運送会社に運送業務を委託することは多いと思います。ただ、運送業務委託契約書にもいろいろなものがあり、自社に不利にならないよう注意することが必要です。問題になることが多い条文とそれに対するコメントをつけてみました。

一 はじめに

  運送業務を委託する場合、運送業務委託契約書を結ぶことになります。この契約の中で問題になることが多い条文をあげ、それに対するコメントを述べてみました。

二 運送業務委託基本契約書で問題になる条文

    ※ 下記の甲は運送業務の委託者、乙は受託者(運送会社)です。

    ※ 下記は、甲の立場からコメントしています。

1 業務処理能力

① 条文例

  業務量が当該期間の作業員数その他の事情から乙の業務処理能力を上回ると判断される場合、甲及び乙は誠実に協議したうえ、業務の一部を翌日に繰り越す等の合理的な方法をとるものとする。

② コメント

個別契約を結ぶ前に処理能力を上回ると判断される場合はよいのですが、個別契約を結んだ後になって、乙から処理能力を上回ると言われ、日時の繰越し、料金の増加などを言われても困ると思います。この条文の適用は、個別契約を結ぶ前に限定されるということを明らかにしておいた方がよいと思います。

2 故意過失の有無

① 条文例

⑴ 甲が、運送する物品が危険物である、あるいは指定可燃部である旨の告知を行わなかった場合、または前項において提供された情報(本業務を安全に不移行するために必要な情報)に誤りないし不十分な事項があった場合、甲は、故意・過失の有無に拘わらず、それにより乙が被った損害を賠償しなければならない。

 ⑵ 前項の場合、甲または第三者に損害が生じたときであっても、乙は当該損害に対する責任を負わないものとする。当該第三者から乙に対して何らかの請求があった場合には甲がそれに対応するものとし、かかる請求によって乙が損害を被ったときは、甲は前項に従って乙に賠償するものとする。

② コメント

⑴について

法律上は過失がない場合は、甲は損害賠償責任負いません。したがって、「故意・過失の有無に拘わらず」の部分は、「甲の責めに帰すべき事由がある場合」とした方がよいと思います。

 ⑵について

乙に過失があったときは、乙も責任を負うべきなので、「乙は当該損害」の部分は「乙は、乙の責に帰すべき事由がない限り、当該損害」とすべきです。

3 重過失の有無

① 条文例

前項の措置(応急措置を含む)について乙の故意または重過失がない場合は、乙がなした措置の結果につき乙はその責任を免れ、前項の措置(応急措置を含む)に要した費用を甲に請求することができる

② コメント

「重過失」というのは、故意に準じるような思い過失であり、実際にはほとんど成立することはありません。ここは通常の単に「過失」とした方がよいと思います。

4 納品時間の変更

① 条文例

乙は、運送距離、運送指図の受付時間、有料道路の使用の可否、当日の交通事情その他の事情に鑑み、前項に基づいて甲が指定した納品時間を遵守することが困難であると判断するときは、甲と協議したうえで納品時間を変更することができる。

② コメント

この書き方ですと、甲と協議をすれば、乙は納品時間の変更ができるように読むことができます。交通事情などがある場合、仕方ないということもあるかもしれませんが、それでも時間の厳守をしてもらわなければならない場合もあると思います。

ここは、「協議したうえで」のところを「協議し合意したうえで」としたり、少なくても「協議したうえ合理的な範囲で」のようにした方がよいと思います。

5 責任の消滅

① 条文例

甲または甲の指定する荷受人が合理的な理由を付して書面をもって留保せずに本件貨物を受け取った場合は、乙の本件貨物の損傷、数量の過不足、または品違い等に関する責任は消滅する。

② コメント

  口頭ではだめで書面をもって留保しなければならないので、受け取る時には注意する必要があります。

6 責任の不消滅

① 条文例

甲または甲の指定する荷受人への引渡し時に発見することが困難な本件貨物の損傷、数量の過不足、または品違い等があった場合において、甲が乙に対して引渡しの日から2週間以内にその旨を通知し、乙の責に帰すべき事由を証明したときはこの限りではない。

② コメント

一般的には「困難」というより、「引渡し時に直ちに発見することができない」という文言が使用されます。後者の方が、2週間内に主張できる損傷などの範囲が広がるように思います。また、2週間で少なくないでしょうか。

7 支払の継続

① 条文例

  甲は、乙が自らの責めに帰することが出来ない事由によって、本業務を履行できなくなった場合、乙が甲のために実質的に負担している固定的費用につき、契約が継続している間、料金の支払いを継続するものとする。

② コメント

どのような場合を想定しているのかよく分かりませんが、乙が負担している(乙の)固定費を甲に負担させるということであれば、荷物の運送を行ってもらえなかった甲が、乙の固定費を負担することになり、甲に酷なように思います。

8 請負代金の支払時期

① 条文例

⑴ 乙は毎月末日締めで当月分の委託料等を計算し、甲に請求書を送付する。

⑵ 甲は乙に対し、当月分の委託料等を翌月末日(当日が金融機関の営業日でない場合は、その前営業日)までに、乙の指定する預金口座に振込送金して支払う。振込送金費用は甲の負担とする。

② コメント

いつまでに請求書を甲に送付するのか明確にした方がよいと思います。翌月末直前に請求相が甲に来たのでは、金額の妥当性を検証できなくなることもあり得ます。

9 機密情報の返還

① 条文例

  甲及び乙は、機密情報が本契約の履行上不要となり、相手方から指示がある場合には、機密情報が記録された記録媒体を相手方の指示に従い速やかに返却若しくは破棄する。

② コメント

この書き方だと、履行不要となったことと、相手方から指示があることの2つが必要になります。しかし、履行不能の不無にかかわらず、請求したらすぐに返してほしいという場合もありますから、「機密情報が本契約の履行上不要となった場合、あるいは相手方から指示がある場合には」とした方がよいと思います。

10 損害賠償の範囲Ⅰ

① 条文例

  乙は、自己の責に帰すべき事由により本契約に定められた義務に違反し、または当該義務の履行を怠ったために甲に与えた損害について、その賠償の責を負う。ただし、特別損害、逸失利益、間接損害は、賠償範囲に含まれないものとする。

② コメント

これだと損害賠償の範囲が非常に狭まってしまします。この但書は削除した方がよいと思います。削除されれば、乙がどこまでの範囲で損害を負うかは、法律に従って判断されることになります。

11 損害賠償の範囲Ⅱ

① 条文例

前項に基づく乙から甲への損害賠償の額は、本件貨物の寄託価額を限度に、帰責性の度合いならびに報酬対価の有無及び額などを考慮のうえ、両当事者間の協議により算定するものとする。

② コメント

これですと、大きな損害を被っても寄託価格を限度でしか損害賠償の請求ができません。ここも削除してもらうべきです。ここは重要なところです。

また、「帰責性の度合い」はいいとして、「報酬対価の有無、額」を考慮するということは、法律上はもちろんありませんし、このようなことを考慮すると、(実際には大きな損害を被っていても)寄託価格をさらに下回る損害額しか賠償してもらえなくなる可能性があります。

12 損害賠償の範囲Ⅲ

① 条文例

 乙から甲への損害賠償の額は、一部滅失の場合は、当該滅失部分の滅失時の時価相当額を算定の基準をする。

② コメント

一部滅失が全体に影響を及ぼす場合でも、滅失部分の時価しか考慮されないことになります。それでは困る場合は、この部分を削除する必要があります。

13 損害賠償の範囲Ⅳ

① 条文例

乙から甲への損害賠償の額は、誤出荷に起因する損害については、誤出荷貨物の回収及び再運送に要した費用を算定の基準とする。

② コメント

誤出荷により、貨物が遅延し、大きな損害を被った場合も、貨物の回収、再運送に要する費用しか請求できなくなる可能性があります。この条文は削除した方がよいと思います。

14 再委託の可否と責任

① 条文例

乙は、本業務の全部または一部を、第三者に再委託することができる。ただし、乙は、当該第三者に再委託した業務の全部について、本契約に基づく責任を免れないものとする。

② コメント

甲の承諾なしに再委託することができることになっていますが、再委託には甲の承諾を要するという契約書が多いと思います。

乙が本契約に基づく責任を免れないのは当然です。ここは。「第三者が甲に負う責任と同様の責任を負う」として、乙が第三者と同じ責任を負うことを明確にすべきです。

15 契約内容の変更

① 条文例

本契約は、甲乙それぞれの代表権またはそれに準ずる権利を有する者の記名押印ある合意書面、または、これに代わる適正な電子署名もしくは電子メール認証を施された電磁的記録によらなければ、変更を行うことができない。

② コメント

「準ずるもの」というのは何を言うのか明確ではありません。「または、本契約を締結する権限を」とした方がよいと思います。

三 まとめ

以上、運送業務委託基本契約で問題になる条文をあげてみましたが、もちろんこれですべてということではなく、問題になる条文は契約書によってさまざまです。具体的な取引において、自社に不利な点がないかをよく検討してみることが大切です。

四 契約書チェックの意味

1 契約書の成立過程
契約書には中立のものはほとんどなく、また、完全に中立な契約書というものはありません。どちらか一方的に有利、かなり有利、ある程度有利など、程度の違いはありますが、どちらかに有利になっています。

具体的に言うと、契約を結ぶ際には、当事者の一方である甲が、乙に対して契約書の案を提示しますが、その案は、程度の差こそあれ、甲に有利になっています。
そして、最終的には、甲と乙の経済的な力関係に応じて、契約をぜひとも成立させたい側は多く妥協し、そうでない側は少しだけ妥協する、あるいは妥協しないということになります。

※ 経済的に弱い立場にある当事者を、最小限守るのが下請法、独占禁止法などになります。

ただ、力の強弱に応じて妥協する程度は異なるものの、契約書のどこが自社に不利なのか、また、その不利な程度は大きいのか小さいのかが分からなければ、どう妥協するのかを考えこともできません。

2 契約書チェックの意味
この点、つまり契約書のどこが自社に不利なのか、また、その不利な程度は大きいのか小さいのかを知ることが契約書チェックの意味になります。
担当者だけでは、十分な契約書のチェックができない場合は、顧問弁護士に依頼して、契約書をチェックしてもらいます。

チェックを依頼された弁護士は、職責上、不利と思われる点をすべて指摘し、不利な程度の大小も指摘しますが、もちろん弁護士が指摘するすべてについて妥協してはならないということではなく、会社の経営者は、弁護士の指摘を前提に、どこを妥協し、どこは妥協しないかについて、相手方に対する自社の経済的な立場も考慮して決め、相手方と交渉します。

なお、稀に弁護士が指摘したものをそのまま相手方にメールなどしてしまう企業の担当者の方がいますが、弁護士は職責上、不利な点はすべて指摘しますから、これをそのまま相手方に送ったのでは交渉になりません。弁護士のチェックをもとに、自社の立場から、何をどの程度主張するかを決めることが大切です。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫

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