
交通事故による後遺障害等級は、あなたの未来の生活と受け取る損害賠償額を決定づける最も重要な要素です。
特に、多くのむちうち事案で争われる「14級」と、さらに上の等級である「12級」の間には、認定の難易度と賠償金額において、大きな差が存在します。
本コラムでは、後遺障害12級と14級の認定基準における決定的な違い、そして両等級の賠償額の桁違いの差を、具体的な戦略と合わせて埼玉県大宮の弁護士が解説いたします。
後遺障害等級12級と14級の基本的な違い

後遺障害等級は、労働能力の喪失度合いに応じて1級から14級まで設定されており、数字が小さいほど重度です。
12級と14級は、いずれも「神経症状」に関する等級として適用されることが多いですが、その認定の根拠には決定的な違いがあります。
認定基準における「医学的証明」の壁の高さ
最も根本的な違いは、認定に必要な医学的根拠の強さにあります。この基準の差が、等級認定の難易度を決定づけています。
多くのむちうち事案で適用される後遺障害14級9号は、「局部に神経症状を残すもの」と定められています。
この等級の認定に必要な基準は、自覚症状が、治療の経過や神経学的検査の結果から「医学的に説明可能と推定されるもの」であることです。
つまり、症状の一貫性や連続性、医師の診療録(カルテ)から、自覚症状の訴えが常時存在していたことが確認できることが重視されます。MRIやレントゲンなどの画像所見がなくても認定される可能性が残されています。
一方、後遺障害12級13号は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」と定められています。この等級の認定に必要な基準は、神経症状の存在が、「医学的に証明できるもの」であることです。
14級の「推定」とは異なり、12級は、客観的な画像所見(MRIなど)や、明確な神経学的所見によって、症状の原因が具体的に説明できることが必須となります。
この決定的な差は、あなたの痛みが単なる主観的な訴えではなく、「ここに原因がある」と客観的に立証できなければならないということを意味します。
14級が被害者の訴えや治療経過という間接的な証拠で認定される可能性があるのに対し、12級は、明確な原因特定と、それに基づく機能の異常を示す直接的な証拠が要求されるのです。
適用される具体的な症状と証拠
14級9号が適用される症状の例としては、むちうち後の慢性的な痛みやしびれ、違和感といった、画像所見で原因が特定しにくい症状が挙げられます。
認定には、症状の持続性や一貫性が求められ、神経学的検査で軽微な所見があるか、または所見なしでも治療経過が裏付けとなる場合があります。
一方で、12級13号は、単なる痛みやしびれに留まらず、麻痺、筋力低下、反射の異常など、より具体的な神経機能の障害がある場合に適用されます。この等級の認定には、画像所見(MRI等)で神経根の圧迫や損傷が確認できることや、神経伝導速度検査や筋電図などで明らかな異常が認められることが、揺るぎない証拠として必要になります。
12級は、これらの客観的証拠を通じて、症状が「頑固」なものであることを立証しなければならないのです。
賠償金における「桁違いの差」とその内訳

認定基準の違いは、そのまま損害賠償額の差に直結します。
12級と14級の賠償額の差は非常に大きく、この等級の壁を越えることが、適正な補償を受ける上で極めて重要になります。
ここでは、被害者にとって最も高額となる算定基準である弁護士基準(裁判所基準)で、両等級の差を具体的に見ていきます。
後遺障害慰謝料の差
後遺障害慰謝料は、後遺症を負ったことに対する精神的苦痛を償うものであり、等級によって基準額が定められています。
後遺障害14級9号の場合、弁護士基準では慰謝料の目安は110万円です。
しかし、後遺障害12級13号の場合、弁護士基準での慰謝料の目安は290万円となります。
単純な金額比較でも、12級と14級を比較すると、後遺障害慰謝料だけで180万円もの差が生じます。この差額は、示談交渉において被害者が主張すべき極めて重要な項目です。
後遺障害逸失利益の差
将来の減収分を補償する逸失利益も、等級によって労働能力の喪失率が大きく異なります。逸失利益は、基礎収入額、労働能力喪失率、そして労働能力喪失期間(原則として67歳までの年数)で計算されます。
後遺障害14級9号の労働能力喪失率は5%とされています。
一方、後遺障害12級13号の労働能力喪失率は14%と定められており、14級の約2.8倍にもなります。
この喪失率の差が、逸失利益の計算に決定的な影響を与えます。例えば、年収500万円の40歳の方が後遺障害を負った場合、この9%の差は、喪失期間全体で計算されるため、逸失利益が数百万円単位で変動することになります。
総賠償額の劇的な増加
12級が認定されると、慰謝料と逸失利益の両方で大幅な増額が実現します。
結果として、総賠償額は14級の場合に比べて、2倍から3倍以上に増加することが一般的です。
12級の認定は、単なる名誉ではなく、被害者が元の生活に戻るための治療費や生活の基盤を確保する上で、極めて重要な経済的な目標となるのです。
後遺障害12級認定を勝ち取るために

12級の認定を目指すには、「医学的証明」という非常に高い壁を越えるための緻密な戦略が必要です。
画像所見の追求と専門医の意見
12級の最も強力な証拠は、MRIやCTなどの画像で神経圧迫の原因が明確に写し出されていることです。例えば、ヘルニア、骨折、靭帯の損傷などが、神経根を圧迫している様子が確認できれば、それが12級認定の強力な根拠となります。
既に撮影した画像がある場合でも、それを医学専門家に鑑定依頼したり、画像読影に詳しい専門医の意見を求めることもありえます。
また、画像所見が不十分な場合は、さらに詳細な検査(ダイナミックMRIなど)の実施を検討するよう、主治医と連携をとることも考えられます。
神経学的検査結果の重要性と追加検査
画像所見に加え、あなたの症状が神経機能の異常に起因することを証明する他覚的所見が不可欠です。
必須となる検査には、スパーリングテストやジャクソンテストなどの神経学的誘発テストの結果が陽性であること、知覚検査で症状部位と一致する範囲の知覚が実際に鈍くなっていること(知覚鈍麻)、徒手筋力検査(MMT)で神経支配領域に応じた筋力低下が確認できること、そして腱反射に異常(亢進または低下)が確認できることが含まれます。
特に、神経伝導速度検査(NCV)や筋電図検査(EMG)で、神経の伝達速度の低下や筋の異常興奮などが客観的に示された場合、12級認定の可能性が高まります。
これらの検査は、自覚症状を裏付ける具体的な科学的データとなり、「医学的証明」の根拠として決定的な役割を果たします。
医師への的確な情報伝達と診療録の重要性
むちうちで12級を目指す場合、自覚症状を曖昧にせず、「どの部位が、どのように、どれくらいの頻度で、どんな動作で」痛むのかを具体的に医師に伝え、診療録(カルテ)に詳細に記載してもらうことが、間接的な立証の助けとなります。
特に、痛みやしびれが片側の手足にあり、それが神経根の支配領域(デルマトーム)と一致していることは、12級認定の重要な鍵となります。
症状が医学的な解剖学上の神経の流れと整合していることで、その症状が単なる不定愁訴ではなく、交通事故による損傷に起因することを裏付けるからです。
14級から12級への壁を越えるための異議申立て

一度14級が認定された、あるいは非該当だった結果を12級へ引き上げるためには、異議申し立てという手続きが必要です。
これは、初回の申請で不足していた医学的証拠を新たに提出し、審査機関の判断を覆すための最終的な手段です。
異議申し立てに必要な新たな証拠と論理構築
単に「等級を上げてほしい」と訴えるだけでは異議申し立てでは、成功は難しいです。
必要なのは、前回の審査で非該当または低等級と判断された理由を論理的に打ち破る新たな医学的知見と客観的な証拠です。
例えば、既存のMRI画像を専門的な知識を持つ医師が再読影し、「この画像には、神経圧迫の原因となるヘルニアが明確に認められる」といった内容の意見書を作成してもらうことが有効です。
また、初回申請時には実施していなかった神経伝導速度検査などを改めて実施し、その異常所見を証拠として提出します。
これらの医学的証拠に基づき、なぜこの神経症状が「頑固な」症状であり、「医学的に証明できる」のかを、異議申立書で主張すべきです。
単なる書類の追加ではなく、論理的なストーリーを再構築することが、異議申し立て成功の鍵となります。
弁護士の関与
12級認定、特に異議申し立てによる12級認定は、難易度が高い手続きの一つです。
弁護士は、被害者の症状が12級の基準を満たすことを主張し、審査機関に対し論理的かつ客観的に訴えかけることで、この高い壁を越えるべく尽力します。また、保険会社との交渉においても、12級認定という事実を最大限に活用し、慰謝料、逸失利益のいずれにおいても、最大限の増額を狙います。
まとめ

後遺障害12級と14級の差は、単なる等級の違いではなく、慰謝料で180万円、逸失利益も大きく異なるという、被害者の経済的な未来を大きく左右する決定的な差です。
少しでも適切な賠償額を請求することが何よりも大切です。
そのために、弁護士を介入させることをぜひご検討ください。
ご自身の保険に弁護士費用特約が付帯していれば、費用を気にせず弁護士に依頼することが可能です。

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。











