現代は、「3組に1組が離婚する時代」と言われています。離婚に悩む当事者の中には、医師をされている方もおられるかと思いますが、医師は高収入であったり、有形無形の財産を幅広く持っているという方も多く、そのような特性が離婚の際に気を付けるべきポイントになっていると思われます。今回は医師の方が当事者となる場合に、どのような点に気を付けるべきか解説します。

医者が当事者となる場合、普通の離婚と異なる点は?

離婚一般について 

離婚とは

通常の離婚において決めるべき事項としては、
・離婚するか否か
・(未成年の子がいる場合)親権者となる者の決定
・(未成熟子がいる場合)養育費
・財産分与
・慰謝料
・年金分割
が挙げられることが多いのですが、医師の方が離婚をするという場合、その他の場合に比べて配偶者のうち医師の側(夫婦双方とも医師であるというご夫婦もいます)の収入が高額というケースも多いため、「財産分与」や「養育費」について争いになるということが多いかもしれません。

そこで、今回は医者が当事者となる離婚事件の「財産分与」及び「養育費」について詳しく見ていきたいと思います。

財産分与とは


「財産分与」とは、夫婦が離婚したときに、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算するため分与をすることをいいます。
その趣旨は、夫婦が婚姻中に築いた共有財産を清算分配すると共に、離婚後の配偶者の生活の維持に資することにあるとされています。これを受けて、財産分与の内容には「清算的要素」及び「扶養的要素」があります。

ただ、単に「財産分与」といった場合には、このうちの「清算的要素」を指していることがほとんどですので、このコラムの中ではこの要素の意味での財産分与について扱うことにします。

財産分与の方法について

離婚訴訟など、実務においては夫婦の協力により形成財産を、その形成に寄与した割合に応じて清算されるべきであり、その寄与度は特段の事情がない限り平等であると考えています。ただ、その寄与度の差が大きく、これを考慮しなければ実質的な公平を欠く場合には、例外的に割合を変更すべきとされています。

原則的な2分の1ルールではない例外的な場合とは

特別な資格や能力により、財産の形成を夫婦の一方のみがなしてきたという場合、その財産は当該一方に寄与割合の配慮するのが公平であるといえそうです。その「特殊な資格や能力」の代表例が、高収入を得ている医師であるといえます。

医師の資格を得るのに婚姻前から相当の努力などを要した場合、更に婚姻後に労力を費やして高収入を得たという場合は、その医師の配偶者の寄与度が医師自身と同じと考えることはできませんから、医師の側の寄与割合を6、その配偶者(家事や育児、当該診療所の経理も一部担当していた者)の寄与割合を4とした裁判例があります。

実際にこのような原則的な扱いができないケースというのは、平均的な収入よりも相当高いケースでしか問題にはならないかと思いますが、財産分与の中で寄与割合を例外的に扱ってもらうためには、具体的に医師側の収入やその収入を得るための労力が大きかったことなどを明らかにしていく必要があるでしょう。

特に、医師の方は副業を抱えている方もおられ、主たる業務のほかに副業による収入もあって、貯蓄を大幅に増やすことがあったという場合は、その寄与度も主張していく必要があります。

養育費とは


父母が離婚をする際、子(未成熟子)の監護に要する費用の分担として、監護親(通常は親権者)に対して、非監護親(通常は非親権者)が「養育費」を支払っていくことになります。

養育費はどのように決まるか

家庭裁判所では、「標準算定方式」といって、総収入を基準に、必要経費を控除して得た額(基礎収入)を権利者(養育費を受け取る側)と義務者(養育費を支払う側)、子が同居していると仮定し、権利者と義務者で負担を按分するという考え方をとっています。

ここにいう必要経費については、給与所得者と自営業者とで分けて考えられていますので、医師が父母のいずれかであるという場合、自身が給与所得者に当たるのかそれとも自営業者に当たるのかという点は注目すべきポイントです。

この標準算定方式については、簡易迅速に計算するため、「算定表(現在は令和元年に公開されたものが最新)」というものが存在し、養育費と婚姻費用の別、子の人数及び年齢の別ごとによって表にまとめられ、義務者と権利者の年収から大まかな算定ができるようになっています。
こちらの算定表は、家庭裁判所のホームページでも開示されていますので一度チェックをしてみてください。

養育費はいつまで支払うか

子の監護に要する費用の分担義務は、「未成熟子」に対して負うものです。
未成熟子は、「成年」に達しているか否かではなく、「自己の資産又は労力で生活できる能力のない者」を指しますので、従来の成人年齢20歳、あるいは現在の成人年齢18歳に達していたとしても、病弱であったり、当然に大学教育を受ける者などは、成人していて稼働能力があるとしても「未成熟子」ということになるとされています。

父母の収入や学歴、社会的地位などから子が大学進学してもおかしくないという場合であれば、「大学生であっても未成熟子」ということはできますし、さらに大学院に進学したというケースでも、それが父母の容認あっての進学ということであれば養育費を支払うべきという場合もあるといえます。

特に、父母のいずれかが医師で、子も親の病院を継ぐことが見込まれていたなどというケースなどでは、大学を通常卒業する22歳を超えても、なお扶養義務があり養育費を支払うべきということになりやすいかと思われます。

医師のような高額所得者の場合の特殊性


養育費というものは、養育費を支払う側が高額所得者であるからといって、収入に応じて無限に高額化する、ということは考えにくいものです。
そこで、一般的には仮に義務者が上記の算定表に記載のある上限(給与所得者で2000万円)を超える年収があったとしても、その算定表の上限額までしか支払う義務はないのではないか、という考え方があります。

実際に子の監護養育のために、当該上限額では賄えないような費用がかかる場合には、「特別な事情がある」として両親の地位・経歴・子の意思などを総合考慮し、その出費が妥当なものであって、義務者も負担すべき相当性があるというときに、養育費に加算して負担を決めるということが考えられます。

その他の問題

今回は、医者の方が離婚問題の当事者となる場合に、多く問題となりうる「財産分与」及び「養育費」についてポイントを置いて解説をしました。

離婚そのものの問題点としては、頭書のとおり、「離婚するか否か(離婚原因)」、「親権」、「慰謝料」、「年金分割」も夫婦間で取り決めをすることが多いのですが、このような問題についても医者という職業や生活サイクル等、経済的な問題と絡んでくるというケースがあるかもしれません。そのような場合には、実際の事情により結論がどうなる可能性があるかという見込みを、弁護士に相談してみることをお勧めいたします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 相川 一ゑ
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