不貞慰謝料請求のための探偵費用は相手に請求できる?

配偶者の不貞が疑われるとき、不貞相手と配偶者の行動調査のため、探偵を雇う、ということもあるでしょう。この探偵費用については、不貞慰謝料請求の裁判で相手方に支払い請求してもらえるのでしょうか。実際の裁判例の傾向などを基に、解説していきます。

不貞慰謝料請求のためにかかった探偵費用、相手に請求したら払ってもらえるの?

そもそも不倫とは

そもそも不倫とは

不倫は、法律上は「不貞」などとも表現されていますが、民法上の不法行為に該当するものです。

その意義としては、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」とされています。

不倫によって生じる責任

不倫によって、夫婦のうち当該不貞行為をした側と、その不倫相手にはそれぞれ責任が生じます。

不貞行為をした配偶者の側は、民法上の「離婚事由」に当たる行為をした、という意味で責任を負っていますし、不貞行為によって配偶者に精神的苦痛を与えたとして、慰謝料を支払うという責任もあります。

不倫相手についても、同じように慰謝料を支払うべき義務を負うといえます。

慰謝料そのものとは別に、探偵費用を請求できる?

慰謝料そのものとは別に、探偵費用を請求できる?

不貞行為により損害を受けたとして、その主張を裏付けるために必要だった調査費用が損害賠償請求において「損害」に含まれるかどうか、最高裁判所で判断されたものはありません。

訴訟の場合「鑑定」という専門家による調査や意見報告がなされた場合、その鑑定のためにかかった費用が裁判で負けた側の負担とされることは多いのですが、そもそもそれは「専門家の意見が必要とされるくらい複雑」といえるからとも考えられます。

そうであるとすると、不貞行為の有無に絞った「探偵費用」はどうなるのでしょうか。

不貞慰謝料請求事件における探偵費用

裁判例には、「損害」とは認められず、賠償の対象にならないというものが多いようです。

最高裁判所の解説においても、

「実務上、不貞慰謝料が請求される事件において、不貞の調査費用が不貞行為と因果関係のある損害として請求されることがあるが、…不貞慰謝料が請求される場合であっても、そもそも調査費用は不貞行為の証拠収集のために要した費用にすぎない上、不貞行為がされた場合に、通常そのような依頼がされるという関係があるとも認めがたく、相当因果関係があるとはいえないだろう。」

と示されたものがあります。

相当因果関係、つまり「あれなければこれなし」という因果関係の中でも「その行為から通常(・・)、その結果が生じるといえる」という範囲にはなかろう、というのが不貞慰謝料における探偵費用の位置づけと裁判所は考える傾向にあるようです。

裁判例の傾向

裁判例の中には、不貞慰謝料請求のためにされた探偵費用について、多くのケースで損害とは認めずに賠償責任を否定していますが、逆に認めているケースもあります。

そこで、このような差がどこから生じるのか、裁判例を分類してみたいと思います。

類型的に探偵費用の損害性を否定するもの

このような裁判例は、そもそも「立証」のために必要な費用は、原告(訴訟を提起する側)が負担すべきであり、さらにその不貞行為の有無確定のためには専門性は必要ないので、探偵費用がかかることは損害ではない、と考えているようです。

事案の内容に応じて損害性を否定するもの

これに対して、「探偵による調査」でなくても不貞の立証が可能だとして相当因果関係を否定するものもあります。

探偵に頼らずとも、配偶者のメールや着信履歴などから不貞が発覚することもあり、探偵ではなくても不貞行為を立証できる、と考えるのです。

探偵費用の損害性を肯定するもの

これらの考え方とは逆に、探偵による調査以外での立証の困難性や、調査結果の立証上の有用性を前提に、損害だとして賠償を認めたものもあります。

ただし、必ずしもかかった探偵費用全額を認めているというわけではなく、一部認容としたり、総額が小さいことからその額全額を認めている、という傾向にあるようです。

探偵費用につき裁判例の判示

探偵費用につき裁判例の判示

では、実際に探偵費用を損害と認めたかった裁判例ではどのように調査費用を評価しているでしょうか。

探偵費用を損害と認容していないもの

例えば、

「当該調査費用が避けることのできない支出であったと認めるには足りず、一種の訴訟準備費用に当たるものと解されるから…相当因果関係を認めるに足りない。」

「調査費用は本件請求に関する証拠収集のための費用であり、いかなる証拠を収集するかは専ら原告の判断によるものであるから、本件不貞行為と相当因果関係のある損害といえない。」

「原告が探偵業者に依頼して取得した調査報告書が、頑強にAとの不貞関係を否定する被告の不貞行為の事実の立証のために不可欠の役割を果たしたことは否定できないとしても、この種の不貞事案における探偵業者を通じた調査結果の取得は、詰まるところ、不法行為の被害者置ける立証手段の獲得に尽きるのであるから…これを当然に加害者の不法行為と相当因果関係のある損害に当たると捉えるのは困難というべき」

などとしています。

探偵費用を損害と認容しているもの

逆に、探偵費用を損害として認容している裁判例では、

「被告及びAが共に本件不貞行為の存在を否認していることに鑑みると、原告が被告の不法行為責任を追及するに当たり、被告及びAの行動調査を依頼し、その調査結果を取得する必要は高かったといえるから…本件不貞行為に係る被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。」

「原告はAの不貞行為を疑いつつ、その決定的な証拠を得られず、また、不貞行為の相手方である被告の氏名住所等の情報も乏しかったため、探偵業者にAの素行調査を依頼することとしたこと、それにより被告とAの不貞行為が確認されたこと、…当該調査の内容等に鑑みると、当該調査費用864,000円のうち40万円について、被告とAとの不貞行為と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。」

裁判例の総合判断

裁判例の総合判断

以上、裁判例によれば必ずしも訴訟において不貞行為を疑った原告が探偵に依頼したために負担した調査費用といえども損害とは認めていないのですが、当事者が不貞行為を否定し、調査をせざるを得ない状況であったこと、その結果不貞行為が発覚したという経過があったこと、調査内容として妥当で費用も高額とはいえない場合には、その調査が必要であったであろうと判断できる範囲で一部ないし全額の調査費用を賠償するよう判断されているようです。

これらの傾向を踏まえると、探偵費用は賠償額の中で認められる場合もあるけれども、認められたとしても相手方に全額負担させられるとは限らないので、他に不貞行為を確認しようがないケースに限り、どの程度必要性があったのか、調査費用の額の妥当性なども考慮しつつ、探偵に依頼するかを決めるというのが良いといえるでしょう。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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