このページは、弁護士が書く二輪車対自動車のすり抜け時の交通事故についてお悩みの方向け記事です。二輪車(オートバイ)に乗る方は、他の車を追い越したときの過失割合を知っておかなければなりません。そこで今回は、バイクの追い越しの過失割合と、それに伴う法的な影響について、数々の交通事故問題を取り扱ってきた専門家が分かりやすく掘り下げてみたいと思います。さっそくですが、本題に入りましょう。

1 バイクのすり抜けについて

(1)はじめに

二輪車すり抜けによる交通事故が後を絶ちません。
二輪車が自動車(軽自動車、普通乗用自動車、大型自動車)と交通事故に遭う場合、二輪車の運転者は重症につながりやすいのが最大の特徴です。
では、交通事故の損害賠償については、どのように考えるべきでしょうか。
交通事故の損害賠償を考える上で重要なポイントに、【過失割合】があります。

(2)「すり抜け」の道路交通法上の位置づけ

【過失割合】を考えるうえでは、道路交通法上の義務を確認しておく必要があります。バイクに乗るとき、特に車を追い越すときは、道路交通法上の義務を守ることが必須です。しかし、法律を守るためには、バイクが他の車両を追い越したときの過失割合も知っておかなければなりません。
では、いわゆる「すり抜け」は、道路交通法上、どのように整理されるでしょうか。
道路交通法上は、2条21号に「追越し」の定義はありますが、皆さまのよく聞く「すり抜け」という定義はありません。
実務上、「追越し」と比較されるのは、「追い抜き」という概念です。

(3)追越しと追い抜きの違い

結論から申しますと、多くのオートバイによる「すり抜け」は、道路交通法2条21号の定める「追越し」(車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。)ではなく、いわゆる【追い抜き】を指すことが多いです。

追越しと追い抜きとの違いですが、
・追越しは、進路を変えて、つまり車線を変更して前方の自動車を追い越すこと
・追い抜きは、進路を変えず、つまり同一車線内で前方の自動車を追い抜くこと
をいいます。

2 オートバイのすり抜けによる交通事故時の過失割合について

(1)事故態様ごとの過失割合の整理

交通事故における【過失割合】については、交通事故類型ごとに、相場感が存在します。具体的には、「別冊判例タイムズ38」という書籍により、過失割合が広く紹介されており、裁判官、弁護士等の実務家はこれを参照しております。

過失割合を考えるうえでは、まずはどの事故類型に該当するかを確認し、当該事故類型の基本過失割合を確認し、そこから修正要素に該当すれば基本過失割合を変更するという思考回路をたどります。

今回は、三つのよくある事故類型について解説します。

ア 直進単車と先行左折四輪車の事故

よくあるのは、先行する自動車と後続するオートバイとで、オートバイが自動車の左側から追い抜きをする際に、自動車が左折し、オートバイを巻き込んでしまう交通事故です。

この場合の過失割合は、原則として、【オートバイ20:自動車80】となります。
自動車の過失割合が大きいのは、自動車に左寄り不十分の過失があることや、直進者優先、事実上左側車線は単車の走行車線といえることなどを考慮されていると考えられております。

修正要素としては、オートバイが著しい前方不注意(顔を横にして後部同乗者と話しをしていた等)や15km以上30km未満の速度超過で「+10」、30km以上の速度超過で「+20」などがあります。一方、自動車は、大回り左折やウインカーなどの合図忘れ、単車の見落しで左折強行したり、徐行せずに左折すれば「+10」、合図遅れは「+5」などがあります。

イ 渋滞中の車両間の事故

車線が渋滞している際に、車線左側をするするとオートバイが直進して追い抜いていくことがあります。このとき、反対車線などから右折してきた自動車が、渋滞する車両に阻まれてオートバイを見過ごして発生する交通事故です。

この場合の過失割合は、原則として、【オートバイ30:自動車70】となります。
四輪車は、渋滞車両が進路を譲ってくれるのを待ってその前方に出る際に、単車に対する注意を怠ってしまう。一方、オートバイはこのような四輪車の存在を予想し得るのに注意を怠ってしまう。基本的には、「直進車優先の原則」の考え方に従って、自動車の過失が重くなります。

修正要素としては、オートバイの著しい前方不注意(自動車がそろそろと頭を出してきているのにあえて進行するなど)や速度超過15km以上で「+10~20」、反対に交差点ではなかった場合には、自動車に「+5~10」の過失が生じる場合があります。

ウ 進路変更車と後続直進車との事故

車両はみだりに進路変更をしてはならず(道路交通法26条の2第1項)、進路変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは進路を変更してはならない(同2項)とされています。
今回は、あらかじめ前方にある車両が適法に進路変更を行ったところ、後方から直進してきた車両と接触したという場合を想定します。

この場合の過失割合は、原則として、自動車がオートバイの前に進路変更した場合は、【オートバイ20:自動車80】となり、オートバイが自動車の前に進路変更した場合は、【オートバイ60:自動車40】となります。

修正要素としては、前者につき、自動車の進路変更禁止違反やウインカーなどの合図忘れの場合には自動車に「+20」、オートバイの速度違反15m以上30km未満で「-5」、30km以上で「-15」となります。
後者につき、オートバイの進路変更禁止違反やウインカーなどの合図忘れの場合にはオートバイに「+15」、自動車が初心者マークやシルバーマーク付きであれば(もちろん条件に該当する場合)それだけでオートバイに「+10」、反対に自動車の速度違反15m以上30km未満で「-10」、30km以上で「-20」となります。

(2)追越しの行政罰

なお、「追越し」については、道路交通法30条により、下記のとおり禁止される場合があり、これに違反すると反則金(二輪車につき7000円、2点)の行政罰の対象となります。
・標識などにより追い越しが禁止されている場所
・道路の曲がり角付近
・上り坂の頂上付近
・勾配の急な下り坂
・トンネル(車両通行帯の設けられた道路は除く)
・交差点とその手前から30m以内の場所(優先道路を通行している場合を除く)
・踏切とその手前から30m以内の場所
・横断歩道とその手前から30m以内の場所
・自転車横断帯とその手前から30m以内の場所

3 オートバイの危険性を理解する

二輪車を追い越す場合、安全上のリスクを理解することが重要です。
二輪車のライダーは、常に周囲に気を配り、潜在的な危険に注意する必要があります。
また、二輪車ライダーは制限速度を認識し、車両を追い越す際には決して制限速度を超えないようにする必要があります。これは高速道路を走行する場合に特に重要で、ドライバーは予期せぬオートバイに素早く対応できないことがあるからです。また、視界が悪いときや渋滞しているときは、決して追い越しを試みてはいけません。

しかし、どれだけ注意をしているつもりでも、交通事故は発生するのが現実です。
もしオートバイの運転者の方で過失割合、後遺障害などにお悩みの方がいらっしゃれば、グリーンリーフ法律事務所の弁護士がお力になれると思います。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
弁護士のプロフィールはこちら