コロナ禍による売上減少や資金繰りの困難に直面した事業者を経済的に支援するために導入された「特別利子補給事業」の概要を俯瞰するとともに、貸付自体の返済が困難になった場合に破産申立てなど講じるべき手立てを弁護士が解説します。

新型コロナウイルス感染症「特別利子補給事業」とは?

新型コロナウィルス感染症の蔓延とそれに伴う人流の低下等によって、経営に大きな打撃を受けた事業者も少なくないでしょう。
2023年6月現在、感染症の流行は一服した感もありますが、感染最盛期に受けた影響が長引いて資金繰りが上手くいかない、なかなか売上が回復しないといった悩みを抱えている方もいらっしゃると思います。

そのような悩みを抱えた事業者を経済的に支援するための制度として、独立行政法人中小企業基盤整備機構の実施する「特別利子補給事業」があります。

この制度は、一定の要件のもと、事業者が公的金融機関から受けた新型コロナ特別貸付につき、貸付を受けた日から起算して最長3年間にあたる利子相当額を一括で助成する制度です。

最長3年分の利子相当額を一括で助成することで、新型コロナ特別貸付を実質的に無利子化し、新型コロナウィルス感染症の影響で売上が減少した事業者の一層の資金繰りを支援することを目的としています。

助成の対象となる貸付制度

特別利子補給事業の対象となる貸付は、次のような、公的金融機関の貸付制度です。
新型コロナウィルス感染症の影響で貸付を受けるに至った全ての貸付が対象になるわけではありません。

■日本政策金融公庫(中小事業)
・新型コロナウィルス感染症特別貸付
■日本政策金融公庫(国民事業)
・新型コロナウィルス感染症特別貸付
・生活衛生関係営業新型コロナウィルス感染症特別貸付
・小規模事業者経営改善資金(マル経)(新型コロナウィルス感染症関連)
・生活衛生関係営業経営改善資金特別貸付(衛経)(新型コロナウィルス感染症関連)
■沖縄公庫(中小企業資金)
・新型コロナウィルス感染症特別貸付
■沖縄公庫(生業資金)
・新型コロナウィルス感染症特別貸付
・小規模事業者経営改善資金(マル経)(新型コロナウィルス感染症関連)
・沖縄雇用・経営基盤強化資金貸付(新型コロナウィルス感染症関連)
■沖縄公庫(生活衛生資金)
・新型コロナウィルス感染症特別貸付
・生活衛生関係営業経営改善資金貸付(衛経)(新型コロナウィルス感染症関連)
■商工中金
・新型コロナウィルス感染症特別貸付(中小企業向け制度に限る)
■日本政策投資銀行
・危機対応業務(危機対応融資)

 

助成対象となる貸付の上限額

特別利子補給事業の対象となる貸付には、一定の上限額があります。
次の貸付額を上限として、貸付にかかる利子相当額が助成されます。

公的金融機関名 貸付の上限額
日本政策金融公庫(中小事業)
沖縄公庫(中小企業資金)
商工中金
日本政策投資銀行
3億円
日本政策金融公庫(国民事業)
沖縄公庫(生業資金・生活衛生資金)
6,000万円

上記は、新規融資と既往債務借換との合計金額です。
また、商工中金と日本政策投資銀行の上限額は合算となります。

助成を受けられる対象者

特別利子補給事業を利用することができる助成対象者は、次の①~⑥の要件を全て満たした方です。

①助成対象となる新型コロナ特別貸付を受けた事業者であること

②事業規模ごとに定められた売上高の要件を満たしていること

事業規模 売上高減少率の要件
事業性のあるフリーランス 要件なし
小規模事業者(個人事業主) 要件なし
小規模事業者(法人事業者) 新型コロナ特別貸付の申込を行った際の最近1か月、その翌月、その翌々月の売上高、最近1か月から遡った6か月間の平均売上高、最近2週間等の売上高が、前年、前々年、3年前の同期、4年前の同期と比較して15%以上減少(※)
中小企業者等 新型コロナ特別貸付の申込を行った際の最近1か月、その翌月、その翌々月の売上高、最近1か月から遡った6か月間の平均売上高、最近2週間等の売上高が、前年、前々年、3年前の同期、4年前の同期と比較して20%以上減少(※)

※売上高減少の比較対象時期は、貸付を受けた時期によって選択できる時期が異なります。

③誓約・同意書に掲げる誓約内容及び同意事項を遵守することを誓約した者であること

④本事業以外の新型コロナ特別貸付にかかる利子補給の助成金の交付を受けていない者または受ける予定のない者であること(ただし、本事業の対象外にかかる部分の助成金を除く)

⑤補助金等指定停止措置または指名停止措置が講じられていない者であること

⑥反社会的勢力(独立行政法人中小企業基盤整備機構反社会的勢力対応規定第2条に規定する反社会的勢力を言い、そのうち暴力団員については、暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者を含む)に該当せず、かつ、将来に渡っても該当しないこと及び反社会的勢力と関係を持つ意思がないことを確約する者であること

申請方法

オンライン申請または郵送申請で行います。
申請書類や事務局宛ての専用封筒は、貸付を受けた公的金融機関から入手することができます。

申請期限

申請受付期限は、令和5年8月31日(当日消印有効)です。
ただし、助成の対象となる貸付の申込期限は令和4年9月30日までで終了しているので、注意が必要です。

助成金の交付を受けた後の注意事項

交付決定の取り消し処分

審査を経て交付決定が出されると、貸付を受けた日から起算して最長3年間にあたる利子相当額が一括で交付(指定口座への振込入金)されます。

受領した助成金は、当然ながら、対象となった新型コロナ特別貸付の利子の支払いにのみ使わなければなりません。
別の用途に流用してしまった場合は、交付決定の取り消し処分の対象となります。

上記目的外使用を含め、事後的に交付決定の取り消し処分の対象となるのは、次のような場合です。
①交付決定に付した条件、法令、規則等、事務局の定めもしくは指示に違反した場合
②故意に申請書類等を偽り、その他不正の手段により交付決定を受けた場合
③交付決定の内容もしくは目的に反して助成金を使用した場合

助成金の返還及び加算金によるペナルティー

交付決定の取り消し処分を受けると、取り消しにかかる部分の助成金を全額事務局に返還しなければなりません。
また、上記に加えて、助成金を受領した日から助成金を返還した日まで、年10.95%の加算金を事務局に納付しなければなりません。

このように、交付決定の取り消し処分を受けた場合は、給付を受けた助成金の返還のみならず、加算金納付によるペナルティーが課されることになります。
(返還金を期限までに納付できなかった場合は、さらに、年10.95%の延滞金もつきます)

事業の趣旨に反するような使用や不正な手段によって給付を受けることは、厳に慎まなければなりません。

悪質な場合は刑事罰も

交付決定の取り消し処分を受けた者は、不正内容が公表されたり、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方に処せられる可能性があります(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律第29条)。

助成終了時の処理

特別利子補給事業による助成は、

①対象貸付を受けた日から起算して3年が経過した場合
②対象貸付を完済した場合
③対象貸付における期限の利益を喪失した場合

のいずれかに該当した時点で終了します。

助成が終了すると、公的金融機関から事務局に対し、助成を受けた事業者が助成期間中に実際に支払った利子の金額が報告され、助成金額が確定します。

そして、給付された助成金額が確定した助成金額を上回った場合は、事業者は差額を返還することになり、逆に、給付された助成金額が確定した助成金額を下回った場合は、差額につき追加交付を受けることができます。

対象貸付の返還が困難になった場合は?

新型コロナ特別貸付を受け、特別利子補給事業を利用しても、やはり売上や資金繰りが回復せず、返済が難しくなる場合もあると思います。
このような場合、まずは貸付を受けた金融機関に相談して、返済方法のリスケジュールを考えることになるでしょう。
中小企業再生支援協議会の支援を受けて、金融機関との間に入ってもらったり、資金繰り計画の策定をサポートしてもらう方法もあります。

それでもどうにもならない・・・という場合には、速やかに弁護士に相談することをお勧めします。

法人破産という選択肢

できる限りの手を尽くしたけれども、これ以上資金が回らない、営業を続ければ続けるほど赤字になってしまう、といった場合は、会社は債務超過かつ支払不能の状態に陥っている可能性が高いです。

「ここまで苦労してやってきたのだから」とズルズルと営業を続けてしまい、弁護士に相談するタイミングを逸してしまうと、赤字が膨らむのはもちろんのこと、会社の資金も尽きてしまい、破産するために必要な費用(依頼する弁護士に支払う弁護士費用、裁判所に納付する予納金等)まで用意できなくなってしまいます。
そうなっては、破産することさえできなくなってしまい、債権者からの請求はいつまでも止まらず・・・結局は、会社を取り巻く関係者に多大な迷惑をかけてしまうことにもなりかねません。
是非、早めに弁護士に相談して下さい。

法人破産をすると、会社の法人格そのものが消滅することになるため、会社が負っていた全ての債務は最終的に消滅します。
新型コロナ特別貸付で負った債務についても同様です。

代表者も同時に個人破産など債務整理を

中小企業が金融機関から借り入れをする場合には、代表者個人が連帯保証人となるケースがほとんどでしょう。
たとえ、法人破産をして会社の債務を全て消滅させたとしても、会社と代表者個人とは別々ですので、代表者個人も同時に破産申立てをしない限り、連帯保証債務を逃れることはできません。
このため、会社を破産させる場合には、代表者個人も一緒に破産(個人破産)することが多いです。

代表者個人も破産すれば、会社の連帯保証債務の他、個人で借りたカードローン、住宅ローンなどの債務も免責の対象です(租税債権や養育費支払義務等、免責の対象にならない債務もあります)。
しかし、破産を選択する場合、手元に残せる資産は、預貯金や自動車、保険の解約返戻金等を全て合計して99万円までです。
それ以上の資産は原則として全て破産管財人が換価し、債権者への配当原資に回されることになります。

ご自身の資産、とりわけ自宅不動産を残したいという場合には、破産ではなく、小規模個人再生という債務整理の方法もあります。
こちらは、今ある債務を約2割に圧縮した金額を、向こう3年~5年間かけて返済していくという方法です。
ただし、この方法を利用するには、債務の総額、安定した定期収入を得る見込みの有無、家計や資産の状況、総債権額の過半数以上を有する債権者がいるかどうか等、いくつかの条件があります。
全ての方のケースで利用できるわけではありませんので、詳しくは弁護士にご相談下さい。

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また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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