
労働災害により手指を骨折した場合、どのような後遺障害が認定される可能性があるのでしょうか。また、会社に対してどのような賠償請求をすることができるのかについても解説します。
1 手指の骨折のケガが起こるケース

労働災害とは、労働者が、労働をしている時や通勤の途中に起きた事故によって、ケガをする、病気になる、あるいは、お亡くなりになることをいいます。
労働者には、正社員のみならず、パートやアルバイト、契約社員などの形態により雇用されている者も対象に含まれます。
手指の骨折という労災事故が起こる具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 工場での作業中に、プレス機に指を挟まれて大ケガを負った。
- 高所での現場作業において、足場が滑って転落し、手を地面についたときにケガを負った。
- 他の従業員による不注意により、手に重量物が落ちてきた。
2 該当する後遺障害

手指を骨折した場合、懸命に治療を続けたにもかかわらず、後遺障害が残ってしまう可能性があります。
このようなケースでは、手指が動かしにくくなったという「機能障害」や、手指に痛みや痺れが残ったという「神経障害」といったものがあります。
⑴ 機能障害
機能障害の場合、その程度に応じて、以下の後遺障害等級に該当する可能性があります。
4級6号 両手の手指の全部の用を廃したもの
7級7号 1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
8級4号 1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
9級9号 1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
10級6号 1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
12級9号 1手の示指、中指又は環指の用を廃したもの
13級4号 1手の小指の用を廃したもの
14級7号 1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの
なお、「手指の用を廃したもの」とは、手指の末節骨の半分以上を失い、または、中手指節関節もしくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すものを指します。
⑵ 神経障害
神経障害の場合も、その程度に応じて、以下の後遺障害等級に該当する可能性があります。
12級12号 局部にがん固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの
3 後遺障害等級認定とは

⑴ 労災保険への申請
「労働者災害補償保険法」という法律の第1条は、次のように規定しています。
「労働者災害補償保険は、業務上の事由、(中略)又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、(中略)又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」
このように、労災保険は、労働者が仕事中(通勤途中も含みます。)にケガをしたり、病気になったとき、お亡くなりになったときに、必要な補償を受けられるようにして、労働者やご遺族の生活を守る制度です。
そのため、企業には、労災保険への加入が義務付けられています。
そこで、労働災害が発生したときには、労働基準監督署に対し、労災保険給付を申請することになります。
⑵ 労災が認定される要件
業務中に発生した事故が労災として認められるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」という2点がポイントになります。
「業務遂行性」とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で起きた事故である、ということを言います。
例えば、工場で大きな機械を操作する際に、操作ミスにより手が機械に巻き込まれてしまい、骨折したということであれば、業務遂行性は認められることが多いのではないかと思われます。
「業務起因性」とは、業務に伴う危険が現実化したこと、つまり、業務と結果(ケガや病気、死亡)の間に因果関係があることを言います。
工場内において、機械を作業している際の事故であれば、一般的には業務起因性は認められやすいと思われます。
一方で、本人の私的行為、業務から逸脱した行為、規律に違反する行為等は、業務起因性を否定する事情になりえます。
⑶ 労災が発生した場合の給付請求の方法

給付の内容に応じて、労働基準監督署へ給付申請を行うことになります。
申請後、労働基準監督署の判断を経て、支給の決定がなされれば、給付を受けることができます。
例:
①療養(補償)給付
労災病院や労災指定病院等を受診・治療する場合には、当該病院に「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を提出し、請求します。
それ以外の医療機関を利用して受診・治療した場合には、費用を立て替えた上で、労働基準監督署に「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を提出し、請求します。
例えば、治療費や薬代、器具の費用、施術費用などが給付の対象になります。
②休業(補償)給付
労働基準監督署に「休業(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します。
③障害(補償)給付
労働基準監督署に「障害(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します。
④傷病(補償)年金
労働基準監督署が職権で行うため、請求は必要ありません。
⑤介護(補償)給付
労働基準監督署に「介護(補償)給付支給請求書」を提出し、請求します
書類の様式や記載する内容等に不明な点があれば、労働基準監督署の窓口等で相談しながら申請手続きをすることもできます。
もっとも、手続きが煩雑であると思われる方もいらっしゃると思います。そのような場合には、弁護士に依頼することもできます。
⑷ 後遺障害等級認定とは
「後遺障害等級の認定」とは、労働災害によって負ったケガや病気が治った後も、身体等に一定の障害(後遺障害)が残ってしまった場合に、その障害の程度について、労働基準監督署が認定する制度です。
認定までの流れとしては、以下の通りです。
症状固定(治療を続けてもこれ以上の改善が見込めない段階)
↓
後遺障害診断書の作成
↓
労働基準監督署に対して申請
↓
労働基準監督署による審査
↓
等級の認定
⑸ 適正等級を獲得する重要性
労働基準監督署により後遺障害等級が認定されると、1~7級については障害補償年金、8~14級については障害補償一時金が支給されます。
また、後遺障害が残ってしまった場合、後遺障害慰謝料や逸失利益など、損害額が大きくなる可能性があります。
逸失利益については、基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間で計算します。
慰謝料や労働能力喪失率の目安は、こちらのサイトをご覧ください。
このように、後遺障害が認定されるか否か、また、どのような等級が認定されるかによって、受け取ることができる賠償の内容が大きく変わってきます。
4 会社に損害賠償請求する場合

⑴ 後遺障害が残ってしまった場合の会社への損害賠償請求
後遺障害が残ってしまった場合、上記の後遺障害慰謝料や逸失利益といった損害が発生します。
また、休業損害の一部(労災保険により給付されない部分)や慰謝料などについては労災からは支給されないように、労災給付は十分な補償とは言えません。
そのため、労災から給付されない部分については、会社への損害賠償請求を検討することになります。
会社には、「安全配慮義務(労働者が安全かつ健康に働くことができるように配慮する義務)」があります。
例えば、会社側が何らの安全対策も取らないまま作業をさせ、結果として手指を骨折するような大事故が起きた場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。
また、事故の態様によっては、「不法行為責任(事故の原因が企業の活動そのものを原因とするような場合や、現場の環境・設備に危険があった場合などに認められる責任)」や「使用者責任」が認められるケースもあります。
これらを根拠として、勤務先の会社に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。
⑵ 会社への損害賠償請求が認められた裁判例
① 東京地方裁判所令和3年3月17日判決
原告が、被告会社が運営するリサイクル工場において、他の従業員らと共に、金属製の縦型圧縮梱包機を用いて梱包作業を行っていた際、下降してきた本件機械に左手を挟まれ、左第4・5指中手骨骨折等の傷害を負った事案。
本件事故における他の従業員の過失を認めるとともに、会社の使用者責任を認めたうえで、約321万円の損害賠償が認められました。
(なお、被災労働者の過失も相当重いとして、5割の過失相殺をしたうえで、上記金額が認容されました。)
② 旭川地方裁判所令和2年8月31日判決
製麺業務に従事中、会社が管理する製麺機に左手を巻き込まれる本件事故により、左手示指遠位指節間関節開放性脱臼骨折及び左中指末節骨開放骨折の傷害を負った事案。
本件製麺機の危険性を十分に教育したとは認められないなどとして安全配慮義務違反を認めた上で、約365万円の損害賠償が認められました。
(なお、被災労働者の過失割合は3割とし、受領済みの保険金を控除して、上記金額を認容しました。)
なお、上記の2つの裁判例では、いずれも後遺障害12級が認められています。
5 【まとめ】労働災害に遭ってしまった際は、ぜひ弁護士へ相談を

労災事故において、手指を骨折するような大事故に遭ってしまった場合には、生活に大きな影響が生じる可能性があります。
一方で、労災給付の額も、大きくなる可能性があります。
また、会社に対して損害賠償請求をすることができる可能性もあります。
一方で、過失割合や逸失利益などの点では、会社側と争いになる可能性もあります。
そのため、早期に専門家による適切な助言を受けることが重要です。
心当たりのある方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。
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