
こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。
遺産分割が完了していない共有不動産から賃料収入や管理費・修繕費が発生した場合、「その収益は誰のものか」、「管理費・修繕費は誰が負担するのか」が相続人間でトラブルになりがちです。この点、遺産分割未了の賃料債権については、最高裁平成17年9月8日の判例において、「相続人全員がその法定相続分に応じて賃料を分割して取得する」と判断されています。そこで、本コラムでは、民法や最高裁の判例を基に、「賃料債権の帰属」、「管理費用の負担」、「相続人が注意すべき法律的ポイント」を解説していきます。
遺産分割前の不動産に生じた賃料は、誰のものか?

遺産分割前に生じた賃料債権は、共同相続人全員がその法定相続分に応じて分割され、単独の債権として取得するものであり、一人の相続人が独占するものではないとされています。また、「管理費・修繕費」など、相続財産に関する費用は、相続人全員で共有して負担すべきものになります。
遺産分割未了の不動産の賃料債権について判断した判決

この点について参考となるものとして、下記の裁判例があります。
最高裁平成17年9月8日判決(預託金返還請求事件)は、「相続開始から遺産分割までの間に共同相続人の共有不動産から生じる賃料債権は、各共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する」と判断しました。すなわち、遺産分割前の賃料債権については、後になされた遺産分割の効力にも影響されず、相続人それぞれが請求できる債権ということになります。
遺産分割未了の不動産についての管理費などについては?

民法885条では、「相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する」と定められています。したがって、遺産分割未了の共有不動産については、固定資産税・管理費・修繕費などの費用は、まず遺産から支払われるべきものといえます。
具体的に紛争となるケースとは?

よくあるケースとして、ある共同相続人が、遺産分割前のマンションの賃料を他の相続人に知らせずに受け取り、その後の遺産分割協議で問題となることがあります。この点、上記の通り、遺産分割前の賃料は、共同相続人全体のものであり、法定相続分に応じて他の相続人にも分配すべきといえます。
また、共有不動産の管理費や修繕費を一人が立替えて支払いを続けたケースでは、まずは、他の相続人に対して、その立替え分の支払いを求める必要があるでしょう。
相続人として負担やトラブルを回避するための対応策とは?

では、遺産分割前の共有不動産がある場合に、相続人間で紛争とならないためには、どのような点に注意をしたらよいのでしょうか。具体的には、下記に挙げた3点を注意することで、相続人間のトラブルを未然に回避することができると考えられます。
①賃料収入や管理・修繕費などの収支について、領収書や明細書を含めて記録しておくこと。
②遺産分割未了の共有不動産からの収益および発生する費用に関しては、共同相続人間で分配・負担方法を遺産分割協議書に明記すること。
③遺産分割協議が難しい場合には、調停や審判、あるいは訴訟を見据えて弁護士に相談し準備しておくこと。
まとめ

遺産分割前の共有不動産から得られる賃料収入は、最高裁判例に基づき、共同相続人全員が法定相続分に応じて取得する債権となります。また、管理費・修繕費などの相続財産に関する費用は、まず遺産から支払われるべきで、不足があれば相続人が負担分を清算されるべきといえます。この点、遺産分割前の不動産について誤った扱いをすると、他の相続人とのトラブルや金銭的負担が大きくなる可能性があるため、早い段階で法律の専門家である弁護士に相談し、公正な分配・管理方法を確立することがおすすめといえます。
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