「あの人だけが、ハンコを押してくれない!」1人だけ遺産分割協議に反対する親族への法的アプローチ

相続人の中に1人でも遺産分割協議書への署名・押印を拒否する人がいると、遺産分割は成立せず、銀行口座の解約や不動産の名義変更などの手続きがすべてストップしてしまいます。本稿では、そのような相続人に対する法的アプローチを弁護士が解説します。

「あの人だけが、ハンコを押してくれない!」終わらない遺産分割

「あの人だけが、ハンコを押してくれない!」終わらない遺産分割

被相続人が亡くなり、遺言書が残されていない場合は、相続人全員で遺産分割を行い、誰がどの財産をどれだけ取得するか、決めなければなりません。
そこで、相続人全員で話し合い、つまり、遺産分割協議を行い、協議の結果がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、その協議書に全員が署名・押印します。

ところが、相続人の中に1人でも遺産分割協議書への署名・押印を拒否する人がいると、遺産分割は成立しません。
遺産分割が成立しないということは、何を意味するかというと、
■銀行口座の解約・払い戻しができない
■不動産の名義変更ができない
ということです。

遺産分割が成立しないことには、遺産の分配ができませんので、遺産として相当な額の預金があったとしても、(預金の払い戻し制度を利用して一部の払い戻しを受けるのは別として)自分の手元には、いつまで経っても現金が入ってこない、ということになります。
また、不動産についても権利の承継者が決まらないため、相続人全員の同意がないと売却できませんし、新たに賃貸に出すことも難しくなります。
このように、遺産分割が成立しないと、遺産は事実上の凍結状態となってしまいます。
これは、遺産の利活用ができないという意味で非常に勿体ない状態と言えますし、遺産分割が成立しないまま長期間を経過した場合、一部の相続人が亡くなって、相続人の相続人らがもとの相続の相続人となる(=相続人の頭数が増える)など、問題解決がより困難になるおそれがあります。

遺産分割は、早めに完了しておくことに越したことはありません。
それでは、どうしても1人だけ、遺産分割協議書に署名・押印してくれない相続人がいる場合、どのような法的アプローチをとればよいのでしょうか。

1人だけ反対する相続人がいる場合の法的アプローチ

1人だけ反対する相続人がいる場合の法的アプローチ

1人だけ遺産分割協議書に署名・押印してくれない相続人がいる場合、法的には「協議(話し合い)」から「裁判所を介した手続き」へ段階的に移行させていくのが一般的なアプローチです。
以下に、具体的な3つのステップと対処法を解説します。

アプローチ① 弁護士を通じた「裁判外での交渉」

アプローチ① 弁護士を通じた「裁判外での交渉」

まずは裁判所を介在させず、弁護士を代理人に立てて交渉を依頼する方法です。

当事者同士だと感情的になって話し合いを拒否している場合でも、弁護士という専門家から、「このまま放置するリスク」や「法的な見通し」を冷静に説明されると、態度を軟化させて署名・押印してくれることがあります。
また、裁判所を通さないので、早期かつ柔軟に解決できる可能性があります。

ただし、この方法のデメリットは強制力がないことです。
弁護士から書面を送るなどして連絡をとろうとしても、全て無視されてしまい、応答が全くなければ交渉すらできません。
また、こちらの主張がいくら正論であっても、相手方が自ら納得し、合意してくれなければ、遺産分割協議は成立させることができません。

アプローチ② 家庭裁判所への「遺産分割調停の申し立て」

アプローチ② 家庭裁判所への「遺産分割調停の申し立て」

弁護士が間に入っても解決しない、あるいはそもそも話し合い自体を完全に拒否されている場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるという方法があります。

遺産分割調停は、調停官(裁判官)と2名の調停委員が間に入り、双方の言い分を聞きながら合意を目指す話し合いの手続きです。
当事者が直接顔を合わせないよう、待合室は別々に用意されますし、入れ替え制で話を聞いてもらえるため、険悪な仲になっている相手方とも顔を合わせるストレスがありません。

「あいつ(一方当事者)の依頼を受けた弁護士の言うことは信用できない」という人であっても、公正中立な立場にある家庭裁判所(調停官、調停委員)から示唆を受けることで、考え方を変え、合意に至るケースも多々あります。

しかし、この方法にもデメリットがあります。
場所が家庭裁判所に移ったとはいえ、あくまで「話し合い」の延長であるため、調停委員の説得にもかかわらず相手方が最後まで頑なに拒否し続けた場合には、調停は「不成立(不調)」となって終了します。
また、調停期日(家庭裁判所で話し合いを行う日)は、おおむね1か月から1か月半に1回の頻度でしか開かれないため、解決までに相応の時間がかかるというのも短所です。

アプローチ③ 家庭裁判所での「遺産分割審判」

アプローチ③ 家庭裁判所での「遺産分割審判」

調停が不成立に終わった場合、通常は、特別な手続きを経ることなく、そのまま自動的に家庭裁判所での「遺産分割審判」という手続きに移行します。

この「遺産分割審判」は、もう、話し合いによる解決を目指す手続きではありません。
双方の主張や提出された証拠をもとに、裁判官が審判を出し、法的に強制力のある分割方法を決定する手続きであり、つまりは、家庭裁判所で行う訴訟(裁判)のようなイメージです。

審判が下されれば、1人だけ反対している相続人の署名・押印がなくても、確定した審判書を使って銀行口座の解約や不動産の名義変更などの手続きを強制的に進めることが可能になります。

相手方の「拒否の理由」に合わせたアプローチも重要

相手方の「拒否の理由」に合わせたアプローチも重要

以上のとおり、1人だけ遺産分割協議書に署名・押印してくれない相続人がいる場合、主に3つの法的アプローチ法があります。

しかしながら、法的な手続きを進める一方で、その相続人がなぜハンコを押していないのかを考え、その理由に合わせた対応策を探ることも重要です。

例えば、その相続人が、単に、「相続なんて面倒だ、関わりたくない」という理由で対応をしてくれない場合は、「相続放棄」や、自分の相続分を他の相続人に譲り渡す「相続分の譲渡」を提案することで、手続きから円満に抜けてもらうアプローチが有効です。

また、その相続人が、取り分(金額)に不満がある場合には、法定相続分をベースにした客観的な分割案を提示するか、早めに調停を申し立てて裁判所の見解(相場)を突きつけるのが近道です。

遺産分割の場合、相続発生後の事情だけでなく、これまでの家族関係、進学・就職・結婚時の親からの援助の有無や、被相続人の面倒を看てきたのは誰か等、さまざまな経緯・要因が絡んできますので、「法律的にはそれが正しいと分かっているけれど、心情的に判をつく気になれない」ということもあり得ます。
そのような場合、どのような出来事が反対を続ける相続人の胸の内に引っかかっていて、それを解きほぐすような話し合いや提案ができないか、検討するのも一つの方法です。

遺産分割のトラブルは長引くほど、遺産の管理といった物理的な負担だけでなく、未解決の問題を抱えたままであるという精神的な負担も大きくなります。
1人だけ遺産分割協議書に署名・押印してくれない相続人がいて困っているという方は、まずは一度、相続問題に強い弁護士にご相談下さい。
あなたのケースではどのようなアプローチが最適か、一緒に考えていきましょう。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 田中 智美

相続

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属の弁護士。平成20年登録。
家事の分野では相続・遺言を専門的に取り扱い、これまでに多数の遺産分割事件、遺留分侵害額請求事件を解決。また、依頼者の希望やニーズに即した遺言作成も手掛けている。不動産オーナーを対象とした不動産と相続に関する講演も行っており、相続トラブルの未然防止にも力を入れている。