このページでは、埼玉県で30年以上、企業法務を扱ってきた法律事務所の弁護士が、ストックオプション(新株予約権の付与)における会社法上の注意点について、株主・取締役に向けて、有益な情報を提供しております。

ストックオプション(新株予約権の付与)

ストックオプションとは、会社が取締役等(取締役に限らず、使用人でもよく、限定はありません)に対して、新株予約権を付与することをいいます。
新株予約権とは、「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることが出来る権利」をいいます(会社法第2条21号)。

重要なポイントは、あらかじめ、株式を取得するために出資する金額が定められているため、新株予約権を付与された「後」に株価が高くなるほど得をする、つまり市場価額よりも安く株式を入手できることになります。

そのため、取締役が新株予約権の付与を受けると、取締役の心理としては、会社の業績を上げ、株価が上げようというインセンティブが働くことから、インセンティブ報酬ともいわれます。

ストックオプションは、いわゆるベンチャー企業等、現金報酬が十分に付与できない状態にあり、会社上場を目指している場合に意味があります。なぜなら、閉鎖型の上場をしていない会社の場合には、市場価格が存在せず、権利行使して株式を取得する価格が損か得かが分かりづらく、処分も儘ならないからです。

新株予約権の内容

新株予約権の内容としては、以下の内容をあらかじめ定めなければなりません(会社法第236条)。

一 当該新株予約権の目的である株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその数の算定方法
二 当該新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
三 金銭以外の財産を当該新株予約権の行使に際してする出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
四 当該新株予約権を行使することができる期間
五 当該新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金に関する事項
六 譲渡による当該新株予約権の取得について当該株式会社の承認を要することとするときは、その旨
七 当該新株予約権について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができることとするときは、次に掲げる事項
イ 一定の事由が生じた日に当該株式会社がその新株予約権を取得する旨及びその事由
ロ 当該株式会社が別に定める日が到来することをもってイの事由とするときは、その旨
ハ イの事由が生じた日にイの新株予約権の一部を取得することとするときは、その旨及び取得する新株予約権の一部の決定の方法
ニ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式を交付するときは、当該株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)又はその算定方法
ホ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の社債(新株予約権付社債についてのものを除く。)を交付するときは、当該社債の種類及び種類ごとの各社債の金額の合計額又はその算定方法
ヘ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の他の新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)を交付するときは、当該他の新株予約権の内容及び数又はその算定方法
ト イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の新株予約権付社債を交付するときは、当該新株予約権付社債についてのホに規定する事項及び当該新株予約権付社債に付された新株予約権についてのヘに規定する事項
チ イの新株予約権を取得するのと引換えに当該新株予約権の新株予約権者に対して当該株式会社の株式等以外の財産を交付するときは、当該財産の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
八 当該株式会社が次のイからホまでに掲げる行為をする場合において、当該新株予約権の新株予約権者に当該イからホまでに定める株式会社の新株予約権を交付することとするときは、その旨及びその条件
イ 合併(合併により当該株式会社が消滅する場合に限る。) 合併後存続する株式会社又は合併により設立する株式会社
ロ 吸収分割 吸収分割をする株式会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を承継する株式会社
ハ 新設分割 新設分割により設立する株式会社
ニ 株式交換 株式交換をする株式会社の発行済株式の全部を取得する株式会社
ホ 株式移転 株式移転により設立する株式会社
九 新株予約権を行使した新株予約権者に交付する株式の数に一株に満たない端数がある場合において、これを切り捨てるものとするときは、その旨
十 当該新株予約権(新株予約権付社債に付されたものを除く。)に係る新株予約権証券を発行することとするときは、その旨
十一 前号に規定する場合において、新株予約権者が第二百九十条の規定による請求の全部又は一部をすることができないこととするときは、その旨

なお、新株予約権の権利内容の重要事項は、登記しなければなりません(会社法911条3項12号)。

ストック・オプション等に関する会計基準

ここで、取締役の職務執行に対する対価としてストックオプションが付与される場合には、企業会計基準委員会の企業会計基準第八号「ストック・オプション等に関する会計基準」に基づき、会社は新株予約権の付与日現在における公正な評価額を対象勤務期間の費用として計上しなければなりません。

具体的には、以下の4つに影響します。

・(新株予約権の行使又は失効するまでの間)費用に対応する貸方金額は、貸借対照表の純資産の部に、新株予約権として計上する(会社計算76条1項1号ハ)
・(新株予約権が行使された場合)当該金額は、資本金・資本準備金に計上する(不行使であれば利益剰余金に計上される)
・会計上の費用計上に対応し、法人税の損金計上が認められる
・付与される取締役に課税繰り延べ措置がある場合、損金計上もその時期になる

新株予約権の発行規制

会社法上の規制としては、公開会社と非公開会社とで異なります。

非公開会社、つまり全株式譲渡制限会社(非上場)が新株予約権を付与する場合には、前述の事項について、株主総会の特別決議の承認を要します(会社法238条第2項、309条第2項6号)。

一方、公開会社が新株予約権を付与する場合には、前述の事項について、取締役会の決議により(ただし新株予約権の公正な評価額が、取締役が受け取ることの認められた金銭でない報酬額を上回らない場合に限る)、決定できます(会社法240条第1項)。

新株予約権の権利行使

あらかじめ定められた期間内に、あらかじめ定められた価額を株式会社に払い込むことにより、新株予約権者は、当然に株主となります(会社法282条)。

ポイズン・ピル

新株予約権は、敵対的なM&A、企業買収に対する防衛策としての意味を有することがあります。アメリカではポイズン・ピルとか、ライツプランなどと呼ばれます。

新株予約権無償割当といい、株主に対し新たに払い込みを指せない形で割り当てがなされることもあります(会社法277条以下)。ただし、内容次第では、著しく不公正な方法によるものとして発行が差し止められた裁判例(東京高決平成17年6月15日)もあります。

新株予約権の発行を争う措置

新株予約権の発行が、法令・定款に違反しまたは著しく不公正な方法により行われ、よって株主が不利益を受けるおそれがある場合には、株主は、会社に対し、その発行の差止めを請求することができます(会社法247条)。

法令違反とは、法令が定める機関の決定を受けていない場合などであり、定款違反とは定款に反する発行である場合、著しく不公正な方法とは、会社支配権をめぐる争いにおいて、取締役が議決権の過半数を維持する手段として発行した場合にこれに当たるとされた例があります。

また、新株予約権発行無効の訴えという手段もあります。これは、譲渡制限株式を目的とする新株予約権が株主総会の決議を経ずに発行される場合、株主の割当を受ける権利を無視した割り当てがなされる場合、公開会社において募集事項の通知・公告を欠いて第三者割当が行われる場合、新株予約権の発行差し止め仮処分に違反する場合などがあります。
「無効」ですから、かなり重大な違反がある場合です。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志
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