
さいたま市大宮区にある、埼玉県内でトップクラスの弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の交通事故集中チームの弁護士が執筆しています。
また、本記事は、自転車事故・バイク事故を含む交通事故で「胸部を強く打ち」、肋骨を骨折したケースについて詳しく整理しています。
交通事故によって負う傷害は多岐にわたりますが、一見軽傷に見えても、その後の生活に重大な影響を及ぼす部位の骨折があります。その一つが、胸部を守る「肋骨」の骨折です。肋骨は呼吸に不可欠な構造であり、この部位を損傷すると、激しい痛みだけでなく、呼吸困難や内臓損傷など、深刻な合併症が残りかねません。
以下では、肋骨骨折の後遺障害や、慰謝料、適正な賠償額について、交通事故チームの弁護士が分かりやすく解説します。
肋骨とは

肋骨は、胸部を取り囲む12対24本の骨で、心臓や肺といった重要な臓器を保護する「胸郭」を形成しています。背中側では胸椎(脊柱の胸部にある骨)と関節でつながり、前面では軟骨を介して胸骨と接合しています。この構造により、胸郭は呼吸時に拡張・収縮する柔軟性を持ちながら、同時に内臓を外部の衝撃から守る頑丈さも兼ね備えています。
肋骨の間には肋間筋という筋肉があり、呼吸運動を助けるとともに、肋骨の間を走る肋間神経と肋間血管を保護しています。肋骨骨折が生じた場合、単に骨が折れるという問題に留まらず、この肋間神経が損傷を受けて強い痛みが続いたり、骨折片が肺などの臓器を傷つけたりする危険性があるのです。
特に、胸部への強い衝撃を伴う交通事故では、複数の肋骨が同時に骨折する「多発肋骨骨折」や、肋骨が複数箇所で折れて胸壁の安定性が失われる「フレイルチェスト(動揺胸郭)」といった重篤な状態に陥ることもあり、特に注意を要します。
骨折の原因(自転車事故・バイク事故での転倒、衝突による骨折)

肋骨骨折は、胸部への直接的な外力によって発生することが一般的です。交通事故においては、以下のような状況で肋骨に強い衝撃が加わり、骨折に至ることが多く見られます。
1. 自転車事故やバイク事故での転倒・転落
自転車やバイクで走行中に車と接触したり、路面の段差や濡れた路面でバランスを崩したりして転倒した際、地面に胸部を強く打ちつけることで肋骨が骨折します。特に、自転車やバイクは体が外に投げ出されやすく、転倒時の衝撃が直接胸部に伝わるため、肋骨骨折のリスクが高くなります。
ハンドルに胸部を打ちつける形で転倒した場合や、車との衝突によって地面に叩きつけられた場合、その衝撃は肋骨の耐性を遥かに超えるものとなり、複数の肋骨が同時に折れる多発骨折を引き起こすこともあります。
2. 車との衝突による直接打撲
歩行者や自転車、バイクが車と衝突した際、車のボンネットやバンパーに胸部を直接打ちつけることで肋骨が骨折します。また、車に跳ね飛ばされて地面に落下する際の二次的な衝撃でも骨折が生じます。
3. 四輪車内でのシートベルトや内装への衝突
四輪車同士の衝突事故においても、シートベルトによる強い圧迫や、ハンドルやダッシュボードへの衝突により肋骨が骨折することがあります。特に正面衝突や側面衝突では、急激な減速や横からの衝撃により胸部に強い力が加わります。
肋骨骨折は、骨折の本数や部位によって重症度が大きく異なります。1〜2本の単純骨折であれば比較的軽症ですが、3本以上の多発骨折や、両側の肋骨が複数箇所で折れるフレイルチェストの場合、呼吸不全や血胸(胸腔内に血液が溜まる状態)、気胸(肺に穴が開いて空気が漏れる状態)といった生命に関わる合併症を伴うことがあり、迅速かつ適切な治療が必要です。
痛み等の症状

肋骨骨折の主な症状は、骨折の程度や合併症の有無によって大きく異なります。
1. 激しい疼痛
最も顕著な症状は、骨折部位周辺の激しい痛みです。肋骨は呼吸のたびに動く骨であるため、息を吸ったり吐いたりするだけで強い痛みを伴います。深呼吸、咳、くしゃみをすると痛みがさらに増強し、体をひねったり寝返りを打ったりする動作も困難になります。
この痛みは、骨折による物理的な刺激だけでなく、骨折部位周辺の筋肉や軟骨の損傷、炎症によっても引き起こされます。痛みのために深い呼吸ができなくなり、浅い呼吸を続けることで肺炎などの合併症を引き起こすリスクもあります。
2. 呼吸困難
複数の肋骨が折れた場合や、フレイルチェストの状態になった場合、胸郭の正常な動きが妨げられ、十分な呼吸ができなくなります。痛みのために深呼吸を避けることも、呼吸が浅くなる原因となります。
酸素が十分に取り込めないため、息苦しさを感じたり、動悸がしたり、顔色が悪くなったりすることがあります。
3. 神経症状(肋間神経痛)
肋骨骨折によって肋間神経が損傷したり圧迫されたりした場合、骨折が治癒した後も胸部から脇腹にかけての痛みやしびれが残ることがあります。これを「肋間神経痛」といいます。
肋間神経痛は、骨折部位に沿って帯状に痛みが走るのが特徴で、体をひねったり、特定の姿勢をとったりすると痛みが増強します。この神経症状は慢性化しやすく、後遺障害認定において重要な要素となります。
4. 内臓損傷の合併
肋骨骨折、特に下位肋骨(下の方の肋骨)の骨折では、骨折片が肝臓や脾臓、腎臓などの腹部臓器を傷つけることがあります。また、肺を損傷して気胸や血胸を引き起こすこともあります。
内臓損傷がある場合、腹痛や血尿、呼吸困難などの症状が現れ、緊急手術が必要になることもあります。
認定されうる後遺障害

交通事故による肋骨骨折を負い、適切な治療を継続してもなお症状が残ってしまった場合、残存した症状は後遺障害として認定される可能性があります。肋骨骨折の場合、主に「体幹骨の変形障害」「神経系統の機能の障害(神経症状)」の3つの側面から後遺障害等級が検討されます。
1. 体幹骨の変形障害
肋骨の骨折が癒合する際に、骨が本来の形とは異なる形で固まってしまった場合(変形癒合)、または骨折部が適切に癒合しない場合(偽関節)、体幹骨の変形障害として評価されます。
- 12級5号:鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの
肋骨の著しい変形をX線やCT画像で客観的に確認できる場合に該当します。「著しい変形」とは、裸体になったときに変形が明らかに分かる程度のものをいいます。
2. 神経系統の機能の障害(神経症状)
骨折によって肋間神経が損傷を受け、疼痛やしびれなどの神経症状が残存した場合、以下の等級が検討されます。
- 12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
- 痛みやしびれが医学的に説明可能であり、画像所見や神経学的検査で裏付けられる場合です。
- 14級9号:局部に神経症状を残すもの
- 痛みやしびれが残っているものの、医学的な証明が困難な場合や、症状の程度が軽微であると判断される場合です。
肋間神経痛の立証には、骨折部位と症状の部位の一致、一貫した訴え、神経学的検査での異常所見などが重要となります。
3.胸腹部臓器の機能障害(呼吸機能障害)
肋骨骨折やその合併症(肺損傷など)によって、呼吸機能に障害が残った場合は、別途、等級が検討されます。
骨折で認定されうる後遺障害等級の損害賠償について

後遺症慰謝料について
後遺障害等級は、症状の重さに応じて最も重い1級から最も軽い14級まで区分されています。そして、等級が認定されるかどうか、また何級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金の額が、数百万円から、重い場合には数千万円以上も変わってくるのです。
適切な後遺障害等級が認定されたら、次はいよいよ保険会社との具体的な賠償金の交渉です。ここで知っておかなければならないのが、慰謝料などの計算に用いられる「3つの基準」の存在です。
→慰謝料の計算には3つの基準がある
- 自賠責基準: 法律で定められた最低限の補償。最も金額が低い。
- 任意保険基準: 各保険会社が独自に設定している基準。自賠責基準よりは高いが、次に述べる弁護士基準には及ばない。
- 弁護士基準(裁判基準): 基本的には、過去の裁判例をもとに設定された基準。3つの基準の中で最も高額であり、法的に認められる正当な賠償額と言える。
保険会社が被害者本人に提示してくる金額は、通常「任意保険基準」か、それに近い低い金額です。被害者が「弁護士基準」で賠償金を受け取るためには、弁護士を立てて交渉することが事実上、不可欠となります。
参考までに、後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。
※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。
| 後遺障害等級 | 裁判基準 | 労働能力喪失率 |
|---|---|---|
| 第1級 | 2,800万円 | 100/100 |
| 第2級 | 2,370万円 | 100/100 |
| 第3級 | 1,990万円 | 100/100 |
| 第4級 | 1,670万円 | 92/100 |
| 第5級 | 1,400万円 | 79/100 |
| 第6級 | 1,180万円 | 67/100 |
| 第7級 | 1,000万円 | 56/100 |
| 第8級 | 830万円 | 45/100 |
| 第9級 | 690万円 | 35/100 |
| 第10級 | 550万円 | 27/100 |
| 第11級 | 420万円 | 20/100 |
| 第12級 | 290万円 | 14/100 |
| 第13級 | 180万円 | 9/100 |
| 第14級 | 110万円 | 5/100 |
請求できる損害賠償の項目

後遺障害が残った場合、交通事故で請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。主に以下の項目があります。
- 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代など。
- 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減の損害。
- 入通院慰謝料: 入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する補償。
- 後遺障害慰謝料: 後遺障害が残ったことによる将来にわたる精神的苦痛への補償。
- 逸失利益: 後遺障害によって将来得られるはずだった収入が減少したことへの補償。
逸失利益 – 将来の収入減に対する補償について
将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。
逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。
ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。
中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。
まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
| 1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
- 基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
- 労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。上記に掲載した表に載っています。
- 労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
- ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。
骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)
事故で通院をした場合は、後遺障害慰謝料とは別で、通院(傷害)慰謝料が請求できます。後遺障害が認められない場合は、この通院慰謝料のみを請求します。
骨折など、むちうちより重い怪我の場合は、より高額な慰謝料基準が適用されます。
なお、すべての損害に共通ですが、過失がある場合は、過失分が引かれます。
(例)
・通院期間6ヶ月の場合:基準額 約116万円
→過失9対1の場合の請求額:116万円 × (1 – 0.1) = 約104.4万円
・通院期間1年の場合:基準額 約154万円
→過失9対1の場合の請求額:154万円 × (1 – 0.1) = 約138.6万円
※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。

●表の見方
- 入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
- 通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
- 両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。
後遺障害の等級認定について

後遺障害は、慰謝料等の保険金に大きな影響を及ぼします。
後遺障害の等級認定は、医師の診断書を元に損害保険料率算出機構が行いますが、被害者が考えているような認定が受けられないことがしばしばあります。
つまり、考えていたよりも低い等級で認定されてしまったり、等級がつかない「非該当」とされることもあります。
適正な後遺障害の認定を受けるためには、適切な治療を受け、適切な検査を受け、適切な行為障害の診断書を作成してもらうことは、重要です。
同じ症状でも、医師がどのような治療を選択するか、検査を選択するかは、全く違います。また、診断書の書き方も全く違います。
従って、適切な後遺障害の認定を受けるためにも、受傷直後、症状固定前から、弁護士に相談されることが重要です。
交通事故に遭われた場合、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。
- 法律相談料は初回無料
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弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。
骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
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交通事故には、その痛みの辛さが他人に理解されにくく、適切な補償を受けられずに泣き寝入りしてしまいがちな怪我もあります。
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