
「公正証書遺言があれば相続は安心」とは限りません。ある姉妹は「不動産はすべて次女に」という遺言をきっかけに関係が断絶しました。
しかし、弁護士が双方の代理人となり、感情的な対立を避けつつ交渉を開始。法的に保障された最低限の取り分である「遺留分」を根拠に、不動産の評価額に相当する金銭での解決を模索しました。
結果、不動産は遺言通り妹が取得し、姉は約1500万円の支払いを受ける形で円満に解決。本コラムでは、この実例を基に、一枚の合意文書の裏にある葛藤と、専門家だからこそ描ける未来志向の解決策を、弁護士が詳しく解説します。
「公正証書遺言さえあれば、相続で揉めることはない」というのは本当ですか?

多くの方が、そう信じていらっしゃいます。
しかし、法律の専門家として数々の相続案件に携わる中で、私はその「神話」が、時として残酷な現実を招く場面を目の当たりにしてきました。
遺言書は、故人の最後の意思として尊重されるべきもの。ですが、その一枚の紙が、長年連れ添った家族の絆を、修復不可能なまでに引き裂いてしまうことがあるのです。
今回ご紹介するのは、まさにそのような、深刻な感情的対立の末に、弁護士が介入することでようやく着地点を見出した、あるご家族の物語です。
一枚の「遺産分割協議書」の中に記された数字や法律用語は無機質に見えるかもしれません。しかしその行間には、壮絶な葛藤と、再生への祈りが込められています。
「なぜ、妹だけに…」―公正証書遺言が招いた断絶

お父様が亡くなられた後、長女のAさんと、次女のBさんの間で相続が始まりました。お父様は生前、ご自身の意思を明確にするため、公証役場で作成した、法的に最も信頼性が高いとされる「公正証書遺言」を遺されていました。
その遺言書には、こう記されていました。
「主な財産である不動産(実家)は、次女Bに相続させる」
おそらく、そこにはお父様なりのお考えがあったのでしょう。晩年、お父様の身の回りの世話をし、同居していたのは次女のBさんでした。「最後まで面倒を見てくれた娘に、安心して住める家を遺したい」。その親心は、痛いほど理解できます。
しかし、遠方で家庭を築いていた長女Aさんにとって、その遺言は到底受け入れられるものではありませんでした。
「私だって、父さんが心配で何度も電話していた。帰省のたびに、できる限りのことはしてきたつもりだ。それなのに、なぜ…」
問題は、単純な金額の不公平さだけではありませんでした。その不動産は、姉妹が生まれ育った、かけがえのない思い出の詰まった実家です。そのすべてが一方的に妹のものになるという事実は、Aさんにとって、父親からの最後の「拒絶」のように感じられたのです。
電話口でのお互いをなじる言葉の応酬。送られてきた手紙には、これまでの鬱憤が綴られ、感情の溝は決定的なものになりました。かつては仲の良かった姉妹の対話は、完全に途絶えました。
弁護士が「翻訳家」となり、交渉のテーブルを作り出す

遺言は存在する。しかし、感情のしこりは日に日に固くなっていく。
当事者同士での解決が不可能だと悟った姉妹は、それぞれ別の弁護士に未来を託しました。これが、解決への最も重要な転換点でした。
弁護士は、まずお互いの「盾」となり、直接の感情的な衝突を避けるための緩衝材となります。そして、依頼者の「悔しい」「悲しい」「分かってほしい」という感情的な言葉を、「法的には、これだけの権利が保障されています」という客観的な法律言語に翻訳していくのです。
Aさんの代理人弁護士は、直ちに財産を評価し、Aさんの「遺留分」(法律で保障された最低限の取り分)を算出しました。それは、単なる「不公平だ」という感情論ではなく、「私には、法的に約1500万円を受け取る権利がある」という、揺るぎない交渉の土台となりました。
一方、Bさんの代理人弁護士は、「お父様の遺志を尊重したい」というBさんの気持ちを受け止めつつも、遺留分を無視し続けた場合のリスク(長期化する裁判、高額な弁護士費用、そして最終的には敗訴する可能性)を冷静に説明しました。
凍り付いていた姉妹の関係は、弁護士という「翻訳家」を介することで、ようやく「交渉」というステージへと移行できたのです。
1500万円~合意文書に刻まれた「現実的な落としどころ」

数か月にわたる両代理人間の交渉の末、姉妹はついに合意に至ります。その到達点が、遺産分割協議書です。
そこには、極めて現実的で、緻密な解決策が記されていました。
まず、遺言どおり、不動産は次女Bさんが取得する 。お父様の最大の願いは、ここに尊重されました。
その代わり、長女Aさんは、不動産の価値に相当する約1000万円を、お父様の遺した預貯金から受け取る 。
Bさんが立て替えていた葬儀費用などを預貯金から精算し 、残った預貯金と死亡保険金(100万円)を公平に分け合う 。
その結果、Aさんが受け取る金額の合計は約1500万円となる 。Bさんは、その支払いを【令和7年●月末まで】という、資金を準備するための猶予期間を得て、指定された口座へ振り込む 。
この合意は、Bさんが思い出の実家を売却することなく、Aさんが法的に保障された権利を金銭で確保するという、まさに「Win-Win」の解決でした。もし弁護士がいなければ、感情的な対立の末に不動産を競売にかけ、姉妹の元にはわずかなお金と、修復不可能なほどの憎しみしか残らなかったかもしれません。
まとめ~最良の解決は、法律と心の両輪から~

この協議書の最後の条項には、「本協議書に定めるものを除き、甲乙間に何らの債権債務が存在せず、互いに金銭その他の請求をしないことを確認する」 とあります。これは「清算条項」と呼ばれ、この合意をもって、すべての紛争を過去のものとする、という法的な約束です。
遺言書は、時として家族の間に残酷な問いを投げかけます。
もし、あなたが相続の問題で「納得できない」「どうしていいか分からない」と悩んでいるのなら、どうか一人で抱え込まないでください。法律の専門家である弁護士は、あなたの法的な権利を守るだけでなく、絡み合った感情の糸を解きほぐし、未来志向の解決策を共に探す伴走者となります。
一枚の合意文書の裏には、必ず、そこに至るまでの家族の物語があります。その物語を、憎しみや断絶で終わらせないために。私たちは、法律と心の両面から、あなたにとって最良の解決を導き出すお手伝いをいたします。
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