
近年、フリマアプリ、あるいはネットオークションの普及により、個人が手軽に中古品を売買できる時代になりました。また、副業としてリサイクルショップから仕入れた商品を転売する「せどり」に励む方も増えています。
しかし、こうした利便性の裏で、「知らぬ間に盗品を扱ってしまった」という理由で警察の捜査対象になるケースが後を絶ちません。
刑法第256条に規定される「盗品等関与罪(盗品等譲受け罪など)」は、たとえ確信がなくても、一定の状況下では成立してしまう恐ろしい罪です。
本コラムでは、刑事弁護の第一線に立つ弁護士の視点から、本罪の成立要件、特に「善意の抗弁(知らなかったという主張)」の限界と、フリマアプリ利用者が巻き込まれやすいケース、そして疑いをかけられた際の具体的な弁護戦略について徹底解説いたします。
そもそも、「盗品等関与罪(刑法256条)」とは?

まずは、条文の構成を確認しましょう。ここを理解せずして対策は立てられません。
刑法第256条
第1項 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を運搬し、保管し、又は有償で譲り受けた者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。
第2項
前項に規定する物について、有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。
この罪は、大きく分けて以下の4つの行為を処罰対象としています。
① 運搬(運ぶ)
盗品であることを知りながら、犯人のために目的地まで運ぶ行為です。
② 保管(預かる)
盗品であることを知りながら、一定期間自分の管理下に置く行為です。
③ 有償譲受け(買い取る・貰う)
代金を支払って盗品を自分のものにする行為です。フリマアプリでの購入やリサイクルショップの買い取りがこれに当たります。
④ 処分のあっせん(仲介する)
盗品の売買を仲立ちする行為です。
盗品等関与罪は、「盗みの果実」を世の中に流通させ、被害者が物を取り戻すのを困難にすることを理由に、刑法上の犯罪として厳しく規制されています。
「善意の抗弁」:知らなかったら無罪なのか?

多くの相談者が「私は知らなかった(善意だった)のだから、罪にはならないはずだ」と主張します。
理論上、その通りです。盗品等関与罪が成立するためには、犯人が「その物が盗品であること」を認識していること(故意)が必要です。
しかし、実務上の「認識」は、皆さんが考えているよりもずっと広い範囲を指します。
法律用語に「未必(みひつ)の故意」という言葉があります。
これは、「100%盗品だと確信していたわけではないが、『もしかしたら盗品かもしれないな』と思いながら、それでも構わないと思って関与した」状態を指します。
警察や検察は、次の「客観的な状況」から、「盗品だと疑うべきだったのに、あえて目を逸らしたのではないか(=未必の故意があった)」と推認します。
①価格の著しい不自然さ
市場価格10万円のブランドバッグが、新品同様なのに1万円で出品されていた。
②出品者の不審な挙動
フリマアプリのプロフィールが本人確認未了、発送元が不自然、質問への回答が曖昧。
③商品の状態
製造番号(シリアルナンバー)が削られている、自転車の防犯登録が剥がされている、企業の備品マークがある。
④場所とタイミング
深夜の公園や、SNSでの「即金・身分証不要」という呼びかけに応じた。
「知らなかった」という言い分が、「世間一般の常識に照らして、知らなかったはずがない」と判断されれば、故意ありとして起訴される可能性があるのです。
ケーススタディ:フリマアプリ・ネットオークションの罠

現代の「盗品流通の主戦場」は、間違いなくフリマアプリです。
そこで、利用者が巻き込まれやすいケースを深掘りします。
ケースA:激安の新品家電を買い叩いた個人ユーザー
フリマアプリで、最新型のiPhoneが相場の半額で出品されていました。
出品者の評価はゼロ。
本人は、「プレゼントで貰ったが不要になった」という説明を信じて購入。後日、それが空き巣被害品であることが判明し、警察から連絡が来ました。
この場合、争点は「価格の異常性」と考えられます。
最新家電が半額で売られることは通常あり得ません。
「転売目的ではないか」、「盗品ではないか」という疑念を抱くのが通常であると判断されれば、未必の故意が認定されるリスクがあります。
ただし、初犯であり、単なる安物買いの心理であったことが疎明できれば、不起訴(起訴猶予)を狙うのが現実的なラインです。
ケースB:組織的な「空物件受け取り」に加担したケース
「指定の住所(空き家など)に届く荷物を受け取って、別の場所に送るだけで報酬をあげる」というSNSの闇バイトに応募。
中身は盗品や詐欺で騙し取られた品物でした。
これは非常に危険です。仕事内容自体が著しく不自然であり、未必の故意どころか、「確定的な故意」があるとみなされやすいです。組織的な犯罪への関与として、実刑判決が出る可能性も十分にあります。
リサイクルショップ経営者が直面する法的リスク

プロであるリサイクルショップ(古物商)には、一般人よりも高い「注意義務」が課せられています。
リサイクルショップを営むには「古物商許可」が必要です。古物営業法では、「相手方の真偽を確認する義務(本人確認義務)」や、「不正品の申告義務」が定められています。
もし、本人確認を怠って盗品を買い取ってしまった場合、単に「盗品等関与罪」に問われるだけでなく、営業停止や許可取り消しといった行政処分を受けることになります。これは店主にとって死活問題です。
リサイクルショップが「盗品とは知らなかった」と主張するためには、以下の証跡を残しておくことが不可欠です。
・法定の本人確認書類の写し(運転免許証など)
・買い取り価格の妥当性の記録(相場に基づいた査定)
・取引経緯のメモ(どのような説明を受けて買い取ったか)
これらを怠り、「身分証なしでいいから安く買い取ってくれ」という要望に応じれば、一発で「故意あり」と判定されてしまうかもしれません。
盗品を掴んでしまった時の「民事上の」責任

「刑事罰」を免れたとしても、「民事上の責任」は別問題です。
ここが非常に厄介な点です。
民法には「善意取得(192条)」という規定があり、基本的には「過失なく盗品と知らずに買った人」の所有権を保護します。しかし、「盗難品」には例外(193条、194条)があります。
| 状況 | 内容 |
| 原則(民法193条) | 被害者は、盗難の時から2年間、現在の占有者(あなた)に対して、無償で返還を請求できる。 |
| 例外(民法194条) | 競売や、リサイクルショップなどの同種の物品を販売する業者から購入した場合、被害者は「支払った代価」を弁償しなければ、物を取り戻せない。 |
警察から連絡が来た!その時の対応について弁護士が解説

もし、自分が関与した取引が「盗品」であるとして警察から連絡が来たら、どうすべきかについて詳しく解説いたします。
① 感情的にならず、客観的な証拠を集める
「私は悪くない!」と騒ぐよりも、以下のものをすぐに用意することをお勧めします。
・取引画面のスクリーンショット(価格、商品説明、出品者情報)
・出品者とのやり取り(チャットログ)
・支払いの明細(クレジットカード、銀行振込)
② 「知らなかった」の根拠を具体化する
「ただ知らなかった」ではなく、「なぜ知ることができなかったのか」を論理的に説明する必要があります。
③ 弁護士への相談を急ぐ
盗品等関与罪の捜査では、「最初の取り調べ」が運命を分けます。
不用意に「怪しいとは思いましたが……」などと口走れば、それは「未必の故意の自白」として調書に取られます。一度サインした調書を後から覆すのは至難の業です。
そこで、まずは弁護士に今後の対応について相談することをお勧めします。
まとめ

フリマアプリやリサイクルショップは、私たちの生活を豊かにし、資源の有効活用にも貢献しています。
しかし、その便利なプラットフォームは、犯罪者にとっても「盗品を現金化するための格好の出口」となっています。
「善意の利用者」であっても、法は時に非情です。
特に現代の刑事実務では、「疑わしきは罰せず」よりも「これだけ不自然な状況なら分かっていたはずだ」という厳しい推認が働く傾向にあります。
もし、あなたが今、意図せず盗品トラブルに巻き込まれているのであれば、一人で悩まずに専門家に相談してください。あなたの「善意」を法的に有効な「無罪の証拠」に変換するのが、我々弁護士の仕事です。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。





