしておくことが重要です。
なぜレンタカー代が認められるか?

物損事故におけるレンタカー代は、「事故と相当因果関係がある損害」として、加害者側が賠償する義務を負います。
これは、民法第709条の「不法行為による損害賠償」の原則に基づいています。
損害の填補
被害者の損害を回復するため、修理期間中に車両が使えないことで生じた不便を補うための費用として、レンタカー代が認められます。
代車の種類
代車とは、修理中の車両の代わりに一時的に利用する車両のことです。
レンタカー以外にも、知人から車を借りた場合の「使用料」なども代車費用に含まれる可能性があります。
ただし、現実的には客観的な費用が明確なレンタカーを借りるのが一般的です。
レンタカー代が認められるための条件

レンタカー代は無条件に請求できるわけではありません。相手保険会社は、以下の条件を厳しく審査します。
スムーズに支払ってもらうためには、これらの条件を満たす必要があります。
代車の必要性
これが最も重要な判断基準となります。
相手保険会社は「公共交通機関や家族の車で代替できないか」という視点から判断します。
認められる可能性が高いケース
・通勤や通学:車がなければ会社や学校に行けない、または著しく不便になる場合。
・通院や送迎:病院への通院や、お子さんの保育園・塾の送迎に車が必須である場合。
・仕事での利用:営業車や配送車、工事車両など、仕事で車が不可欠な場合。
・生活の拠点:自宅が公共交通機関から離れており、買い物や用事のために車がなければ生活が成り立たない場合。
認められない、または期間が限定されるケース
・普段は公共交通機関を利用しており、週末にしか車に乗らない場合。
・すでに代替となる車両(家族の車や社用車など)を持っている場合。
レンタカーの車種・クラスの妥当性
借りるレンタカーの車種やクラスは、事故に遭った車両と同等か、それ以下である必要があります。
具体的な判断基準
・同一車種・クラス: 相手保険会社は、事故車と同じ車種、または同じクラスのレンタカーを借りることを推奨します。
・例外: 事故車がミニバンで、家族構成上、同クラスのミニバンが必要であるといった合理的な理由があれば、軽自動車ではなくミニバンが認められることが多いです。
しかし、軽自動車の事故なのに高級セダンを借りるなど、明らかに事故車を上回るグレードのレンタカーは、その差額分が認められない可能性が高いです。
レンタカーの使用期間の妥当性
レンタカー代が認められる期間には、上限があります。その期間は、修理期間または買い替え期間が基準となります。
修理期間
修理工場が提示する合理的な修理期間が目安となります。修理が長引く場合は、その理由(部品の入荷遅れ、工場の混雑状況など)を保険会社にしっかりと説明することが重要です。
買い替え期間
事故車が全損で買い替えとなった場合、次の車両を購入・納車するまでの期間が対象となります。一般的には、1週間から2週間程度が目安とされており、それ以上長くなる場合は、なぜ納車に時間がかかるのかを具体的に証明する必要があります。
レンタカーを借りる前の重要ステップと注意点

「代車が必要だから」と自己判断でレンタカーを借りてしまうと、後から費用を請求できなくなるリスクがあります。以下のステップを踏むことが良いと思われます。
①相手保険会社に連絡
事故後、すぐに相手保険会社に連絡し、「代車が必要なこと」を伝えましょう。この一言が後々のトラブルを防ぎます。
②代車の種類・期間について確認
相手保険会社から、「いつから、どのくらいの期間、どのクラスのレンタカーを借りていいか」を必ず確認しましょう。
多くの保険会社は、提携しているレンタカー会社を紹介してくれます。
③レンタカー会社との契約
保険会社の指示に従い、レンタカーを借ります。
この際、レンタカー代は保険会社が直接レンタカー会社に支払う「立替払い」になることが多いです。この場合、自己負担は発生しません。
もし、相手保険会社が支払いを渋ったら?

相手保険会社が、代車の必要性や妥当な期間について異議を唱え、レンタカー代の支払いを渋るケースもゼロではありません。
このような場合は、冷静に対応することが重要です。
「代車は不要でしょう」と言われた場合
あなたの日常生活における車の必要性を具体的に説明します。
通勤経路、仕事での使用状況、病院への通院が必要なことなど、客観的に証明できるものがあれば提示しましょう。
「期間が長すぎる」と言われた場合
修理工場の見積書や、納車が遅れている理由(部品の入荷遅れ、工場の混雑状況など)を客観的に証明する資料を提出します。
それでも解決しない場合は、弁護士に相談することも検討すべきです。
特に、保険会社が提示する賠償額は、あくまで保険会社独自の基準(任意保険基準)に基づいていることが多いため 、弁護士が介入することで、過去の裁判例に基づいた適切な基準で交渉できる可能性があります 。
また、多くの自動車保険には「弁護士費用特約」が付帯しています 。この特約を利用すれば、ほとんどの場合、自己負担なしで弁護士に依頼することができ、保険料にも影響がないことがほとんどです。
もしもの時のために、ご自身の保険に特約が付いているか、確認をしていただくことが良いです。
レンタカー代以外で請求できる損害賠償項目

物損事故では、レンタカー代以外にもさまざまな損害が賠償の対象となります 。
修理費用または買替費用
事故で壊れた箇所の修理にかかる費用、または修理不能な場合の車両の買替費用です 。
評価損(格落ち損)
事故歴がつくことで、車両の市場価値が下がった分の損害です 。特に、人気の車種や高年式・低走行の車両、輸入車などの高級車で認められるケースが多いです。
休車損害
事業用車両(タクシー、トラックなど)が修理中のために営業できず、収入が減少した場合の損害です 。
積載物損害
車に積んでいた荷物(スマートフォン、ゴルフバッグなど)が破損した場合の損害です 。
レッカー費用
事故現場から修理工場などへ車両を運ぶのにかかった費用です。
まとめ

交通事故で愛車が使えなくなっても、レンタカー代は相手保険会社から支払われる可能性が高いです。
しかし、そのためには、レンタカーを借りる前に必ず相手保険会社に連絡し、指示を仰ぐこと、そして事故車と同等の車種・クラスを選ぶことが何よりも重要です。
もし、ご自身での対応に不安がある場合や、保険会社との交渉がうまくいかない場合は、一人で抱え込まず、交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
特に、弁護士費用特約が付いている場合は、積極的に活用すべきです 。正しい知識と専門家のサポートがあれば、その後の対応をスムーズに進めることが期待できます
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