クリスティの推理小説でしたか、財産のある被相続人が亡くなり、葬儀の終わった後に、遺言に関係ある面々が集められ、親族や執事、メイド(現在はハウスキーパーという名称でしょうか)、慈善団体への寄付など、遺産の分配について事細かに記載した遺言状が、弁護士によって述べられる場面がありました。その後は、推理小説なので、遺言への不満による修羅場、そして当然のごとく殺人事件が展開されてゆきます。
 さて、日本では、相続分について民法第900条の規定があります。しかし、遺産となる財産の形成原因や老後における同居形態および介護状況などを考えますと、遺産の分割について、民法の規定どおり割り切れるものでもありません。
 子供は無く、夫も兄弟姉妹もすでに亡くなったご高齢のご婦人が、相続についてご相談に来られました。ご本人のお気持ちは、「甥姪に遺産を分与するのはもちろんですが、親身になって世話をしてもらっている隣家のご夫婦、夫の甥にも分与したい。一番身近な一人の甥に祭祀を執り行ってもらい、同人には、他の甥姪より多く財産をあげたい。死後、相続争いのないようにしたい」ということでした。民法どおりですと、このご婦人の財産は、隣家のご夫婦、夫の甥に分与されることはなく、甥姪間では均等の相続となります。そこで、隣家のご夫婦、夫の甥への財産贈与などご婦人のご意思にそった遺言書原案を調整し、公証証書による遺言書を作成しました。
 後日談ですが、遺言作成から4年後に、ご婦人が亡くなられました。遺言執行者に指定されていましたので、土地建物、預貯金、動産類を遺言書のとおり遺産分割いたしました。姪の一人(子供はいません)が、被相続人より先に亡くなられていたため、民法を適用し、再分配を行いましたが、相続人および受遺者からのご不満はなく、執行受諾通知を差し出してから、4ヶ月間で遺言内容をすべて実現することができました。
 子供や孫のいないご婦人でしたが、遺言書を作成することにより、ご自分の財産によって相続人が争うこともなく、祭祀も引き継がれて、生前のご意思どおりとなりました。