モラハラとは何か?モラハラは離婚原因になる?

モラル・ハラスメント(モラハラ)という言葉は、1999年(平成11年)ころから日本国内に知られる言葉となり、セクハラ・パワハラなどとは異なり、法律上の定義はありません。しかし、近年は日本でも夫婦関係の問題として表面化するようになり、これを離婚原因として争う事案も出てきました。そこで今回は、モラハラとは何か、その問題性、離婚事件での認定事例などについて、解説していきます。

モラル・ハラスメントとは何か?モラハラが夫婦間で存在するとき、それは離婚の理由になるのか

モラル・ハラスメントとは

モラル・ハラスメントとは何か?モラハラが夫婦間で存在するとき、それは離婚の理由になるのか

モラル・ハラスメント(モラハラ)は、法律上の定義はないものの、一般的には「言葉や態度で繰り返し相手を攻撃し、人間の尊厳を傷つける精神的暴力」と理解されています。

モラル・ハラスメントの問題点

モラル・ハラスメントの問題点

モラハラは、そもそも何故問題となるのでしょうか。

夫婦間でモラハラがあるという場合、モラハラ行為をする加害者・モラハラを受ける被害者が存在することになります。

モラハラは精神的暴力であるため、被害者はその言動により苦しみ、屈辱的に感じ、そして自分の尊厳を傷つけられたと感じます。モラハラ被害が続くと、被害者はアイデンティティを失い、最悪の場合「自分には価値がない」と思いこんでしまうこともあります。

肉体的暴力と異なり、モラハラは目に見えてその被害が分かるものではないため、行為者にとっては自分の行為がモラハラだとは自覚しづらく、また被害者や周りの人間からもモラハラの有無やその程度が分かりづらいということもあるでしょう。

モラハラの加害者の特徴

モラハラの加害者は、相手を傷つけることを何とも思わない、あるいは共感性に乏しくそもそも自分の言動が相手にどのような影響を与えるかも想像できず、他責的、罪悪感が薄い、という特徴を持つ方が多いといえます。

外観的には、モラハラ加害者の中には、社会的に地位が高い人物や、高収入を得ているという人物もおり、一見すれば社会に適応しているというようにも見えることがあります。

モラハラの被害者の特徴

これに対し、モラハラの被害者は、典型的には罪悪感を持ちやすく、すぐ自分が悪かったのではないかと考えがちな方が多いと言われています。

上記のとおり、モラハラ加害者は他責的な人物が多いと言われているため、モラハラの被害者は客観的に見れば何も落ち度がなくても、何か問題があった際にモラハラ加害者から責任を押し付けられ、自分を責めてしまい思い悩む、ということも多いようです。

加害者と被害者の関係

以上のとおり、モラハラの加害者と被害者は対称的で、そうであるからこそモラハラ的言動が係属し、かつ被害の実態が分かりにくくなってしまう、ということが考えられます。

モラハラ行為を主張することの難しさ

モラハラ行為を主張することの難しさ

モラハラ行為は、一般には立証が難しいといわれる傾向にあります。以下、その原因について考えていきます。

モラハラ行為の特殊性

モラハラ的言動は、その言葉や行動が1回限りではその悪質性や影響が明らかにならず、またどのような場面で言ったのか、どのような言い方をしたのか、といったことも重要になります。

もしモラハラ被害者が周りに加害者からの言動を相談したとしても、相談を受けた側には、その言動の問題点がすぐには分からない、ということがあり得るのです。

モラハラ行為の典型例

上記のとおり、モラハラ行為は1回あるのみではなかなかその加害性に気付きにくいものですが、例えば以下のような言動はモラハラ行為となりがちなものです。

・怒鳴る、荒っぽい口調・命令口調で話す

・長時間にわたり説教する、問い詰める、反省・謝罪を要求する

・土下座を強要する

・被害者が大切にしている物や価値を否定し、壊したり処分してしまう

・被害者の体調が悪くても気遣わない・病院に行かせない

・経済的自由・連絡の自由などを奪い、行動範囲を限定する

・「殺すぞ」「死ね」などと言う

・「離婚する」「家から出ていけ」などと言う、自宅から締め出す

・被害者からの言葉を無視する

・不必要に大きな音を立てて行動し、被害者を威圧する

・被害者の家族や友人などを馬鹿にする

・被害者に対し「頭が悪い」「役に立たない」「何も出来ない」など人格を否定する

・作った料理を食べず、目の前で捨てる

以上の行為以外にも、モラハラと評価できる行為はあり得るところですが、いずれも一つ一つの言動は直ちに刑事事件になるとか、不法な行為と言えないまでも、繰り返しなされ、あるいは様々な形でなされ、もはや被害者に耐えられないほどの苦痛を与えるというわけです。

モラハラ被害の対応

モラハラ被害の対応

被害者の初動

上記のとおりモラハラ加害者と被害者の関係が対称的であり、被害者は自分がモラハラ被害に遭っていると気付いていないこともあります。

また、「自分が悪いから相手を怒らせてしまうのだ」と思いこんでしまう被害者もいるでしょう。

そこで、まず第一に、上記のようなモラハラの典型的な加害行為がないのか、被害者自身に自覚を持ってもらうことが必要です。

加害者と距離を置く、今後のことを検討する

モラハラ加害者は、一般的には「自身がモラハラ加害者である」という自覚を持てないと考えられます。

したがって、そもそも両当事者間での協議が難しい、というのが通常です。一般的には加害者と被害者とのパワーバランスが均衡していないからこそモラハラが生じ得るといえるので、モラハラにより離婚せざるを得ないと被害者側が感じていても協議離婚で成立させるということは困難なことが多いです。

そうすると、モラハラ加害者と離婚したい被害者側は、離婚調停、場合によっては離婚訴訟まで行う必要があるかもしれないということは、覚悟しなければなりません。

モラハラが離婚原因となるかについて

上記のとおりモラハラというのは一つ一つの言動だけでは評価がしづらく、またモラハラであってもその程度には大小さまざまなものがあるでしょう。

そもそも加害者の言動についてモラハラに当たるかは、加害者も争うのが普通です。

そうすると、離婚訴訟の中でも「離婚原因になる」と言えるようなモラハラなのかは非常に重要なポイントといえます。

ただ、モラハラという言葉も認知されるようになってきた日本では、離婚訴訟においても「婚姻を継続しがたい重大な事由があった」としてモラハラ行為があったと主張された案件において、夫婦関係の破たんを認めた事例も出てきました。

したがって、モラハラがあったことを理由として離婚請求が認められる場合もあることや、離婚原因がモラハラしかないとしても離婚を諦める必要は必ずしもないことを知っておくべきでしょう。

モラハラの証拠について

モラハラの難しい点の一つは、肉体的な暴力などと異なり、それがモラハラだと分かる証拠や、証拠自体が残りにくいことです。

また、加害者の言動の証拠があったとしても、加害者自身はその言動をモラハラだと感じず、証拠を突きつけても説得の材料になりにくいという問題もあります。

被害者としては、まずはモラハラと感じる言動があればその証拠とできるように手紙やメモ、LINEなどの証拠を取っておく、証言をしてくれる証人がいないか検討する、ということが重要です。

モラハラを認めた裁判例

モラハラを認めた裁判例

モラハラといえるような言動により、離婚請求や慰謝料請求を認めた例として以下の裁判例があります。

配偶者・配偶者の親族に対する暴言

夫に対する「この家は私がいたからこそ買えたのだ、半分は自分のものだから壊して持って行く」などという発言や夫の母に対し「鬼婆」「今に見ていやがれ」などと罵っていた妻の言動を「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚請求を認めた例(横浜地裁小田原支部昭和26年2月5日判決)

長期間の侮辱があった例

35年以上婚姻期間があった夫婦について、妻が「いじめられた」「結婚をして損した」「馬鹿」「威張るな」といった暴言から、離婚請求を認めた例(横浜地方裁判所昭和59年2月24日判決)

夫の物品を処分するなどの言動と、その言動の問題点を理解しないことをもって離婚原因と判断した例

別居期間は1年余りながら、妻が夫の先妻の位牌を無断で親族に送ってしまったり、夫の若い頃のアルバムを焼却処分したことなどを受け、妻の言動は夫への配慮を欠く行為で、夫を傷つけるものであるにもかかわらず、その夫の精神的苦痛を理解しようとしない姿勢をもって夫婦の婚姻関係は修復困難であると評価し離婚請求を認めた例(大阪高等裁判所平成21年5月26日判決)

モラハラによる慰謝料を認めた例

義母との折り合いが悪く、婚姻後1年で妻が夫から追い出された案件で、別居中子の健康保険証の交付に夫が協力せず、子についても「自分の子ではない」などと発言し、昼夜問わず執拗に妻に嫌がらせの電話等をした夫の言動について、不法行為であるとして慰謝料500万円を認めた例(東京高等裁判所昭和54年1月29日判決)

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■この記事を書いた弁護士

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ

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