運送会社の倒産が増えており、また、いわゆる2024年問題が運送会社に与える影響が心配されています。今回は、運送会社が倒産(破産)する場合の問題点、破産手続きを考える時期、破産手続きを取るメリットなどについて述べてみました。

1 倒産件数の推移と倒産原因

2022年の運送会社の倒産件数は248件、負債総額は379憶1000万円で、いずれも前年を上回っており、運送会社にとっては厳しい経済状態が続いています。
倒産の原因として考えられるのは、燃料費の高騰、人手不足、人件費の上昇、取引先の倒産、コロナ関連の融資の返済、業務上のトラブル、運営コストの増大など様々です。

2 2024年問題

また、いわゆる2024年問題ということが言われています。これは、働き方改革関連法の施行に伴う「時間外労働時間の上限規制」などの規制が、2024年4月から「自動車運転の業務」に適用されることによる問題で、これにより、2024年4月1日以降は、臨時の必要があり、労使が合意する場合であっても、年間960時間を超えて、ドライバーに時間外労働をさせることはできなくなります。

これに違反した場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられ、長距離輸送を行う運送会社などの場合には大きな影響があると言われています。例えば、運送会社の売上・利益の減少、ドライバー収入の減少、ドライバーの離職などです。

3 倒産した場合に取ることできる法的な措置

運送会社が倒産した場合に取るべき措置として考えられるのは、民事再生手続と破産手続です。

⑴ 民事再生手続

まず民事再生手続きですが、これは裁判所を使い、債権者の多数決によって運送会社の債務をカットし、残った債務を何年かに渡って分割して支払っていくという手続です。
しかし、分割して支払っていくといっても、運送事業によって利益を生み出し、これによって支払いをしなければならないのですから、これまで赤字が続いていた運送会社が、急に利益が出る体質になるのは難しいでしょう。
したがって、民事再生手続きを使うというのは、多くの場合難しいと考えられます。

⑵ 破産手続

これは、裁判所の監督のもと、裁判所が選任した破産管財人が運送会社の財産を金銭に変え、債権者に公平に配当して、その後、運送会社は解散して消滅するというものです。
運送会社のトラック、倉庫、事務所、輸送設備などを売却して金銭に変え債権者に配当します。
運送会社に限らず、資金繰りに行き詰まった法人がとる法的な手続きは、ほとんどの場合、破産手続きになります。

4 運送業者が破産する場合の問題点

⑴ 財産の把握と売却

上記のとおり、運送会社には、トラック、倉庫、事務所、輸送設備などの様々な資産があり、破産申し立て前に、これら資産の全体像を正確に把握する必要があります。
とくにトラックの場合、保管場所をとりますし、盗難の恐れもありますから、できるだけ早い時期に、適正な価格で売却することも必要です。

⑵ 荷主の損害

運送会社が破産することによって荷物が入ってこなくなりますから、物流はストップし、荷主は大混乱になります。また、他に運送会社を見つけ契約をしなければならず、荷主が大きな損害を被る可能性があります。

⑶ リースと賃貸借

トラックをリースしている場合は、トラックを保管し、リース会社に返還しなければならず、また、倉庫、事務所などを賃借している場合は、中にある物を運び出し、現状に回復して返還しなければなりませんが、すべてにお金がかかりますから、簡単にこれをすることができません。

⑷ 鍵、ETCカードの返却

トラックの鍵は、ドライバーなどからすべて回収します。鍵を回収しないままにしておくと、トラックが勝手に持ち出されたり、事故を起こすもとになります。事故を起こした場合、運送会社が被害者から運行供用者責任をもとにして、損害賠償を請求される可能性もあります。
また、ETCカードもすべて回収します。これを勝手に使われると、運送会社の債務が膨らんでしまいます。

⑸  労働契約か委託契約か

運送業には、ドライバーや事務関係のスタッフなどが関与しており、労働関係に関する問題が発生する可能性があります。労働法に基づいた手続きや適切な給与の支払いに留意する必要があります。

また、ドライバーについて、労働契約にもとづく従業員であるのか、運送という委託契約をした受託者(一人親方)であるのか、判断が難しい場合もありますす。従業員と受託者では、労働関連法規の適用の有無、賃金なのか委託料なのかによる破産手続き上の優先権の有無などが違ってきます。

5 破産手続きを考える時期

毎月の売上が減り、利益も赤字になり、これまで留保してきた預貯金を取り崩して経営を継続する状態が続き、今後、この状態を回復することも難しい、資金繰りも苦しくなってきたという場合は、破産を考えてみるべきです。

破産をするにも、裁判所に対する予納金、弁護士費用などに費用がかかりますから、預貯金がなくなり、債務の返済ができなくなった段階で破産手続を取ろうとしても無理なことが多くなります。

裁判所の監督のもとに、公平な資産の分配を行ない、運送会社の社長にとって経済的な再出発の機会を与えるのが破産手続です。

6 破産手続きを取った後の流れ

① 運送会社の社長が、経理担当者とともに法律事務所に行き、弁護士が、運送会社の経営状態、資産・負債の内容、従業員・ドライバーの状況などを聞き、どのような手続を取るのがよいのかのアドバイスをします。

② 運送会社は、貸借対照表・損益計算書、資産目録、債権者・債務者一覧表、不動産登記簿謄本、賃貸借契約書、預貯金通帳、法人印鑑・ゴム印などを持参し、弁護士は、運送会社の社長、経理担当者と詳しい打合せを行ないます。
また、裁判所に提出する委任状、当事務所にご依頼いただく場合の委任契約書を受領します。

③ 従業員・ドライバーが出勤してくる時間に、運送会社に弁護士が出向き、社長とともに、従業員・ドライバーに対して、破産申立てに至った理由を説明し、在庫や帳簿類の保全への協力、破産管財人への協力を要請します。
従業員の一番の関心事は、今後どのようになっていくのか、給与、健康保険の切り替え、年金の処理、失業保険受給関係(離職票の発行など)なので、これらの取り扱いについても説明します。

④ すべての債権者に、弁護士が破産を受任した旨の通知を出します。以後は、弁護士が債権者との対応を行ないます。
債権者の中には社長に会いたいという人もいますが、破産という方向が決まっており、社長に会ってもどうなるわけでもありませんし、社長が債権者に迫られて何らかの書面にサインをしてしまい、これによって事態が複雑になることもあるので、社長を債権者に会わせることはありません。

⑤ 弁護士が破産申立書と添付の資料を作成し、裁判所に提出します。

⑥ その後は、破産管財人が選任され、弁護士、運送会社の社長、経理担当者などが、裁判官、破産管財人に対する説明を行ないます。

⑦ 裁判所で債権者集会が行われ、破産管財人が、運送会社の財産をお金に変えて、債権者に配当します。
これによって、破産手続きは終了し、会社は解散となります。

7 破産のメリット

以下に、会社破産のメリットを上げておきます。

⑴ 債権者からの取立がやむ。

弁護士に依頼することによって、裁判所への申立、債権者との交渉は弁護士が行いますので、債権者からの取立がなくなります。

⑵ 資金繰りの苦しみから解放される。

会社の資金繰りが苦しくなってくると、毎日資金繰りのことを考えなければなりません。裁判所に申立をし、破産手続きをすることによって、この苦しみから解放されます。

⑶ 社会保険料や税金の支払い義務がなくなる。

滞納している社会保険料や税金などの支払い義務がなくなります。社長個人が支払う必要もありません。

⑷ 債権者から不信感を持たれない。

破産は裁判所が関与し、破産管財人が選任される公平な手続きなので、債権者から、財産隠しがあるのではないかなどの不信を持たれることがありません。

⑸ 経済的に再スタートすることができる。

配当をした後の会社の債務はについて、会社の社長は免責と言って債務の支払いを免れることができるので、経済的に再スタートすることができます。

⑹ 親族の財産は残る。

会社が破産した場合、保証人となっている社長は別として、代表者の妻、子などの財産には影響はありません。

⑺ 未払い賃金の8割が立替払いされる。

破産をした場合、厚生労働省が所管する労働者健康安全機構に立替払いの請求をすることにより、従業員は未払い賃料の80%の支払いを受けることができます。(立替払い制度の利用の可否・対象となる未払い賃金などには一定の条件があります)

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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