マンションを相続した人はその後区分所有者として管理費等の支払についても負担をしていかなければなりません。被相続人が管理費等を滞納していた場合など、戸建てや土地を相続したときには生じない法的問題があります。今回は、そのような問題について、解説していきます。

相続したマンションの管理費等の負担について、どう考えるべきか

管理費等とは

「管理費」とはマンションの敷地や共用部分等の維持管理のために日常的に必要となる費用であり、マンションの共同エントランスや廊下、階段等の共用部分の日常的な清掃や、エレベーターその他の設備の点検、管理組合の運営などに日々使われていくものです。これが滞納されれば、適切な管理もできなくなってしまい、衛生面・防犯面などの住環境の悪化、さらに言えばマンションの資産価値の低下をも招いてしまいます。
これに対し、「修繕積立金」は計画修繕等で必要となる費用のことであり、管理費と同様マンションのために必須のものです。

以下、管理費及び修繕積立金を合わせて、「管理費等」と呼びますが、マンションによってはこれ以外にも駐車場や専用庭のようなものを使用するための「使用料」、管理組合を維持していくための特別な費用として「管理組合費」といった費用を別途区分所有者に請求することを管理規約に定めているケースもあります。今回取り扱う問題は、この管理費等についてです。

管理費等の支払義務を負うのは誰か

区分所有法19条では、「区分所有者は規約に別段の定めがない限り、共用部分に対するその持分に応じて共用部部分の負担に任ずる」とされており、一般的な管理規約においても、「マンション管理組合は区分所有者から月ごとに管理費等を徴収する」ということが規定されているものと思われます。

つまり、管理費等の支払義務は、区分所有者であれば当然に負う、ということです。
例えば、賃貸用マンションで、区分所有者本人はこのマンションを専有していなかったとしても、管理費等の支払義務は区分所有者にあります。賃借人と賃貸人(区分所有者)の間で「管理費等は賃借人が負担する」と約束をしていたとしても、それをマンション管理組合に主張し、区分所有者が管理費等の支払義務を免れることはできません。

相続したマンションの管理費等の支払義務は誰にあるか~相続開始後の発生分~

以上のとおり、管理費等は区分所有者であれば当然負うべき義務ということになりますので、マンションを相続し、新たに区分所有者になった方は、以降当該マンションの管理費等を支払っていく義務を負います。

相続人が複数いる場合はどうなる?

1つのマンションを複数の相続人が承継したという場合、区分所有者が複数いるということになります(共有)。各人の持分は100%ではないということになりますが、持分に関係なく、管理費等は各共有者の「連帯債務」ということになります。
つまり、たとえば被相続人αさんの相続人がαさんの子どもであるAさんとBさんの二人で、マンションの持分を50%ずつ有していただけだとしても、マンション管理組合は相続開始後に発生する管理費等については「全額」を相続人AさんBさんのいずれか、あるいはAさんBさん両名に対し請求できるということです。むろん、管理費等が2倍になるわけではなく、相続人二人の間ではどう精算するか自由であるとしても、毎月発生する管理費等の全額をマンション管理組合に払えばそれで支払義務は果たされたことになります。

被相続人が生前管理費等を滞納していた場合~相続開始前の発生分~

管理費等の支払義務を負うのは区分所有者であるということですが、被相続人が区分所有者であった時期、つまり相続開始前に既に管理費等の未納があった場合はどうなるでしょうか。
相続は、プラスの財産だけではなく、マイナスの財産、つまり債務も承継するものです。したがって、相続開始前に既に管理費等の未納があった場合、その未納管理費等も遺産として相続人が承継することになります。

相続人が複数いる場合はどうなる?

相続開始後については、共有状態であったとしても区分所有者として連帯債務となる管理費等を全額負担する義務がありましたが、相続開始前の管理費等の未納は、区分所有者であることから生じた債務ではなく、被相続人から承継した単なる未払に過ぎず、分け合うことも可能な債務であるとされています。民法上はこのような債務については相続に当たり自動的に相続分で分割されることになっています。
したがって、被相続人の元で既に生じてた未納管理費等については、相続人らの相続分に応じて支払義務が承継される、ということになります。
たとえば、先ほどの被相続人αさん、その子どもらのAさんBさんが法定相続分に応じて相続した例でいえば、被相続人が100万円の管理費等を未納としたまま亡くなった場合には、マンション管理組合はこの未納100万円のうち、相続分に応じた50万円ずつをAさんとBさんそれぞれに請求することができ、「Aさんだけに100万円」、あるいは「Bさんだけに100万円」という請求をするということはできません。

そもそも相続しないという選択肢もありえる?

相続した場合

上記のとおり、マンションを承継した相続人は、今後発生する管理費等を全額支払う義務を負うことになり、被相続人が生前管理費等を支払っていなければその未納管理費等も相続分に応じて負担しなければなりません。
区分所有権だけではなく、それに付随する未納管理費等・将来発生する管理費等をも承継するということは非常に重要なポイントです。自分以外にも相続人がいるという場合には、その方と遺産である未納管理費等や今後生じる管理費等をどうやって負担していくかということもよく話し合っておく必要があります。

相続放棄をする場合

区分所有権だけであればともかく、管理費等の負担はできない、ということもあるでしょう。
特に、ご自身が当該マンションに住んでいたわけでもなく、これからも住むつもりもない・賃貸に出そうにも、あまり収益が見込めないマンションである、というような場合、管理費等のほか不動産である以上発生する固定資産税・維持費などもかかってくるのですから、相続したくないということもあり得ることです。
そのような場合には、そもそも相続放棄をすることが考えられますが、「遺産のうち、マンションだけ相続放棄する」ということはできませんので、全体として相続放棄をするということになります。なお、「限定承認」という、相続財産全体を見て、プラスがあれば相続する、という手続もないではありませんが、相続放棄のような単純な手続ではありませんので、今回の解説では措きます。

相続放棄後に生じうること

法定相続人のうちの一部の者が相続放棄をしたとしても、一人でも相続人がいるのであれば、その方が区分所有権も未納管理費等の支払義務も承継することになります。
これに対し、唯一の法定相続人が相続放棄した場合や、第一順位から第三順位までの全法定相続人が相続放棄したという場合は、そのマンションの行く末あるいは未納管理費等の対応を決めるために、「相続財産清算人」という存在を家庭裁判所に選任してもらうことが必要になる場合もあります。

そもそも相続放棄をすべきかどうか迷うこともあるかもしれませんが、その判断の前提になるのは、まずは「遺産がどのようなものか」ということになるので、知れたる範囲で被相続人の財産として、プラスのものだけでなくマイナスなものもどのようなものがありそうか情報をまとめてみて、法律事務所に行き弁護士に相談してみるということも一つの選択肢であろうと思います。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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