遺留分侵害額請求ケース2 遺言で全てを相続した妻が、預金が少ない中で、子から遺留分侵害額請求をされた事例

死亡した夫は、自宅不動産と預貯金を全て妻に相続させる旨の遺言を残していましたが、納得できない長女から遺留分を請求されてしまいました。不動産の価値は高いのですが、預貯金はあまりありません。果たして、妻は遺留分を支払うことができるのでしょうか。

事案の概要

事案の概要

被相続人佐藤健一さんは、令和8年3月3日に亡くなりました。
健一さんの相続人は、妻の和子さん、長女の良子さん、長男の健二さんの合計3名です。

健一さんは、生前に、「全ての財産を妻の和子に相続させる」という内容の公正証書遺言を作成していました。

健一さんの遺産は、
■自宅マンション(川口市内)
■預貯金 460万円
という、至ってシンプルなものです。

妻和子さんからの相談

妻和子さんからの相談

健一さんの遺言により、その遺産の全てを相続することになった和子さん。

しかし、浮かない表情でご相談にお越しになりました。

四十九日も済まないうちに、長女の良子さんから、「お母さんばかりずるい。私だって相続人なんだから、遺留分はきっちり払ってもらいますからね」と言われたというのです。

佐藤家の子2人は、いずれも独立して関東近郊で暮らしています。

健一さんは病気を患い、長い闘病生活を送っていましたが、それを献身的に支えてきたのは妻の和子さんでした。

「『遺留分なんて請求しないでくれ』ってお父さん(健一さん)も言っているのに・・・」と溜息をつく和子さん。

確かに、健一さんの遺言書には、最後の付言事項の箇所に、和子さんへの感謝の言葉とともに、「良子、健二は、私の遺志を汲んで、母さんに遺留分など請求しないようにして下さい」と書かれていました。

なお、長男の健二さんは、「自分は何も手伝えなかったし、おやじが決めたとおりでいいよ」とのことで、遺留分の請求はしないと言ってくれているそうです。

遺留分侵害額請求事件(被請求側)として受任

遺留分侵害額請求事件(被請求側)として受任

確かに、健一さんの遺言書には、最後の付言事項の箇所に、「良子、健二は、私の遺志を汲んで、母さんに遺留分など請求しないようにして下さい」と書かれています。

しかし、残念ながら、このような付言事項に法的拘束力まではありません。

つまり、遺言書を読んだ良子さんが、やはり自分の取り分が全くないことに納得がいかず、遺留分侵害額請求権を行使するというのであれば、それを止める手立てはない、ということです。

和子さんは、「遺留分といったって、いくら払えばいいのやら・・・。私が『そんなお金はない。家を売らないといけなくなる』と言ったら、あの子は『それなら裁判所に調停を申し立てるから』とまで言うんですよ」と途方に暮れているようでした。

その言葉どおり、相談後間もなくして、和子さんのもとには家庭裁判所から調停期日の呼出し状が届きました。

そこで、遺留分侵害額請求(被請求側)の調停事件としてご依頼いただくことになりました。

調停の経緯

調停の経緯

遺留分侵害額請求権の行使

和子さんのもとには、調停申立てと前後して、良子さんから遺留分侵害額請求を行う旨の内容証明郵便が届いていました。

良子さんにも代理人弁護士がついています。

第1回目の調停期日も決まり、裁判所での話し合いがスタートしました。

遺産の全容の把握

健一さんの遺産は、ずっと同居してきた和子さんが全て把握しており、

■自宅マンション(川口市内)
■預貯金 460万円

だけです。

調停期日では、当方から、相続開始日(健一さんの亡くなった日)の預貯金の残高が分かる残高証明書や預金通帳の写しを提出しました。

遺産が上記2つだけであること、預貯金の残高(和子さんによる預貯金の使い込み等はないこと)については、当事者間に争いはありませんでした。

具体的な遺留分の計算

具体的な遺留分の計算

さて、本件で最も大きな問題は、川口市内の自宅マンションの価格です。

「預貯金の額に比べて、不動産の価値があまりに高くなるのではないか」ということで、不動産の価格が高く出てしまうと、良子さんに支払わなければならなくなる遺留分の金額も、その分高額になります。

健一さんから相続した預貯金の金額では、賄い切れなくなるかもしれないのです。

このように、残された遺産の構成に偏りがあると(特に、不動産が多く、金融資産が少ない状態だと)、遺留分の請求を受けた相続人がその支払いに困ってしまいます。

現に、良子さん側は、自宅マンションの価格を「7500万円」とする不動産業者の査定を提示し、
(7500万円+460万円)×8分の1=995万円

との計算で、遺留分として「995万円」を支払うよう請求してきました。

健一さんから相続した460万円に和子さん自身の蓄えを合わせたとしても、「995万円」という大金を用意することなどできません。

「健二に援助をお願いするわけにはいかないし、こうなったら、銀行にでも行って、マンションを担保にお金を借りてくるしかないでしょうか?」

不安そうな和子さんに、弁護士は「いえ、まだ諦めるのは早いですよ」とお伝えしました。

対抗策①不動産の評価額を下げる

相手方が出してきた不動産業者の査定書は、立地や築年数、専有面積など登記簿に載っている形式的な情報をもとにした、机上査定でした。

この自宅マンションの築年数は35年です。

和子さんにお聞きすると、やはり、中はだいぶ傷みがきているとのことでした。

そこで、対抗手段として、こちらも不動産業者の査定を、それも内覧をしてもらったうえでの査定を取ることにしました。

このように実際に建物内部を見てもらっての査定が依頼できるのは、実際にその物件に住んでいる側の強みです。

部屋の中までしっかり見てもらったうえで、出てきた査定金額は「5000万円」でした。

「立地は良いけれど、高値で売りに出すためには、相応の金額を費やしてリフォームする必要がある」というのが減額の理由でした。

金額の乖離が大きく、1社だけだと良子さんが信用しないだろうと踏んで、もう2社に無料査定をお願いすることにしました。

上がってきた金額は、「4780万円」、「5100万円」で、いずれも「5000万円」に近いものでした。

そこで、それら3通の査定書を提出するとともに、

■申立人(良子さん)提出の査定書は机上査定に過ぎず、実際のマンションの価値を正しく反映させたものとは言えないこと
■本件マンションの評価額は、こちらが提出した3通の査定書の平均値を取って、(5000万円+4780万円+5100万円)÷3=「4960万円」とすべきこと
を主張しました。

良子さん側からは「自分達でも内覧しての査定を取りたいので、室内への立入り等協力して欲しい」という申出があったものの、調停委員から、「相手方(和子さん)がすでに3社も内覧査定を取っていて、いずれも近しい金額が出ているのだから、重ねて査定を取る意味はないのではないか」という話があって、撤回。

自宅マンションの価格を「4960万円」とすることで合意しました。

対抗策②権利者の特別受益を主張する

続いて、和子さんに確認したのは、
「良子さんは、ご結婚や自宅を新築する際に、健一さんからまとまったお金をもらったことがありませんか?」
ということです。

「そう言えば、あの子が結婚した時に、お父さん(健一さん)から支度金として、確か300万円くらい持たせたような気がします」

和子さんの記憶を頼りに、健一さんの過去の通帳を探してもらったところ、古い郵便局の通帳から、350万円を出金した履歴に、健一さんの手書きで「良子 支度金」と書かれている箇所があるのが見つかりました。

これは、被相続人から婚姻のために贈与を受けたものとして「特別受益」に該当します。

和子さんからは、「でも、良子が結婚したのは36年も前のことです。こんな昔のことでも、今回の遺留分の問題で考慮してもらえるんですか?」とのお尋ねがありました。

しかし、遺留分侵害額を計算する際、権利者(遺留分を請求する人)が受けた特別受益については何年前のものであっても控除することができます。

そこで、調停において、見つかった健一さんの郵便局の通帳の写しを提出するとともに、「良子さんが婚姻時に健一さんから受け取った支度金350万円は特別受益に該当するので、遺留分侵害額の計算において控除すべきだ」と主張しました。

良子さんは、こんなに古い通帳が出てくるとは思わなかったようです。

「娘の結婚なのだから、それくらいの金額をもらうのは普通のこと。」と不満を述べていたようですが、代理人弁護士の説得もあり、最終的には特別受益としての控除を認めることになりました。

これにより、本件における申立人(良子さん)の遺留分の金額は、次のように決まりました。

自宅マンション(川口市内) 4960万円
預貯金 460万円
合 計5420万円

本件における良子さんの遺留分の割合は「8分の1」ですから、具体的な遺留分の金額は、
(5420万円×8分の1)-350万円=327万5000円
です。

解決

解決

「和子さんから良子さんに対し、遺留分として327万5000円を支払う」旨の調停が成立し、本件は終了となりました。

和子さんは、「この金額だったら何とか払えますし、何より、お父さん(健一さん)が残してくれたマンションに住み続けられるようになったのが嬉しいです」とほっとした表情を見せていらっしゃいました。

遺留分侵害額請求 Q&A

遺留分侵害額請求 Q&A
ご相談者様

Q1 遺産をもらった相続人や生前贈与を受けた相続人が複数います。誰を相手に請求すればよいですか?

グリーンリーフ法律事務所弁護士

A1 遺贈を受けた人(受遺者)と贈与を受けた人(受贈者)がいる場合は、必ず、受遺者に対する請求が優先です。受遺者に対する請求では遺留分侵害額を全額満たすことができない場合に、初めて受贈者に請求することができます。

なお、異なる時期に贈与がなされた場合は、時期の新しい贈与から、すなわち、相続開始時に近い贈与から順に請求していくことになります。

ご相談者様

Q2 遺産の中に株式があって最近かなり値上がりしているのですが、遺留分の計算をする時に、値上がり後の高い金額で評価してもらえますか?

グリーンリーフ法律事務所弁護士

A2 遺留分の場合、遺産の評価の基準時は原則として「相続発生時(=被相続人の死亡時)」となります。このため、残念ながら、値上がりした現在の金額では評価してもらえません。

ご相談者様

Q3 遺産の中にあまり金融資産がないので、遺留分相当額を現物(不動産)の形で渡したいのですが、可能ですか?

グリーンリーフ法律事務所弁護士

A3 遺留分は金銭で支払わなければならないので、このようなことはできないのが原則です。
ただし、相手方も同意してくれるのであれば、不動産などを現物で渡して支払いに代えることも可能です。

ご相談者様

Q4 遺留分の支払いについて、協議がまとまらなかったらどうすればよいでしょうか?

グリーンリーフ法律事務所弁護士

A4 当事者間での協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額請求の調停を申し立てます。

調停でも合意に至らない場合には、地方裁判所に訴訟を提起し、最終的には判決で決着が図られることになります。

なお、調停前置主義が取られているため、調停を飛ばして訴訟を提起することは原則としてできません。

ご相談
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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