被相続人の死亡前に多額の預金引き出しが見つかると、相続人間の不信感から深刻な争いに発展します。本稿では、遺産分割や裁判実務を踏まえ、解決策と注意点を詳しく解説します。

死亡前の不自然な預金引き出しが発覚した場合の解決法

はじめに

相続手続を進める際、通帳や銀行取引明細を確認すると「亡くなる直前に多額の預金が引き出されている」というケースが少なくありません。このような状況は、相続人間で次のような問題を引き起こします。

誰が引き出したのか分からない

・ 使途が不明で、返還を求められるか不安
・ 遺産分割協議が進まない
・ 家族間の信頼関係が崩れる

特に「相続人の一部が使い込んだのではないか」という疑念がある場合、感情的対立が表面化しやすく、家庭内紛争や長期の裁判に発展することもあります。

不自然な預金引き出しの典型例

実務上、相続紛争で問題になるケースにはいくつかの典型パターンがあります。

死亡直前に高額の出金が集中

例えば、亡くなる3か月前から1日おきに50万円ずつATMで引き出し、合計で500万円近くが減少である。家族が「生活費」と説明しても、具体的な領収書がないため不明瞭である。

使途が不明確

介護費や医療費と称して引き出された金銭が、実際には何に使われたか確認できない場合。銀行の取引明細や領収書がなければ、裁判で「正当な支出」と認められにくくなります。

一部の相続人による管理と引き出し

通帳やキャッシュカードを管理していた相続人が、自分の判断で預金を引き出していたケース。

・ 日常的な管理の名目で生活費を引き出していた
・亡くなる前に贅沢品や高額投資に使った疑い

第三者の関与

親しい知人や介護施設職員など、家族以外が関与して預金を引き出すケース。

・ 本人が判断能力を欠いたタイミングを狙って引き出し
・ 書面や証拠が残らず、後から発覚

これらのパターンは、遺産分割協議の進行を阻む典型例であり、早期に専門家の関与が必要です。

法律上の考え方

死亡前の不自然な預金引き出しに対して、法律上は次のような枠組みで検討されます。

不当利得返還請求

本人の自由意思に基づかない引き出しであれば、不当利得返還請求が可能です。

・ 無権限で預金を引き出した者に返還を求める
・ 法的には「不当利得」として返還義務が生じる

不法行為に基づく損害賠償請求

引き出しが横領や背任に該当する場合、損害賠償請求も可能です。

例えば、被相続人の判断能力が低下しているのを知りつつ、引き出した場合などが挙げられます。

特別受益としての持ち戻し

生前贈与や金銭の取得が特定の相続人に偏った場合、「特別受益」として遺産分割に持ち戻し計算を行います。

・ 先に取得した金額を他の相続人の相続分に反映させる
・ 財産の公平な配分を目的とする

遺産の範囲確認訴訟

引き出された預金が遺産に含まれるかどうかを争う訴訟です。

・ 引き出しが被相続人の意思に基づかない場合、遺産に組み戻す判断がなされることがあります
・ 争点が明確になることで、遺産分割協議や調停も進みやすくなる

証拠収集の重要性

法律上の主張を裏付けるには、証拠の確保が不可欠です。

銀行取引履歴

過去10年分程度を請求可能(それ以上は金融機関が拒否することが通例です)

介護・医療費の領収書・契約書

本当に費用に使ったかを確認

診断書・介護認定記録

本人の判断能力の有無を示す

日常記録・メモ・証言

介護関係者や家族の証言も有力

証拠が揃わなければ、裁判所で主張が認められない可能性が高くなります。

解決の流れ

遺産分割協議

まず相続人全員で話し合い、引き出された金額を遺産に戻す扱いを協議。

遺産分割調停

協議がまとまらない場合は家庭裁判所の調停へ。調停委員を介して公平に話し合いを進めます。

審判・訴訟

調停が不成立の場合、審判に移行。また、不当利得返還請求や遺産範囲確認訴訟を並行する場合もあります。

弁護士に依頼するメリット

不自然な預金引き出しは感情的対立を伴いやすく、専門的な法的判断が必要です。

・ 銀行への取引履歴開示請求を代行
・ 不当利得・特別受益・遺産範囲確認の法的判断
・ 調停・訴訟での立証や交渉を代理
・ 家族間の感情的対立を和らげる

弁護士の関与により、争いが長期化せず、円滑な解決が期待できます。

よくある疑問点

亡くなる前に引き出された預金はすべて返還できる?

ケースによります。本人の意思が確認できず、証拠が揃っていれば返還請求は可能です。

特別受益として扱われるのはどの程度の金額から?

生前贈与や取得額が他の相続人の相続分に大きく影響する場合、持ち戻しの対象となります。

証拠が少ない場合はどうすれば良い?

銀行への取引履歴開示、介護・医療記録、証言など、多角的に証拠を集める必要があります。

早期対応の重要性

不当利得返還請求や損害賠償請求には時効があります。

・ 時間が経つと証拠が失われる
・ 請求権の行使が困難になる

早期に弁護士に相談することで、証拠確保や法的対応がスムーズに行えます。

まとめ

・ 死亡前の不自然な預金引き出しは、相続トラブルの典型例
・ 法的には「不当利得」「不法行為」「特別受益」「遺産範囲確認訴訟」で解決可能
・ 証拠収集が解決のカギ(銀行明細・領収書・診断書・証言など)
・ 協議→調停→審判・訴訟の段階を経る
・ 弁護士に早期相談することで、円満かつ適正な解決が期待できる

不自然な預金引き出しは家族関係を揺るがす重大な問題です。相続でトラブルに直面した場合は、まず専門家である弁護士に相談し、法的に適切な対応を進めることが重要です。

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣

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