
交通事故の被害者の多くが「まさか自分が被害に遭うとは思っていなかった」と口にします。特に、信号待ちや停車中に後方から追突される事故は、被害者に何の落ち度もない「過失割合10対0」となる典型例です。
そして、こうした事故で最も多い傷病が「むちうち(頸椎捻挫)」です。一見軽傷にも思えるこのケガですが、実際には長期の通院が必要になる場合も多く、損害賠償の請求額にも大きく影響します。こちらに過失がない場合は、こちらの保険会社が間に入れないので、ご自身相手の保険会社や加害者と対応する必要あります。
本コラムでは、弁護士の視点から「10対0の交通事故でむちうちになった場合」に請求できる損害賠償の内容、相場、注意点について詳しく解説いたします。
適正な示談金を獲得するためにも、ぜひご一読ください。
「過失割合10対0」とは?

過失割合10対0とは、事故の原因が100%加害者側にあり、被害者側に過失が一切認められないケースを指します。例えば、以下のようなケースが典型です。
- 赤信号で停車中に後方から追突された場合
- 停車中の車に加害者が側面から衝突した場合
- センターラインをはみ出してきた車と正面衝突した場合
このような場合、民法709条(不法行為責任)や自賠法3条に基づき、加害者側に「100%の損害賠償義務」が発生します。
つまり、理論上は、治療費・休業損害・慰謝料などの費用を、被害者は全額請求することが可能です。
「むちうち」とは?交通事故で最も多い傷病です

「むちうち」は正式には「頸椎捻挫」「外傷性頸部症候群」などと診断されることが多く、交通事故で最も頻繁に発生する傷病です。
特徴としては以下の通りです:
- レントゲンやMRIに異常が映らないことが多い
- 首の痛み、肩こり、手足のしびれ、頭痛などを伴う
- 症状が長引く場合があり、後遺障害認定に至ることもある
医師の診断と、通院実績が損害賠償に大きく関わります。
請求できる損害項目とは?

10対0事故でむちうちになった場合、請求できる損害は以下の通りです。
(1)治療費
通院・投薬・リハビリ等にかかる医療費。
(2)通院交通費
電車・バス・タクシー代、ガソリン代等。
(3)休業損害
治療のため仕事を休んだ場合の収入減少の損害。
(4)入通院慰謝料
肉体的・精神的苦痛に対する賠償。
(5)後遺障害慰謝料(該当する場合)
後遺症が残った場合に認定される慰謝料。
(6)逸失利益(後遺障害等級ありの場合)
労働能力の喪失により将来得られたであろう収入の補填。
むちうちでも「後遺障害」が認定される場合とは?

むちうちによる後遺障害の認定は、以下の2パターンです。
後遺障害の等級には、1級から14級までがあります。1級が一番重い等級で、14級が軽い等級ということになります。14級より下は無いので、その場合は、「非該当」、つまり、後遺障害は認められないという事になります。
むちうちで等級を得られる可能性があるのは、ほとんどの場合、12級か14級となります。
自賠責で決まっているそれぞれの認定基準は、以下の通りです。
・14級9号
【基準】局部に神経症状を残すもの
・12級13号
【基準】局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号認定のポイント

自賠責保険の基準では、14級9号号は、「局部に神経症状を残すもの」にあたれば認められるとされています。
これだけでは何のことかわかりませんね。この中身は、以下のような基準になっています。
①「医学的に説明可能」な神経系統又は精神の障害を残す所見があるもの
②医学的に証明されないものであっても、受傷時の態様や治療の経過からその訴えが一応説明つくものであり、故意に誇張された訴えではないと「医学的に推定される」もの
ここでのポイントは、①のとおり、医学的に「説明可能」かどうかです。例えば、車対車の事故でミラーを擦っただけという場合に、「衝撃があった。むちうちになった。」と訴えても、医学的に見ると、その程度の衝撃でむちうちになるわけがないという事で、「医学的には説明不可能」となります。
医学的に説明可能というには、むちうちが起こるような事故態様でなければなりません。
次のポイントとしては、「医学的に証明されなくてもよい」という事です。
例えば、レントゲンやMRIを取った時に、あきらかに頸部に異変が起きていれば、痛みが医学的に証明されたことになります(ただ、もともとの既往症だったり、年齢変性かもしれないという問題はあります)。
ただ、むちうちは、画像所見がでないことが多くあります。そのような場合でも、「痛みがうそではないな」と、推定できれば、14級9号が認められる可能性があるのです。
12級13号認定のポイント

・12級13号の認定基準は、
「局部に頑固な神経症状を残すもの 」となります。
これは、「症状が、神経学的検査結果や画像所見などの他覚的所見により医学的に証明できる」場合に該当します。
・14級9号との認定の違い
14級の場合は、症状について医学的に説明可能で痛み等が推定できればよいのですが、12級の場合は、「証明」が必要となります。
したがって、症状の原因となる神経根の圧迫等が、MRI画像などで明確に見える事が最低限必要です。14級と比べて、かなり重篤な症状の場合となります。
また、圧迫やヘルニアが画像で発見されたとしても、それが、「事故により生じた」と言える必要があります。ヘルニアは、加齢により出現することもあるので(年齢変性)、医師に、画像所見をいただく際には、慎重に見ていただく必要があります。
12級獲得のためのポイントとしては、以下のものがあげられます。
①事故直後にMRIなどで精密な検査をすること
②事故の態様について証拠を提出すること
③医師が作成する後遺障害診断書の記載において、画像所見が交通事故により生じたことなどを書いていただく(因果関係)
④神経学的検査ももれなく実施する
慰謝料について(10:0の過失の場合)

慰謝料の計算には、自賠責保険基準、任意保険基準、そして弁護士基準(裁判基準)の3つの基準がありますが、弁護士が介入した場合や裁判になった場合は、最も高額となる傾向にある弁護士基準で計算します。以下では、この弁護士基準に基づいた慰謝料相場を解説します。
むちうちの場合の入通院慰謝料(弁護士基準)
比較的軽傷とされるむちうちの場合でも、弁護士基準では通院期間に応じて慰謝料が認められます。
- 通院期間3ヶ月の場合:基準額 約53万円
- 9対1の場合の請求額:53万円 × (1 – 0.1) = 約47.7万円
- 通院期間6ヶ月の場合:基準額 約89万円
- 9対1の場合の請求額:89万円 × (1 – 0.1) = 約80.1万円
※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。
骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)
骨折など、むちうちより重い怪我の場合は、より高額な慰謝料基準が適用されます。
- 通院期間6ヶ月の場合:基準額 約116万円
- 9対1の場合の請求額:116万円 × (1 – 0.1) = 約104.4万円
- 通院期間1年の場合:基準額 約154万円
- 9対1の場合の請求額:154万円 × (1 – 0.1) = 約138.6万円
※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。
後遺障害慰謝料の相場(弁護士基準)
後遺障害(後遺症)とは、治療しても完治せず、「症状固定」(治療してもこれ以上は状態が変わらない段階)の段階で体に不具合が残ることをいいます。
後遺障害には1級から14級までの決められた等級があり、この等級によって損害賠償の額が大きく変わってきます(1級が一番重く、14級が一番軽い)。つまり、治療を続けても症状が改善せず、後遺障害として等級認定された場合、入通院慰謝料とは別に後遺障害慰謝料が支払われます。むちうちの場合は、以下の可能性があります。
第14級 | 認定の場合 約110万円 |
第12級 | 認定の場合 約290万円 |
過失10:0のときのむちうちの逸失利益について

将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。
逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。
ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。
中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。
まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。
1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
・基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
・労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。以下に載せておきます。
・労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
・ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。
労働能力喪失率
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級 | 100/100 |
第2級 | 100/100 |
第3級 | 100/100 |
第4級 | 92/100 |
第5級 | 79/100 |
第6級 | 67/100 |
第7級 | 56/100 |
第8級 | 45/100 |
第9級 | 35/100 |
第10級 | 27/100 |
第11級 | 20/100 |
第12級 | 14/100 |
第13級 | 9/100 |
第14級 | 5/100 |
後遺障害の等級認定について

後遺障害は、慰謝料等の保険金に大きな影響を及ぼします。
後遺障害の等級認定は、医師の診断書を元に損害保険料率算出機構が行いますが、被害者が考えているような認定が受けられないことがしばしばあります。
つまり、考えていたよりも低い等級で認定されてしまったり、等級がつかない「非該当」とされることもあります。
適正な後遺障害の認定を受けるためには、適切な治療を受け、適切な検査を受け、適切な行為障害の診断書を作成してもらうことは、重要です。
同じ症状でも、医師がどのような治療を選択するか、検査を選択するかは、全く違います。また、診断書の書き方も全く違います。
従って、適切な後遺障害の認定を受けるためにも、受傷直後、症状固定前から、弁護士に相談されることが重要です。
交通事故に遭われた場合、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。
・法律相談料は初回無料
・10分無料電話相談実施中(お気軽にお電話ください)
・ラインでの相談無料
弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。
弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。
被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。
弁護士費用特約で、自己負担一切なしのケースもあります。
弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内でおさまります。
むちうち、物損事故で、費用が300万円を超えることはまず考えられません。
骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。
なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。
※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。
弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。
過失があっても使えます。
弁護士費用特約は、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。
まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。
ご相談 ご質問

過失割合が10対0の事故では、特に慰謝料の計算においては、相手保険会社の提示額が、弁護士基準よりも大幅に低い「任意保険基準」で計算されているケースが少なくありません。
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。
交通事故でお悩みの方に適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。
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