
さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。交通事故における重要ポイントについて、実務上の知識を交えて詳しく解説します。
今回は、意外と安易に行われがちな車の「名義貸し」に潜む、法的リスクについて解説します。 「息子がローンを組めないから」「駐車場の契約のために」といった理由で、車の名義を貸してしまったことはありませんか? もしその車で、名義を借りた人が死亡事故を起こしてしまったら…。 「私は運転していないし、車も彼が管理していた」という言い訳は、法律の世界では通用しないことが多いのです。
今回は、息子に名義を貸したお父さん・高橋さん(仮名・50代)からのご相談を例に、交通事故賠償における重要概念の一つである「運行供用者責任」について、対話形式を交えながら解説します。
「私は運転していないのに」突然届いた数千万円の請求

申弁護士(以下、申): 高橋さん、こんにちは。今日は深刻な表情をされていますが、どのようなご相談でしょうか。
高橋さん(以下、高橋): 先生、助けてください。実は先日、同居している20歳の息子が車で死亡事故を起こしてしまったんです。しかも、息子は無免許で運転していたようで……。
申: それは大変なことになりましたね。ご遺族への対応などは進んでいますか。
高橋: はい、それは保険会社が……と言いたいところなんですが、実はその車、息子の車なんですが、車検証上の名義は私になっているんです。息子にお金がなくて頼まれたので、私の名義で購入して登録したんです。そうしたら、被害者のご遺族から、運転していた息子だけでなく、名義人である私に対しても損害賠償請求が来まして。
申: なるほど。ご遺族は、お父様である高橋さんに対しても賠償を求めてきているわけですね。
高橋: ええ。でも先生、その車は普段から息子が鍵を持って管理していて、私は一度も乗ったことがありません。鍵の場所すら知りません。「名義を貸しただけ」の私が、なぜ何千万円もの賠償金を払わなきゃいけないんですか。私は無関係ですよね?
申: 高橋さん、お気持ちはよく分かります。しかし、法的な結論から申し上げますと、高橋さんがその賠償責任を免れるのは難しいかもしれません。
高橋: ええっ!? どうしてですか!?
申: それは、日本の法律には「運行供用者責任(うんこうきょうようしゃせきにん)」という、非常に強力なルールがあるからなんです。
運行供用者責任とは?名義人が負う「支配」と「利益」の責任

申: 自動車事故に関しては、「自動車損害賠償保障法(自賠法)」という特別な法律が優先されます 。 この法律の第3条には、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償しなければならない」という趣旨のことが書かれています。
高橋: 「自己のために自動車を運行の用に供する者」……。難しい言葉ですね。
申: 簡単に言えば、「その車の運行を支配していて、その車を使うことで利益を得ている人(運行供用者)」は、実際に運転していたかどうかにかかわらず、事故の責任を負いなさい、というルールです。
高橋: でも、私は「支配」なんてしていませんよ。息子が勝手に乗っていたんですから。
申: ここが誤解されやすいポイントです。 法律実務における「支配(運行支配)」や「利益(運行利益)」というのは、必ずしも「実際にハンドルを握っている」ことだけを指すのではありません。 判例では、「社会通念上、その車の運行をコントロールできる立場にあり、危険を監視・監督すべき責任があるかどうか」で判断されるのです。
「名義を貸した」という行為が「危険の発生」に寄与する

高橋: でも先生、私は名義を貸しただけですよ。それだけで「コントロールできる立場」になるんですか。
申: はい、なり得ます。むしろ「名義を貸した」という事実こそが、高橋さんに責任を生じさせる最大の要因になります。 過去の重要な判決では、「名義貸しによって運転者が車を使用することを可能にした=危険な行為を容易にさせ、危険の発生に寄与した」と評価されています。
高橋: 息子のために良かれと思ってやったことが、裏目に出るんですね……。
申: そうなんです。名義を貸して車を与えた以上、「社会に害をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあった」とみなされるのです。 特に高橋さんの場合は、
同居の親子であること:別居の親戚よりも、車の管理や息子の行動をチェックしやすい立場にあったと判断されます。
高橋: つまり、私が「名義を貸す」というスタート地点を作ったから、その後の事故の責任も負いなさい、ということなんですね。
高橋: わかりました……。私が甘かったです。では、私は数千万円の賠償金を自腹で払うしかないんでしょうか。
申: 交通事故の損害賠償額は、お怪我の程度や亡くなられた方の状況によって、数千万円から1億円を超えることもあります 。 例えば、一家の支柱の方が亡くなられた場合の死亡慰謝料は、弁護士基準で2,800万円が相場です 。これに逸失利益(将来得られるはずだった収入)が加わると、非常に高額になります 。
高橋: 私が払えなかったら、破産してしまいます。
申: そこで重要になるのが「任意保険」です。お車は保険に加入していましたか。
高橋: はい。名義は私ですが、息子が使う前提で加入はしているはずです。
申: それであれば、まずはその保険が使えるかを確認しましょう。
高橋: 先生、よく分かりました。安易な名義貸しが、自分の人生まで壊しかねないということが骨身に沁みました。
申: 厳しいお話でしたが、早めに気づいて対処することが大切です。 車の名義は単なる記号ではなく、「その車の危険に対して責任を持つという宣言」でもあります。「身内だから」「困っているから」という理由で、安易に名義を貸すことは絶対にやめましょう。
【今回のポイント】

- 車の名義人は、事故の際に「運行供用者責任」を負うリスクが極めて高い。
- 「運転していない」「名義を貸しただけ」という理由は、原則として通用しない。
- 万が一の事故の際は、賠償額が跳ね上がるため、早期に弁護士へ相談し、適正な基準で対応することが重要である。
| 最高裁平成30年12月17日判決 高橋: 先生、最高裁の判例の話が出ましたが、その判決ではなぜ「名義を貸しただけ」の親族にそこまで重い責任を負わせたんですか? 申: 良い質問ですね。そこがこの判例の最も重要なポイントです。最高裁は、名義を貸したYについて、「その名義貸与がなければ、運転者Aは自動車を所有・使用することが事実上困難だった」という点を重視しました。 高橋: つまり、「あなたが名義を貸さなければ、この事故(危険)自体がこの世に存在しなかったはずだ」という理屈ですか? 申: その通りです。さらに裁判所は、「名義上の所有者として、自動車の運行を事実上支配・管理することができ、社会通念上、自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にある」と断じました。 たとえ「自分は一度も運転していない」「鍵も持っていない」と主張しても、法律上は「名義人という公的な立場にある以上、その車がどう使われるかを管理する権限と義務をセットで引き受けたはずだ」とみなされてしまうのです。 高橋: 「権限があるんだから、責任もセットだ」ということですね。 申: はい。特に同居家族であれば、生活を共にしている以上、鍵の管理状況を把握したり、不適切な運転を止めたりすることは「客観的に可能だった」と判断されます。 このように、名義を貸すという行為は、単なる「名前の貸し借り」を超えて、法的には「運行支配を自ら引き受ける行為」と同義に捉えられるのです。 |
弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
今回は、「加害者側の相談」を例に出しましたが、被害者であれば、高橋さんに請求をしていく事になります。その場合は、被害者としては、ご自身で弁護士費用をださなければなりません。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われます。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
骨折や重傷、死亡の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
自営業者の方にとって、事故による休業は事業の存続に関わる重大な事態です。保険会社の事務的な対応に納得がいかない、適正な単価で計算してほしいという方は、ぜひ一度当事務所へご相談ください。
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弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、さいたま市大宮区にあり、設立以来35年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。
交通事故でお悩みの方に適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。ラインや電話での無料相談も可能です。

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。












