夫が経営者である場合、特に、婚姻費用・養育費・財産分与の算定にあたり、給与所得者である会社員の場合と異なる観点からの検討が必要になります。具体的にどのような点に注意をしなければならないのか、本記事でご紹介していきます。

婚姻費用・養育費

婚姻費用・養育費の算定方法

婚姻費用・養育費の金額の算定にあたっては、義務者(夫)・権利者(妻)の収入を基にして、子どもの数・年齢により、具体的な金額を算定することになります。計算方法は複雑ですが、まずは、それぞれの収入金額からそれぞれの生活に必須である、別居しても発生する費用(税金や社会保険などの公租公課、被服費や交際費や通信費などの職業費、住居費や保健医療費などの特別経費等)を差し引いた、基礎収入を算定します。これを基に、子どもの年齢に応じた生活費指数等を考慮して、算定します。

婚姻費用

[{(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)×権利者世帯の生活費指数÷世帯全体の生活費指数}-権利者の基礎収入]÷12の計算式

養育費

〔義務者の基礎収入×{子の生活費指数の合計額÷(100+子の生活費指数の合計額)}×{義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)}〕÷12

基礎収入の算定方法

基礎収入の算定にあたっては、収入の金額に対応した、基礎収入割合の係数を掛け合わせることで算定することができます。

基礎収入割合というのは、統計上のデータを基にして、これくらいの収入の人は、これくらいの金額の自身の生活に必要な支出をしているであろうとの数字をいいます。
たとえば、給与収入500万円の方であれば、基礎収入割合は42%となります。統計的にいえば、年収500万円の方であれば、その58%(100-42%)程度は、自身の生活に不可欠なもので手元には残らないはずであるとの建前となります。

もっとも、自営業者である場合には事情が異なります。自営業者の収入算定にあたっては、様々な支出を事業での経費として処理していることが多いため、給与所得者とは異なった考え方をする必要があります。そこで、自営業者の場合の基礎収入割合は、給与所得者とは別の基礎収入割合が用いられます。
たとえば、自営業者の収入が500万円の方であれば、基礎収入割合は54%となります。

自営業者の収入の算定方法

会社員であれば、源泉徴収票を見れば足ります。自営業者の場合には、確定申告書の写しを見ます。
そして、確定申告書中の「収入金額等」の欄ではなく、「課税される所得金額」に、現実に支出されていないものや算定表において既に考慮されているものや養育費・婚姻費用の支払いに優先しないものを加算したものをもって自営業者の収入とします。具体的には、「雑損控除」、「寡婦、寡婦控除」、「勤労学生、障害者控除」、「配偶者控除」、「配偶者特別控除」、「扶養控除」、「基礎控除」「青色申告特別控除額」、「専従者給与額の合計額」、「医療費控除」「生命保険料控除」、「損害保険料控除」、「小規模企業共済等掛金控除」及び「寄付金控除」を加算することになります。

財産分与

総論

財産分与は、婚姻時から別居時までに、夫婦双方で形成された財産を、2部の1ずつの割合で持ち合うよう清算するものです。これは、妻が専業主婦であっても、代わりません。妻が、有形無形問わず、家事・育児をしてくれたおかげで、夫は外で仕事をして財産形成をすることができたという理由に基づくものです。

例外

もっとも、事業収入の場合には、例外があります。

東京地判平成15年9月26日

「問題は,被告が上記共有財産の形成や上記特有財産の維持に寄与したか,寄与したとして,その程度が問題となる。・・・被告は,A1社,I1社を初めとする多くの会社の代表者であって,社団法人,財団法人等の多くの理事等を占める,成功した経営者,財界人である原告の,公私に渡る交際を昭和58年頃から平成9年頃までの約15年に亘り妻として支え,また,精神的に原告を支えたことからすると,間接的には,共有財産の形成や特有財産の維持に寄与したことは否定できない。・・・しかし,他方,前記認定のとおり共有財産の原資はほとんどが原告の特有財産であったこと,その運用,管理に携わったのも原告であること,被告が,具体的に,共有財産の取得に寄与したり,A1社の経営に直接的,具体的に寄与し,特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はないことからすると,被告が原告の共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した割合は必ずしも高いと言い難い。・・・財産分与額は,共有物財産の価格合計約220億円の5%である10億円を相当と認める。」

本件は、東証一部上場会社である株式会社を初めとする多くの会社の代表者で、社団法人、財団法人等の多くの理事等であった夫との離婚において、財産分与の割合が問題になった事案です。

被告である妻は、原告が、日本,米国を初めとする多くの国・地域に出張する際、これに同伴し、取引先や政治家との自宅及び自宅外での会合、パーティー等には必ず出席したり、食事会を開催したり接待したりしたことをもって、夫の財産形成に寄与したと主張していました。

しかし、裁判所は、妻が共有財産の形成や特有財産の維持に寄与した具体的な内容に踏み込んで検討し、その寄与割合は5%に過ぎないと判示しました。
本事例は、資産総額220億円という巨額の財産が財産分与の対象となった事案という特殊性はありますが、給与収入と同様に考えることはできないことを示したリーディングケースとして、参考になります。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣
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