裁判所に破産手続の申立てをして最終的に免責決定が出れば、負債(借金)の支払義務を免れることができます。しかし、債権の種類によっては、非免責債権といって、免責されないものがあります。その一つとして、損害賠償請求権が挙げられます。


非免責債権

免責決定の効果

破産手続が開始され、免責許可決定を受けると、負債(借金)の支払義務を免れることができます。
しかし、債権の種類によっては、非免責債権といって、免責されないものがあります。
その結果、非免責債権以外の部分は免責されて支払義務は免れるけれども、非免責債権については免責決定を受けても支払義務が残ることになります。


非免責債権の種類

非免責債権は、破産法253条1項但書に列挙されています。

一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)

二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)

四 次に掲げる義務に係る請求権

イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務

ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務

ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務

ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務

ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの

五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権

六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)

七 罰金等の請求権

このように、滞納税金や、扶養義務に基づく債権、不法行為に基づく損害賠償請求権は、免責許可決定を受けることができても、支払義務を免れることができません。

本コラムでは、「不法行為に基づく損害賠償請求権」について説明します。

なお、「不法行為」を原因とするものであるため、債務不履行に基づく損害賠償請求権は、免責されることになります。
そのため、契約関係による履行をできなかったために相手方に対して負う損害賠償請求権については、免責されることになります。
あくまで「不法行為」に基づくものであり、後述の通り、さらにその内容も制限されます。



破産者が悪意で加えた不法行為による損害賠償請求権(1項2号)

加害者に対する制裁、被害者救済の趣旨、加害者の人格的・道徳的責任の側面から、非免責債権とされています。

ポイントとなるのは、「悪意で加えた」不法行為という点です。

「悪意」の意義について、学説等で様々な解釈が分かれていたところです。現在では、「悪意」とは、単なる故意ではなく、他人を害する積極的な意欲、すなわち「害意」を意味すると解するべきであるとされています。



「悪意」にあたるとした裁判例

(東京地判平成8年9月30日)

約700万円の債務を負っていることを隠してデパートのクレジットカード利用を申し込み、その収入では支払えない状態であったにもかかわらず、クレジットカードを利用して食料品等を購入し、クレジットカード利用代金を支払わなかった事例。


(東京地判平成11年11月30日)

金融業者からの借入れに際し、他からの債務の状況、資金使途、保証人などにつき虚偽の説明をした事例。


①本件借入前の被告の借受金債務総額、被告の毎月の返済額、被告の家族構成、総収入額及び被告が特に返済の財源となるような資産を有していなかったこと、

②本件借入の約2年前から、返済のための借入を繰り返していたこと、

③本件借入後の新たな借入を受けないまま自己破産に至っていること、

等の事実に照らし、本件借入当時、借入を受けても、自己の収入の中からはその弁済期に弁済を行うことが到底できない状況にあったことは明らかであると判示されました。

さらに、

④本件借入により、無利子であったSからの借入金債務が高利の原告からの借受金債務に変わり、従来の返済額に加えて毎月約2万6000の利息の支払を余儀なくされ、その後、一括支払をせざるを得なくなったこと、

⑤本件借入金の返済については、銀行から借入を行って調達し、仮にそれができなければ身内から調達する旨申し述べているが、これが本件借入当時可能であるとする根拠は全く存在していなかったこと、

⑥本件借入の目的について、担当社員に対し、小口の消費者金融会社に対する弁済のためであると言っておきながら、実際にはこれに反し同僚への弁済を借入当日行ったものであり、本件借入金の使途について真実を述べていたかどうかも疑問であること、

⑦担当者に対し、本件借入の際、連帯保証人候補者からの同意を得ていないにもかかわらず、連帯保証人候補者の承諾を受けており、後日必ず立てる旨約して本件融資を実行させていること、

と言った事情や、借入後の一連の事実経過等を併せ考慮して、本件借入当時、支払意思を有していなかった疑いが強いというべきであり、仮にそうでないとしても、支払意思の欠如について、合理的疑いを抱かせる事情は特に窺われないといわざるを得ないと判示し、「悪意」であったとして免責されないことを明らかにしました。


「悪意」にあたることを否定した裁判例

(大分地判平成4年8月4日)

金融業者からの借入れに際し、無断で妻の名を保証人欄に記載した事例です。
「契約締結行為が、不法行為に該当するというためには、少なくとも欺罔行為により連帯保証契約を締結したとの主張に加えて、契約に基づき借り受ける金員を弁済期に弁済できず、相手方に損害を加える高度の蓋然性があることを認識して本件契約を締結したことを要する。」
この事案の破産者は破産手続開始決定を受けているものの、これは本件契約締結から約10か月も経過した後であることを考慮して、本件契約当時はもちろん各借受け当時、本件契約に基づき借り受ける金員を弁済期に弁済できずに損害を加える高度の蓋然性を認識して本件契約を締結したと推認することは困難であると判示し、「悪意」にはあたらないと判断しました。



破産者が故意または重大な過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為にもとづく損害賠償請求権(ただし、2号に掲げる請求権を除く)(1項3号)

相手の財産ではなく、生命や身体に危害を加えることを内容とする不法行為に基づく損害賠償請求権については、非免責債権となります。人に暴行を加えて傷害結果を生じさせてしまったり、酒酔い運転をして交通事故を起こして被害者を死亡させてしまったりした場合など、故意・重大な過失による不法行為責任については免責されないことになります。



さいごに

本稿では、自己破産をしても免責されない「損害賠償請求権」の内容についてご紹介してきました。

一般的・感情的に考えて、破産免責させるのは相当ではないものについて、非免責債権と判断されていることが分かります。
わざと犯罪行為を行いながら、破産して逃げてしまうことが許されるというのはおかしいという素朴な感情にも合致するのではないでしょうか。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 平栗 丈嗣
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