廃棄物処理法上、廃棄物の不法投棄が禁じられています。もっとも「廃棄物ではない有価物」を保管しているだから不法投棄にあたらないとの反論がなされることがあります。以前紹介した「おから事件」以降の重要な裁判例を踏まえた境界線の考え方を紹介します。

廃棄物の適正処理義務

廃棄物処理法上の規定

廃棄物処理法第16条において、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」と定められています。

そして、これに違反すると、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処せられ、あるいは、双方とも科せられる(併科)されるものと定められています(廃棄物処理法第25条14号)。

さらに、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関して不法投棄を行った場合、その法人自体も罰金刑を科せられることになります(廃棄物処理法第32条)。その刑罰の内容は、「3億円以下の罰金刑」(廃棄物処理法第32条1項1号)とされており、非常に厳しいものとなっています。

廃棄物の排出事業者の自己処理

事業活動によって生じた廃棄物については、排出事業者の自己処理が原則とされています(廃棄物処理法11条1項、3条1項)。

廃棄物処理法11条1項

事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない。

廃棄物処理法3条1項

事業者は、その事業活動に伴つて生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。

そのため、廃棄物の自己処理に違反する行為・潜脱する行為が、廃棄物処理法上の不法投棄として刑罰をもって禁止されています。

廃棄物の定義

廃棄物処理法上の規定

廃棄物処理法第2条1項において、廃棄物について次のように定義付けられています。

「この法律において「廃棄物」とは、ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)をいう。」

ごみや汚泥等の具体的なものに加え、「不要物」が廃棄物にあたります。そこで、「不要物」とは何かが問題になります。

総合判断説の定立

いわゆる「おから事件」(最高裁判所第2小法廷決定平成11年3月10日)において、「不要物」についての判断方法が判示されました。

「産業廃棄物について定めた廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成五年政令第三八五号による改正前のもの)二条四号にいう「不要物」とは、自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。」

総合判断説の5要素の具体化

その後「廃棄物」性が争点となった事案で、おから判決で判示された総合判断説の5つの要素を具体化・敷衍した判断がなされました(徳島地判平成19年12月21日)。

木製品を製造している原告が、自社工場内において発生した木くずの一部をボイラー形式の設備で燃焼して蒸気を発生させ、これを同工場内のプレス施設や乾燥施設の熱源として利用していたところ、徳島県知事が、上記設備の改善及び使用停止命令並びに必要な改善がなされないまま、同設備を継続して使用していたことを理由とする設置許可取消処分の取消しを求めた事案です(判例秘書L06250539判示事項抜粋)。

争点

本件各処分の内容の適法性(本件木くずが廃棄物処理法上の「廃棄物」に該当するか否か。)が問題となりました。

「本件各処分は,本件ボイラーが廃棄物処理法施行令附則・・・2条2項にいう「特定産業廃棄物焼却施設」に該当することを前提としているが,そもそも本件木くずが廃棄物処理法上の「廃棄物」でなければこのような「特定産業廃棄物焼却施設」に該当する余地がなくなり,本件各処分がその根拠を失うから,・・・本件木くずの「廃棄物」該当性こそが本争点において中心的に検討されるべき事項となる。」

争点に対する判断

「廃棄物処理法2条にいう「廃棄物」とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,廃棄物に該当するか否かは,①その物の性状,②排出の状況,③通常の取扱い形態,④取引価値の有無及び⑤事業者の意思等を総合的に勘案して決するべきものと解される(平成5年政令第385号による改正前の廃棄物処理法施行令2条4号にいう「不要物」の意義に関する最高裁判所第二小法廷平成11年3月10日判決[刑集53巻3号339頁]参照)。」

このように、本判決においても、おから判決で示された総合判断説の規範を用いて判断されています。

総合判断説の判断要素の具体化

「このような「廃棄物」該当性の判断において,上記①ないし⑤の判断要素を具体的に検討するに当たっては,「物の性状」につき,当該物が利用用途に要求される品質を満足し,かつ飛散,流出,悪臭の発生等の生活環境保全上の支障が発生するおそれのないものであるか否か,「排出の状況」につき,当該物の排出が需要に沿った計画的なものであり,排出前に適切な保管や品質管理がなされているものであるか否かなどの観点を踏まえるべきである。また,「通常の取扱い形態」及び「取引価値の有無」については,排出業者が自ら利用する場合以外の場合には,製品としての市場が形成されており,廃棄物として処理されている事例が通常は認められないものであるか否か,当該物が占有者と相手方の間で有償譲渡がなされており,当該取引に客観的合理性があるものと認められるか否かなどの観点を踏まえるべきであるが,排出業者が自ら利用する場合には,必ずしも他人への有償譲渡の実績や市場の形成等を前提にすることなく,通常の取扱い及び個別の用途に対する利用価値などの観点を踏まえるべきである。さらに,「事業者の意思」については,客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る事業者の意思として,適切に利用し若しくは他者に有償譲渡する意思が認められる,又は放置・処分の意思が認められないものであるか否かなどの観点を踏まえるべきであり,以上の観点を踏まえ,総合考慮して「廃棄物」該当性を判断すべきものと解する。」

このように、おから判決における判断要素について、要素毎に敷衍して具体化したのが本判決です。

①その物の性状
当該物が利用用途に要求される品質を満足し,かつ飛散,流出,悪臭の発生等の生活環境保全上の支障が発生するおそれのないものであるか否か。

②排出の状況
当該物の排出が需要に沿った計画的なものであり,排出前に適切な保管や品質管理がなされているものであるか否か。

③通常の取扱い形態・④取引価値の有無
ア 排出業者が自ら利用する場合以外の場合
(ア) 製品としての市場が形成されており,廃棄物として処理されている事例が通常は認められないものであるか否か。
(イ) 当該物が占有者と相手方の間で有償譲渡がなされており,当該取引に客観的合理性があるものと認められるか否か などの観点を踏まえるべきである
イ 排出業者が自ら利用する場合
必ずしも他人への有償譲渡の実績や市場の形成等を前提にすることなく,通常の取扱い及び個別の用途に対する利用価値などの観点を踏まえるべき

⑤事業者の意思
客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る事業者の意思として,適切に利用し若しくは他者に有償譲渡する意思が認められる,又は放置・処分の意思が認められないものであるか否かなどの観点を踏まえるべき

あてはめ

①その物の性状

本件ボイラーは木くずそのものを燃料としているものであり・・・実際に本件工場の熱源として利用されていること・・・などからすれば,本件木くずは本件ボイラーの燃料として利用されるべき品質を備えているものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。」

「・・・収集から燃焼までのすべての過程において,本件木くずが飛散あるいは流出すると認められず,本件設備が定量供給装置を介して密閉炉の中に本件木くずを定量供給する設計構造になっていることからすれば・・・被告が指摘するような大量投入等による爆発的燃焼が発生する危険性についてもにわかに認められない。」

「・・・本件木くずは,合板等を切断した際に生ずる木くずであるところ・・・例えば,し尿や食品の残滓のように悪臭の発生が高度の蓋然性をもって認められるものではなく,その他悪臭等の発生があるものと認めるに足りる証拠もない。」

②排出の状況

「本件木くずが本件ボイラーでの燃焼に供するために常に一定量の割合で排出されているものとは認め難いが,それは本件木くずが製造工程から発生するものであり,燃料そのものとして製造されているものではないことからして当然のことであって,このような事情を「廃棄物」該当性との関係において過大に取り上げるのは適切ではない。むしろ,本件設備が,本件木くず,すなわち第1工場から発生する木くずを燃焼に供するために設計・設置されたこと・・・に照らせば,本件木くずの排出については,有効活用できる物として,これが常時発生することを前提に,その需要が織り込まれているものと評価できる。」

「・・・木くずが飛散あるいは流出するとは認められず,定量供給装置を介して密閉炉の中に定量供給されていることを併せ考慮すれば,本件木くずの排出の状況は,需要に沿った計画的なものであり,排出前に適切な保管や品質管理がなされているものといえる。」

③通常の取扱い形態

「本件は,排出事業者である原告が自ら利用する場合であり,必ずしも,有償譲渡の実績や市場の形成が必要であるとはいえない。そして,地球温暖化の防止や循環型社会の形成等の観点から,本件木くずのようなものをも含む概念であると考えられる「バイオマス」,すなわち動植物から生まれた再生可能な有機性資源の有効活用が注目されていること(甲14),各都道府県における「自社の木くずを燃料として使用する場合」の廃棄物処理法上の取扱いについて,「廃棄物」に該当しないとするものが7県,場合により「廃棄物」としないとするものが16道県あり(甲19),原告のP1工場がある北海道を含むほかの都道府県において,自社の製造工程で発生した木くずを燃料とするボイラーについて廃棄物処理法上の規制が課せられていない実例が複数あること(甲33,35,原告代表者),木粉が燃料として取引対象となっている事例があり(甲34),原告も本件木くずを燃料として他社に売却するための商談を進めていること(甲35,原告代表者)などを勘案すると,排出事業者が自ら木くずを燃料として利用することも,木くずの通常の取扱い形態の1つに当たるものと解される。」

④取引価値の有無

「本件は排出事業者である原告が自ら利用する場合であり,個別の用途に対する利用価値の観点から判断すべきである。・・・他の都道府県において自社の製造工程で発生した木くずを燃料とするボイラーについて廃棄物処理法上の規制が課せられていない実例が複数あり,また,このようなボイラーが市販されており(甲23,35,原告代表者,弁論の全趣旨),少なくとも,木くずは,本件木くずのように排出事業者が自ら燃料として利用する場合にはその利用価値を肯定できるものである。」

⑤事業者の意思

「原告において,・・・例えば油類や電気等を大量に用いて本件木くずの燃焼を継続させているような事実は認められず,かえって,本件ボイラーは木くずそのものを燃料としているものであり,実際に本件工場の熱源として利用されていること・・・木くずを燃料とすることが可能なボイラーが製品として販売されており,本件ボイラーも本件工場のために独自に開発されたものではなく,上記のようないわゆる既製品を利用したものであると認められること・・・などを考慮すれば,原告において,本件木くずを適切に利用する意思を有していたものと推認される。」

結論

「以上のほか,本件設備から排出されるダイオキシン類の有毒物質が関係法令による排出基準値を下回るものであること(甲28)なども勘案し,前記判断要素①ないし⑤を中心として総合考慮すれば,本件木くずは廃棄物処理法上の「廃棄物」には該当しないものと判断される。

「本件木くずは廃棄物処理法上の「廃棄物」には該当しないから,本件ボイラーが同法にいう「産業廃棄物処理施設」に該当することもない。」

総括

おから事件における総合判断説の判断要素をどのように考えていくか、具体的事情を踏まえたとても参考になる分かりやすいリーディングケースです、

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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