【弁護士が解説】ドライブレコーダーがない場合の過失割合の決め方と対策

ドライブレコーダー(ドラレコ)の普及は目覚ましいものがありますが、すべての車に搭載されているわけではありません。もし交通事故に遭った際、自分や相手の車にドラレコがなかったら、「証拠がないから不利になるのでは?」と不安に感じるのは当然のことです。

交通事故における過失割合は、損害賠償額に直結する非常に重要な要素です。ドラレコという客観的な動かぬ証拠がない場合、事故の状況をどのように立証し、適正な過失割合を導き出すのか。本コラムでは、ドラレコがない場合の過失割合の決め方と、事故直後からあなたができる具体的な対策について、埼玉県大宮の弁護士が解説します。

過失割合の基礎知識と決定プロセスの理解

過失割合の基礎知識と決定プロセスの理解

過失割合とは、交通事故が発生したことについて、当事者双方にどれだけの責任、すなわち過失があるかをパーセンテージで示したものです。

例えば、「加害者80:被害者20」という割合は、加害者に8割、被害者に2割の責任があることを意味します。この割合は、双方の損害賠償額にそのまま影響し、被害者に2割の過失があると、総損害額から2割が差し引かれる過失相殺が適用されます。

ドラレコ映像という直接的な証拠がない状況において、過失割合は以下の三つの要素を総合的に考慮して決定されます。

まず、保険会社や裁判所が過失割合を決定する際の出発点となるのが、『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(判例タイムズ)』です。

これは、過去の裁判例を類型化し、「信号機のある交差点での出合い頭の事故」や「進路変更時の事故」といった事故パターンごとに、基本的な過失割合を示したものであり、まずはこの基準から基本的な割合を特定します。

次に、この基本の過失割合が決まったら、個別の事故状況に応じて修正要素を加味し、割合を調整します。

修正要素には、居眠り運転や酒気帯び運転、大幅な速度超過といった重大な過失、脇見運転や携帯電話の使用などの軽微な過失、さらには夜間の事故や幹線道路か否かといった特定の状況が考慮されます。

重大な過失は基本割合を10パーセントから20パーセント程度、軽微な過失は5パーセントから10パーセント程度増減させる要素として機能します。

この修正要素を適用する段階で、客観的な証拠、つまりドラレコ映像がないことが大きな壁となります。証拠がない場合、当事者双方の供述の信用性が非常に重要になるため、立証活動が極めて困難になるのです。

ドラレコがない場合の立証における難点と「水掛け論」の回避

ドラレコがない場合の立証における難点と「水掛け論」の回避

ドラレコ映像があれば、事故時の速度、制動の有無、信号の色、衝突角度といった事実関係が一目瞭然ですが、これがなければ「言った言わない」の水掛け論になりがちです。

供述の信用性の問題は深刻です。どちらの当事者の主張が正しいか、つまりどちらの証言の信用性が高いかを判断するのは容易ではありません。

保険会社は、双方が自分の主張を譲らない場合、中立的な立場として、お互いの主張を排除し、基本の過失割合をそのまま適用しようとする傾向があります。

裁判所もまた、事故状況について合理的な疑いが残る場合、一方の主張のみを一方的に認めることは難しくなります。結果として、供述を裏付ける客観的な証拠がないと、立証に失敗するリスクが高まります。

過失割合を争う場合、「自己に有利な事実を主張する側」が、その事実を証明する責任、すなわち立証責任を負うのが原則です。

例えば、「自分は青信号で進入した」と主張するなら、その事実を自ら証明しなければなりません。

ドラレコがない状況では、この立証責任を果たすハードルが格段に上がります。そのため、事故直後から徹底的に証拠を収集し、過失割合を有利に進めるための立証活動を行うことが極めて重要になります。

事故直後から行うべき具体的な証拠収集と保全の手段

事故直後から行うべき具体的な証拠収集と保全の手段

ドラレコがないことを前提に、事故直後から徹底して行うべき具体的な証拠収集と保全の手段は、後の交渉や訴訟における成否を決定づけます。

まず、最重要事項として、必ず警察に連絡し、事故状況の記録をお願いしてください。警察が作成する実況見分調書は、事故状況を客観的に記録した公的な証拠として、後に最も重要な証拠となります。

実況見分に立ち会う際は、事故の発生状況、例えば衝突地点、双方の走行経路、信号の色などを正確に伝え、警察官に記録してもらうことが肝心です。不明瞭な点や、相手の主張がおかしいと感じた点は、その場で必ず指摘しましょう。

次に、事故現場と車両の損傷を記録することが、ドラレコの代わりとなる重要な証拠になります。

事故直後、車両を移動させる前に、スマートフォンで以下の写真を撮影してください。

遠景から、事故車両の最終停止位置や交差点、標識、信号機、交通規制の状況などがわかるように現場の全体像を撮影します。

また、車両の損傷箇所は、クローズアップだけでなく、少し引いた位置から衝突の角度や衝撃の方向がわかるように撮影します。

路面の痕跡、例えばタイヤ痕(ブレーキ痕)、オイル漏れ、散乱物など、事故発生時の状況を推定できる痕跡があれば、定規などを置いてスケールがわかるように撮影することも有効です。

もちろん、相手方のナンバープレートや運転免許証、保険証券なども撮影し、情報を正確に保全します。

さらに、ドラレコの次に強力な客観的証拠となるのが第三者、すなわち目撃者の証言です。事故発生直後に、通行人や近隣店舗の従業員に声をかけ、証言を依頼してください。

氏名、住所、連絡先(電話番号、メールアドレス)を交換し、可能であれば、その場で「何を見たか」を簡単にメモするか、スマートフォンの録音機能で証言内容を記録しておくことが望ましいです。

目撃者は忙しいため、すぐに連絡先を交換することが最優先となります。

また、事故現場の周辺に、店舗や会社、一般住宅の防犯カメラがないかを確認することも重要です。

防犯カメラの映像は、上書きされて消去されるまでの時間、通常は1週間から1ヶ月程度と短いため、事故直後に所有者に協力を求め、映像の保全をお願いしなければなりません。

個人での交渉が難しい場合は、すぐに弁護士に依頼して証拠保全手続きをとる必要があります。周辺のカメラの存在を見逃さないようにしましょう。

弁護士による専門的な立証活動と過失割合の修正

弁護士による専門的な立証活動と過失割合の修正

ドラレコがない事故では、当事者や保険会社同士の交渉では、基本の過失割合が動かせず、膠着状態に陥ることが少なくありません。そのような状況でこそ、弁護士の専門的立証活動が大きな力を発揮します。

弁護士は、個人では取得が困難な証拠類を、警察や相手方の保険会社に対して正式に開示請求し、立証の素材を集めます。特に、事故発生状況を客観的に把握するための最重要証拠である実況見分調書や、当事者や目撃者が警察に対して行った供述内容が記された供述調書は、相手方の主張の矛盾点を見つけ出す手がかりとなります。

必要に応じて、弁護士は工学的な専門家、いわゆる事故鑑定人と連携し、事故現場の写真や調書から、衝突時の速度や回避可能性などを科学的に推定する報告書を作成し、裁判で提出します。

これにより、「自分は回避行動をとっていた」といった主張を裏付け、修正要素を適用させるための強力な根拠とします。

そして、収集した証拠と論理的な再現に基づき、相手方の主張の不合理性や自己の主張の正当性を説得的に主張します。

証拠が不足している状況では、安易に裁判に踏み切るのはリスクがありますが、弁護士による体系的な立証活動を経て、適正な過失割合が認められるよう裁判所での主張を行います。

また、裁判に至る前でも、弁護士が論理的に過失割合の修正を主張することで、相手方保険会社が訴訟リスクを考慮し、交渉段階で有利な和解に応じる可能性が高まるのです。

まとめ

まとめ

ドライブレコーダーがない場合でも、過失割合を適正に立証し、損害賠償額で不利益を被ることを避けることは十分に可能です。

事故後の行動として、まず警察への連絡と実況見分調書の作成が最重要です。そして、ドラレコの代わりとして、事故現場と車両の損傷を多角的に撮影し現場保全に努めましょう。

また、目撃者の連絡先を交換し証言を確保すること、近隣の防犯カメラの有無を確認し映像の保全を依頼することも不可欠です。

そして、最も重要なことの一つとして、事故直後の早い段階で弁護士に相談し、初期の証拠収集と立証方針の策定を依頼することが推奨されます。

ドラレコがない状況は不利に働くかもしれませんが、事故に遭遇した際は、まず冷静になり、本コラムの内容を参考に、一つひとつの証拠収集を確実に行うようにしてください。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭

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