近年増えている空き家の相続 早めの対処で「3000万円の特別控除枠」が使えるかも

近年、空き家となった実家を相続するケースが増えています。遺産分割がまとまらない状態が続き、空き家状態で長期間放置することには様々なリスクがあります。相続後の売却時に3000万円の特別控除枠が使える制度もあるため、早めの対処が有効です。

増加する「空き家の相続」

増加する「空き家の相続」

近年、少子高齢化・核家族化などを背景に空き家が増えており、これに伴って、空き家の相続も増えています。

■被相続人が亡くなり、それまで被相続人が居住していた自宅(実家)に誰も住んでいない状態になった

■被相続人は施設に入所しており、その存命中から自宅(実家)には誰も住んでいなかった

などのパターンがありますが、いずれも、主に相続人となる子らは独立して家庭を持っており、実家不動産を利活用する当てもない、という状態が多いのです。

このような場合に遺産分割を行おうとすると、相続人の多くは預貯金や株式などの流動資産を取得したがり、負の遺産となる実家の不動産については往々にして取得したがりません。

その結果、「誰が実家の不動産を取得するか」をめぐって話し合いが紛糾し(ひどい場合は押し付け合いになり)、長い間、遺産分割協議がまとまらないという事態も考えられます。

しかしながら、空き家となった実家の不動産を長期間放置しておくことには、次のようなリスクがあります。

空き家を放置することのリスク

所有者に課される工作物責任

空き家を放置することのリスク

空き家の管理不全に起因して第三者に損害を与えてしまった場合、所有者は、工作物責任と呼ばれる損害賠償義務を負うことになります(民法717条)。

土地の工作物(=建物)に瑕疵がある状態で所有しており、その瑕疵が原因で他人に損害が発生したときは、所有者は(たとえ過失がなかったとしても)損害を賠償しなければならないのです。

例えば、

■台風で屋根材が飛ばされて、隣家の車を傷つけてしまった

■ヒビの入っていたブロック塀を放置していたが、そのブロック塀が突然倒れて通行人が下敷きになり、重症を負わせてしまった

■朽廃した建物が倒壊して、隣家のフェンスや壁を損傷してしまった

などのケースでは、いずれも、空き家の所有者が工作物責任として損害賠償義務を負うことになります。

また、この工作物責任は、植栽にも適用されますので、

■庭に植えてある大木の枝が道路に張り出していたが、ある日、その枝が落下して通行人に怪我をさせてしまった

といった場合も、空き家の所有者が損害賠償義務を負います。

これらは、「空き家を(危険な状態で)所有していた」ことから発生する責任であり、万一死傷事故が発生すれば被害も大きく、従って賠償金額も高額になることが多いです。

相続が発生したものの遺産分割が完了していない場合、その間は、相続人全員で空き家を共有している状態となります。

このため、全ての相続人が、空き家の所有者として責任を問われる可能性があるのです。

その他の損害賠償責任

その他の損害賠償責任

上記の工作物責任以外にも、

■漏電などで火災が発生して、両隣の家を全焼させてしまった

といった場合には、一般的な不法行為責任として、所有者、つまり空き家を共有している状態にある相続人全員が、損害賠償義務を負う可能性があります。

火災保険で対応しようにも、誰も人が住んでいない空き家は保証の対象外となる場合もあります。そうなれば、近隣住民への多額の賠償金を所有者個人(つまり空き家を共有している状態にある相続人全員)が支払わなければなりません。

法的責任以外のリスク

法的責任以外のリスク

建物の老朽化によるリスク

家屋は、適切な管理をしないとあっという間に劣化が進みます。

定期的なメンテナンスや修繕を怠っていると、台風や強風の際に外壁材や屋根材が落下したり、雨漏りの放置で室内の床が腐ったり、さらには、建物自体が倒壊する恐れも出てきます。

空き家の状態で放置している期間が長ければ長いほど、建物の劣化が進み、売却しようと思った時には、買い手がつかない、思うような値段で売れない、という状態にもなりかねません。

衛生面でのリスク

定期的な換気や掃除を怠ると、ネズミや害虫(シロアリなど)が発生する可能性があります。

また、老朽化した家屋には害獣が容易に侵入できる“隙間”ができ、それらを修繕しなければ、ハクビシンやアライグマなどが天井裏や室内に棲みついてしまうこともあるのです。

空き家がこうした害虫や害獣の温床となってしまうと、悪臭や糞尿で不衛生極まりなく、近隣の住民にも多大な迷惑をかけることになります。

周辺環境悪化のリスク

庭付きの空き家で植栽があるという場合は、その管理が大変です。

定期的な手入れを怠れば、草木はあっという間に伸び放題となりますし、ひどい場合は、樹木の枝が隣地に越境して隣人の迷惑になることもあります。

また、空き家の老朽化が進んでまるで廃墟のようになってくると、近隣の景観を損なうほか、そのような外観がゴミの不法投棄を誘引する可能性もあります。

罰則が適用されるリスク

■倒壊など著しく保安上危険となる恐れがある状態

■アスベスト飛散やゴミによる異臭の発生など、著しく衛生上有害となる恐れがある状態

■適切な管理がされていないことで著しく景観を損なっている状態

■その他、立木の枝の越境や棲みついた動物の糞尿などの影響によって、周辺の生活環境を乱している状態

これらに1つでも当てはまる場合は、空家法等対策の推進に関する特別措置法に基づき、自治体から「特定空家等」と認定されます。

「特定空家等」に認定され、自治体からの勧告や命令に従わずに放置を続けると、罰則(最大で50万円の過料)が適用されることがあります。

税負担が増えるリスク

土地や建物といった不動産を所有していると、固定資産税や都市計画税などの税金がかかります。

居住できる建物(住宅、マンションなど)の敷地である「住宅用地」には、特例措置が適用されており、例えば、固定資産税の課税標準額は、面積200㎡以下の部分までの住宅用地(小規模住宅用地)は6分の1、小規模住宅用地以外の住宅用地は3分の1に軽減されています。

しかし、空家法等対策の推進に関する特別措置法に基づく「勧告」を受けた「特定空家等」の敷地や、居住のために必要な管理がなされていない場合などで今後居住する見込みがない空き家の敷地には、この特例措置が適用されなくなります。

つまり、自治体から「勧告」を受けると、税制上の優遇措置の対象外となり、固定資産税が今までの最大6倍になってしまうのです。

空き家の相続を早く進める!

空き家の相続を早く進める!

以上見てきたとおり、空き家を長期間放置することには様々のリスクがあります。

特に、遺産分割未了のままの空き家は相続人全員の共有状態にありますから、維持管理費の精算や損害賠償責任の分担をめぐってさらに相続人間で揉めやすく、これを長期間放置しておいて良いことは、ひとつもありません。

とにかく、空き家の遺産分割を早く進めることが重要です。

ここで、空き家の遺産分割を早く進めと、その後に空き家を売却する際、税制上の優遇措置が受けられる可能性があることをご存じでしょうか?

それは、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」です。

特別控除の特例の概要

「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」では、相続または遺贈により取得した居住用建物または居住用建物の敷地を、令和9年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3000万円まで控除することができます。

相続で空き家を取得すると相続税などの優遇措置が受けられるというのではなく、相続で取得した空き家を売却すると譲渡所得から一定額を控除するという形で優遇措置が受けられる、という仕組みです。

この特別控除の特例を利用するには、まず、その空き家が、

①被相続人が亡くなる直前まで、被相続人が居住していたこと
(要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなどしていた場合で一定の要件を満たす時も、含まれます)
②昭和56年5月31日以前に建築されたこと
③区分所有建物登記がされている建物でないこと
④被相続人が亡くなる直前において、被相続人以外に居住していた人が存在しないこと
である必要があります。

特別控除の特例を受けるための要件

特別控除の特例を受けるための要件

さらに、この特例を受けるためには、次のような要件を満たす必要があります。

  • 相続または遺贈により被相続人所有の居住用建物(空き家)または居住用建物(空き家)の敷地を取得した相続人が売主であること
  • 空き家を売るか、空き家とその敷地を一緒に売る場合であること
    これらにつき、相続開始時から譲渡時まで事業、貸付け、居住などに使用しておらず、譲渡時に空き家が一定の耐震基準を満たすこと
  • 相続または遺贈により取得した空き家を取り壊した後に、敷地だけを売る場合は、相続開始時から譲渡時まで事業、貸付け、居住などに使用しておらず、取り壊し後に他の建物や構築物などを建築していないこと
  • 相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売ること
  • 売却代金が1億円以下であること(相続人が複数の場合は1人につき1億円ではなく、合算した売却代金が1億円以下であること)
  • 売った空き家やその敷地について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など、他の特例の適用を受けていないこと
  • 同一の被相続人からの相続または遺贈により取得した空き家等について、空き家特例の適用を受けていないこと
  • 空き家やその敷地の売却先が、親子や夫婦など特別の関係がある人でないこと

さらに細かい条件もありますので、ご自身のケースで実際にこの特例が使えるかどうかについては税理士に相談してみましょう。

「相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売ること」が必要

「相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売ること」が必要

さて、特例の適用される要件のうち、特に重要なのが、
「④相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売ること」
という要件です。

「相続開始」とは、つまり、「被相続人が亡くなった時」であり、そこが起算点になります。

「空き家を遺産分割で取得した時」が起算点になるわけではありませんので、注意が必要です。

先に述べたように、遺産分割未了のまま、空き家を長期間に渡って放置することには様々なリスクがあります。

そのようなリスクを負っている期間を少しでも短くし、かつ、取得後売却した時の税制優遇措置も受けられるのであれば、一石二鳥と言えます。

他の適用要件も満たすようであれば、なるべく早めに遺産分割を完了させ、その後の売却時に最大3000万円の特別控除を受けましょう。

もっとも、

■相続人の人数が多い
■空き家以外にも多額の遺産がある
■空き家以外にも分割方法で揉めている遺産がある

といったケースでは、なるべく早く遺産分割を終わらせようにも、どうしても協議や調停に時間がかかることもあります。

また、繰り返しになりますが、この特例は、相続で空き家を取得すると相続税などの優遇措置が受けられるというのではなく、相続で取得した空き家を売却すると譲渡所得から一定額を控除するという形で優遇措置が受けられる、という仕組みです。

「遺産分割自体は早く終わったけれども、取得した空き家やその敷地がなかなか売れずに、期限を過ぎてしまった」ということもあり得るでしょう。

しかも、現時点(令和7年12月現在)で、この特例はそもそも令和9年12月31日までの制度となっています。

相続で取得した空き家を令和9年12月31日までに売らなければ適用されないため、(さらなる延長がない限り)制度自体のタイムリミットも迫っています。

最大3000万円の特別控除枠を使って相続した空き家をお得に売却したいと考えている方で、遺産分割がまだ終わっていない方、あるいは取得した空き家をまだ売却していない方は、なるべく急ぐ必要があります。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美

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