
交通事故で車が損傷した場合、修理費用の賠償を受けられることは多くの方がご存じかと思います。しかし、「修理しても中古車市場での価値が下がってしまった分」、いわゆる評価損についても、一定の条件を満たせば損害賠償として請求できることをご存じでしょうか。
評価損は、保険会社が支払いに消極的なことが多く、適切な知識がなければ泣き寝入りになりやすい損害項目です。本記事では、評価損の概念・認定の条件・最新の裁判例の傾向・請求にあたっての注意点まで、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
※本コラムは、令和7年9月13日、東京地方裁判所民事第27部の満田智彦裁判官・早山眞一郎裁判官・倉鋪卓徳裁判官による講演「損害賠償額の算定について」を参考にして、過去のコラムをアップデートしたものです。
1 評価損とは何か
(1)評価損の基本的な意味

交通事故により車両が損傷した場合、修理によって外観や機能は回復しても、「事故歴・修復歴のある車」というレッテルが中古車市場において価格の下落をもたらすことがあります。この、修理後も残る市場価値の減少分を「評価損」といいます。
評価損は、修理費とは別に請求できる損害項目です。
(2)技術上の評価損と取引上の評価損
評価損には大きく2種類があります。
- 技術上の評価損:修理しても外観や機能に何らかの欠陥が残ってしまう場合に生じる評価損
- 取引上の評価損:修理により外観・機能は回復しているものの、事故歴・修復歴があることで中古車市場における信頼性が低下し、価格が下がることで生じる評価損
実務上、訴訟で主に問題となるのは「取引上の評価損」です。本記事でも取引上の評価損を中心に解説します。
2 評価損が認められる条件と裁判例の傾向
(1)評価損の請求が認められてきた経緯

かつては、「修理により事故前の状態に回復している以上、客観的な価値の低下はなく損害は発生していない」とする否定説もありました。しかし現在では、中古車市場において事故歴のある車は価格が低下する傾向がある以上、交換価値の減少という損害が発生したと認める見解が多数説となっています。
令和7年9月に東京地方裁判所が実施した講演(民事第27部)においても、「評価損全般を否定するような説示をしている裁判例は見当たらず、実務は肯定説で運用されていると言えそうです」と整理されており、現在の実務では評価損は認められうるものとして扱われています。
(2)認定にあたって考慮される主な要素
裁判例を分析すると、評価損の認定・金額算定において以下の要素が総合的に考慮されています。
- 初度登録からの期間(年式の新しさ)
- 走行距離
- 損傷の部位・程度(骨格部分に損傷があるか否か)
- 車種・車両の価格帯(高級車・外国車か大衆車か)
なかでも「骨格部分への損傷」は特に重視されます。骨格部分(フレーム・サイドメンバー・クロスメンバー・ピラー等)の修復は、自動車公正競争規約により中古車販売業者の修復歴表示義務が生じる部分であり、取引上の価値下落と直結するためです。
もっとも、現在の多数説・裁判例は、骨格部分に損傷が生じていない場合でも評価損の発生を認めるものが多数あります。骨格損傷がないからといって、直ちに評価損の請求を諦める必要はありません。
(3)裁判例から見る評価損の目安
令和元年以降に公表された裁判例約90件の分析から、次のような目安が導かれます(下表参照)。
| 評価損の目安 | 初度登録からの期間 | 走行距離の目安 | 主な条件 |
| 修理費の約30% | 1年未満 | 1万km未満 | 高級車かつ骨格部分に損傷あり |
| 修理費の約20% | 6か月〜2年以内 | 1〜2万km程度 | 高級車(骨格損傷あり)または外国高級車(骨格損傷なし) |
| 修理費の約10% | 1〜5年以内 | 2万km程度まで | 外国製高級車または国産高級車(登録1〜2年・骨格損傷なし) |
| 認められにくい | 国産5年超・外国5年超 | 7万km超(高級車)1万km超(大衆車) | 大衆車・軽微な損傷・年式が古い |
※裁判例には個別の事情に応じた幅があります。上記の目安に当てはまらない場合でも、評価損が認められた事例が存在します。
なお、初度登録から7年(84か月)を超える車両については、クラシックカーなど特殊な例外を除き、ほぼすべての裁判例で評価損が否定されています。また、走行距離が9万kmを超えるものは全件否定されています。
(4)評価損が認められた主な裁判例(令和元年以降)
以下に代表的な裁判例を紹介します(下表参照)。
| 車種(判決年) | 登録期間 | 走行距離 | 認定割合 | 備考 |
| レクサスLC500S(R2年) | 1か月3日 | 865km | 修理費の30% | 骨格部分損傷あり(大阪地裁) |
| レクサスRX200t(R2年) | 7か月 | 4,040km | 修理費の30% | フロント大破・骨格損傷(大阪地裁) |
| ニッサンGT-R(R3年) | 1年2か月 | 6,529km | 修理費の30% | フロントピラー等損傷(東京地裁) |
| メルセデスベンツ(R4年) | 3か月 | 680km | 修理費の20% | 骨格損傷なし(東京地裁) |
| レクサスLS(R3年) | 1年3か月 | 11,336km | 修理費の20% | 骨格損傷あり(名古屋地裁) |
| セレナ(R5年) | 5か月 | 不明 | 修理費の20% | 大衆車でも骨格損傷等認定(東京地裁) |
| ヴェゼルHV(R元年) | 1年11か月 | 56,461km | 修理費の17% | 事故減価額証明書を参考(大阪地裁) |
| レクサスLX(R6年) | 5年7か月 | 64,026km | 修理費の10% | 走行距離が多くても認定(大阪地裁) |
| プリウス(R3年) | 4年1か月 | 25,999km | 修理費の相当額 | 減価方式・事故前に売却予定あり(東京地裁) |
3 評価損の算定方式と3つの基準

(1)主な4つの算定方式
裁判例では、評価損の金額を算定する方式として主に以下の4つが用いられています。
- ①減価方式:事故時の車両価格と修理後の車両価格の差額を損害とする
- ②時価基準方式:事故時の車両価格の一定割合を損害とする
- ③金額表示方式:車種・使用期間・損傷の内容・程度・修理費等を考慮して損害額を金額で示す
- ④修理費基準方式:修理費の一定割合を損害とする(裁判例の圧倒的多数)
実務では④の修理費基準方式が最も多く採用されています。①の減価方式は理論的には適切ですが、「標準的な下取価格」の正確な認定が困難なため、③・④が採用される場面が多くなっています。
(2)3つの賠償基準
交通事故の損害賠償には3つの算定基準があり、評価損についても同様に適用されます(下表参照)。
| 項目 | 自賠責基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準 |
| 算定主体 | 自賠責保険(法定) | 相手方任意保険会社 | 裁判所・弁護士 |
| 評価損の扱い | 対象外 | 支払いに消極的 | 裁判例に基づき請求可能 |
| 特徴 | 会社ごとに基準が異なる | 被害者に最も有利な基準 |
弁護士が交渉・訴訟を行った場合は、裁判例の蓄積に基づいた弁護士基準(裁判基準)を用いて請求できるため、任意交渉のみの場合と比べて有利な結果につながることがあります。
4 評価損の計算例

保険会社対応と弁護士による請求の違い
以下のケースを例に考えてみましょう。
【ケース】初度登録から1年2か月・走行距離6,500km・国産高級セダン(レクサス系)・骨格部分に損傷あり・修理費120万円
- 保険会社の対応例:「修理すれば元通りです。評価損はお支払いできません。」→ 評価損0円
- 弁護士基準による請求:修理費120万円の20〜30%を評価損として主張 → 24万〜36万円の請求可能性
このような差が生じるのは、保険会社が評価損の支払いを積極的に認めない傾向があるためです。弁護士が代理人として交渉・提訴した場合、裁判例に基づいた根拠を明示した上で請求できるため、評価損が認められることもあります。
5 評価損以外に請求できる物損関係の賠償項目

交通事故による車両損害では、評価損のほかにも次のような賠償項目が請求できます。
- 修理費:実際にかかった修理費用全額(車両時価額が上限となることがある)
- 代車費用:修理期間中に代車を使用した場合の実費(使用の必要性・期間の相当性が問われる)
- 買替差額:全損または修理不能の場合、事故前の車両価格と廃車費用の差額
- 登録費用・車庫証明費用:買替えに伴う諸費用
- レッカー費用:事故現場から修理工場等への搬送費用
これらを漏れなく請求するためにも、修理明細書・見積書・領収書は必ず保管しておきましょう。
6 保険会社の反論とその対策

(1)保険会社がよく使う反論
評価損を請求した際、保険会社からは次のような反論を受けることがあります。
- 「修理すれば車の状態は事故前と同じ。評価損は発生していません」
- 「お車の年式・走行距離からすると、評価損は認められません」
- 「事故減価額証明書を提出してもらわないと対応できません」
- 「認めるとしても修理費の10%程度です」
(2)各反論への対策
【「評価損は発生していない」という反論への対策】
修理により技術的には回復していても、中古車市場では事故歴・修復歴のある車の価格は下落します。現在の裁判実務では評価損の発生自体を否定する見解は少数であり、すべての「評価損は認められない」という主張には根拠がありません。
【「年式・走行距離から認められない」という反論への対策】
年式・走行距離は重要な考慮要素ですが、それだけで評価損が否定されるわけではありません。骨格部分の損傷の有無・車種・損傷の程度によっては、年式がやや古い場合や走行距離がやや多い場合でも評価損が認定された裁判例があります。個別の事情を丁寧に主張することが重要です。
【「事故減価額証明書が必要」という反論への対策】
日本自動車査定協会の事故減価額証明書は、実務上提出されることのある証拠の一つですが、裁判例では「算出根拠が不明」等の理由で採用されないケースも少なくありません。証明書がなくても、修理見積書・修理明細書・損害調査報告書・ディーラーの意見書等によって評価損を立証することも考えられます。ただ、交渉では、事故減価額証明書があったほうが良いです。
(3)証拠収集のポイント
評価損を適切に請求するためには、以下の証拠を早めに収集・保管することが重要です。
- 修理前後の写真(損傷箇所・修理後の状態を明確に撮影)
- 修理見積書・修理明細書(修理箇所・修理方法が詳細に記載されているもの)
- 車検証(初度登録年月日・走行距離の確認)
- ディーラーや中古車査定士の意見書(市場価値の下落に関する専門家の見解)
- 同型車の中古車相場データ(修復歴あり・なしの価格差)
事故直後は身体のことを最優先に、落ち着いたら早い段階から証拠を残しておくことが、後の交渉・訴訟で役立ちます。
7 弁護士費用特約を活用しましょう

弁護士に依頼する際に気になるのが費用の問題です。しかし、自動車保険に「弁護士費用特約」が付いている場合、弁護士費用の多くを保険会社が負担してくれるため、実質的に自己負担なしで弁護士に依頼できるケースがあります。
- 補償額:弁護士費用として通常300万円まで、相談料として10万円まで補償されるケースが多い
- 利用対象:本人だけでなく、同居家族が運転中の事故にも適用されることが多い
- 等級への影響:弁護士費用特約を使っても翌年の保険等級に影響しない
まずはご自身やご家族の保険証券を確認してみてください。評価損の問題で弁護士にご相談いただく際、弁護士費用特約が使えるかどうかを最初にお伝えいただくと、費用の見通しをご説明できます。
8 電気自動車・自動運転車と評価損の新たな論点

(1)電気自動車(EV)のバッテリー損傷
近年急増している電気自動車(EV)については、バッテリー部分の損傷が評価損の算定に大きく影響する可能性があります。EVのバッテリーは非常に高額であり、わずかな衝撃でも交換が必要となるケースがあるため、従来の「修理費の一定割合」という算定方式では適切な評価損を算出しにくい場面も出てきています。この点については今後の裁判例の蓄積が注目されます。
(2)自動運転システムへの損傷
自動運転技術が普及した場合、センサー・カメラ・コンピューター等への損傷が評価損に与える影響も新たな論点となります。現時点では裁判例の集積はまだ少ない状況ですが、安全運転に直結するシステム部品の損傷が、骨格部分への損傷と同様に重視される可能性があります。
まとめ

交通事故による評価損は、一定の条件を満たせば修理費とは別に請求できる損害項目です。要点をまとめると以下のとおりです。
- 評価損とは、修理後も中古車市場で価格が下落する分の損害
- 認定には初度登録からの期間・走行距離・骨格部分への損傷・車種が重要な考慮要素
- 金額の目安は修理費の10〜30%(裁判例による)
- 保険会社は支払いに消極的なことが多く、根拠を示した交渉・訴訟が必要
- 弁護士費用特約があれば、実質的な自己負担を抑えて弁護士に依頼できる
評価損を含む物損の問題でお困りの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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交通事故においても専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は専門チームの弁護士が担当します。
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