
遺産分割において、生前贈与を受けた相続人(特別受益者)がいる場合、他の相続人との間で不公平感が生じ、話し合いが難航することがあります。このような場合、特別受益の持ち戻しをどのように扱うかが争点になります。また、不動産がある場合は、遺産分割の方法とそのための手続きを検討する必要がありますので、事例を参照しながら解説します。
事例の内容
- 被相続人の資産: 預金5,000万円、不動産5,000万円。合計1億円。
- 相続人: 子供3人(配偶者なし)。
- 特別受益: 子供の1人(以下、長子)が住宅資金として1,000万円を受領。
この事例では、長子が、生前贈与を受けており、他の相続人との間で不公平感が生じ、話し合いが難航しました。このような場合、特別受益の持ち戻しをどのように扱うかが争点になります。
特別受益の持ち戻し計算

特別受益を考慮した法定相続分は以下の通りです。
- みなし相続財産の計算: 遺産総額1億円 + 特別受益1,000万円 = 1億1,000万円。
- 各相続人の法定相続分: 1億1,000万円 ÷ 3人 = 3,666万6,666円。
- 長子の取得分: 3,666万6,666円 – 1,000万円(特別受益)= 2,666万6,666円。
- 他の子供2人の取得分: それぞれ3,666万6,666円。
この計算に従えば、最終的な遺産1億円の分割方法は、預金や不動産を調整して以下のようにするのが原則です。
- 長子: 2,666万6,666円
- 他の子供2人: それぞれ3,666万6,666円
※特別受益に該当する生前贈与とは
特別受益に該当する生前贈与は、遺産の前渡しと評価できる、特定の相続人に対する特別かつ多額の贈与です。一般的な扶養義務の範囲内での援助や、社会通念上相当と認められる程度の贈与は特別受益とはみなされません。
特別受益に該当する具体的な生前贈与は、主に以下の2つの種類に分けられます。
1. 婚姻・養子縁組のための贈与
結婚や養子縁組に際して提供される、多額な贈与が該当します。
婚姻: 結婚持参金、高額な結納金、結婚式の費用、新居購入資金の援助など。ただし、結婚祝いとしてごく一般的な範囲内で渡された金銭は特別受益にはあたりません。
養子縁組: 養子縁組に際して贈与された持参金や支度金など。
2. 生計の資本としての贈与
特定の相続人の独立した生活基盤を築くための、多額な援助や贈与が該当します。
不動産の贈与: 土地や建物の購入資金の援助、または不動産そのものの贈与。
不動産の無償貸与: 特定の相続人に対し、被相続人所有の不動産を無償で貸し与えること。
事業資金の援助: 事業を開始するにあたって、多額の資金援助を受けた場合。
多額の現金贈与: 年間の非課税枠(110万円)を超えるような多額の贈与はもちろん、非課税枠内の贈与であっても、それが長期間にわたり繰り返し行われ、合計額が高額になる場合は特別受益とみなされる可能性があります。
特別受益の存在を否定する場合の解決の方法

事例では、亡くなった方の自宅に預金通帳が残されておりましたが、長子が特別受益の存在を認めず、他の2人が精神的負担を感じていました。そこで、弁護士が介入して、預金通帳を示して、長子に1000万円が送金されている事実が存在することを長子に説明したところ、長子の側が特別受益の存在を考慮した分割の方法を了承するようになりました。
※解決のためのポイント
特別受益の存在が問題となる事例では、その存在を立証するために、過去の預金通帳、贈与契約書、不動産登記簿謄本など、特別受益の証拠となるものを集めることが重要です。
不動産の代償分割

遺産に不動産が含まれる場合、単純な現金分割は困難です。この事例では、不動産を長子が取得し、他の相続人に現金(預金)で代償金を支払う「代償分割」を行いました。
長子が不動産を相続する代わりに、5000万円-2666万6666円=2333万3334円÷2=1166万6667円を他の2人それぞれに代償金として支払うこと、及び、他の2人が5000万円の預金を2等分することを提案し、他の2人はこれを受け入れました。
この事例では、長子が亡くなった方と同じ地域で長年会社を経営し、亡くなった方の不動産を売却せずに残したいと希望しました。また、代償金を支払えるだけの資金も用意することができましたので、代償分割という形での解決となりました。
※不動産の遺産分割のポイント
相続財産に不動産が含まれる場合、法定相続分通りに均等に分割することは現実的ではありません。
代償分割: 1人の子が不動産を相続し、他の子に法定相続分に応じた金銭(代償金)を支払う方法です。ただし、代償金を支払う側に十分な資金がなければ成立しません。
換価分割: 不動産を売却し、売却代金を均等に分割する方法です。相続人全員が合意すれば可能ですが、思い入れのある不動産を売却することに反対する子がいると話がまとまりません。
共有: 複数の子で不動産を共有する方法です。相続後も管理や処分をめぐって意見が対立しやすく、将来的なトラブルの原因となるため、避けるべき方法とされます。
まとめ

特別受益が存在しますと、他の相続人が不公平を感じて遺産分割が揉めることがあります。また、遺産に不動産が存在しますと、その分割の方法をどのようにすべきかを検討する必要があります。これらの問題につきましては、上記の事例や解説を参考にして頂くと良いと思います。
また、相続人が特別受益の存在を否定する場合は、その事実をどのように立証すべきかという問題が生じ、弁護士が介入しなければうまくいかないということも想定されますので、お悩みの場合はぜひご相談を頂けますと幸いです。
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