株式会社(法人)の資金繰りの悪化などから、破産をやむなしの状態になり、同社の代表取締役は、会社の自己破産を決意されました。代表者は、これまでの会社経営で培った経験を活かして、今後も同種の事業を行いたいと希望することがあります。
経営していた会社の破産手続をとりながら、同代表者が、個人事業主として、または、新会社を設立して、今後も、破産した会社と同種の事業を行い続けることは可能なのでしょうか。
会社経営者(代表取締役社長など)が、会社を破産させた後に、破産会社と同種の事業を続けることは現実的に可能なのか、その場合の問題点を考えます。
会社経営者の経営していた会社の破産後の、ライフプランとしても避けることができない問題です。
会社経営者の生活を賄っているのは、経営する会社から得る役員報酬が主です。会社は、支払不能の状況にあり、破産やむなしとなり、同社の破産申立てを弁護士に依頼し、その準備中に、会社経営者やその家族の生計の維持のために、役員報酬を受け取ることは、破産する会社の債権者でもある取締役への報酬支払は偏波弁済とみなされる可能性があり、破産した会社の破産管財人の否認権行使の対象となりかねません。
したがって、会社破産後の、収入確保の手段を検討する必要があるのです。

1 会社破産による、その事業活動の停止、事業の再開

(1)破産手続開始決定による、破産会社事業の停止

① 破産申立に向けた事業の自発的な停止

多くの法人破産事件においては、申立前に、会社代表者において、会社(法人)の事業を自ら停止してもらっています。
申立の準備が整い次第、地方裁判所に、破産申立を行い、破産管財人候補者の選定を受け、裁判所から、破産手続開始決定を受けます。

② 破産手続開始決定を受けた会社の事業

裁判所から、破産手続きの開始決定を受けた会社は、その決定の効果として、当該法人は解散することになります(会社法471条5号、641条6号など)。
破産手続開始決定を受けた法人の法人格は、破産手続開始後も、破産の目的の範囲内で存続するとみなされます(破産法35条)。
破産手続は、清算型の倒産処理の手続きです。破産手続きが開始されれば、事業は廃止されるのが原則です。
破産手続開始決定により、破産した会社(法人)の財産の管理処分の件は、破産管財人に専属します。
破産管財人は、会社の財産を換価して、債権者に配当するのが職務です。
この会社財産には、現金・預金のみならず、会社の営業(事業)のために使用していた自動車、工具・製造機械、原材料、資材、在庫品、業務に必須のパソコンなどの機器、店舗・工場のための不動産など、会社が所有していたもの全てです。
会社事業のために、事務所などを賃借し、相応の敷金を差し入れていた場合、この敷金返還請求権は、当該物件を明渡によって生じる請求権ですので、賃借人は当該賃借物件を明渡さねばなりません。これにより、破産管財人は賃貸人に対し敷金返還請求をします。
また、破産した会社の契約関係の清算がなされます。
賃貸借、リース契約、業務委託契約等は会社が破産の目的を達して消滅するのですから、そのために、契約関係は解消され、終了します。取引先との様々な関係も終了します。未回収の売掛金は破産管財人による回収がなされます。
これらの財産は、換金(現金化)するため、処分されますので、事業の継続は困難、ほぼ不可能です。

③ 会社法人格の消滅

配当が行われ、破産手続終結の公告がなされます(破産法220条2項)と、会社の法人格が消滅し、裁判所書記官より、破産手続終結の登記の嘱託がなされます。
また、配当至らず、破産した会社が異時廃止として終了しますと、異時廃止決定の確定によって法人格が消滅し、同様に、裁判所書記官による登記の嘱託がなされます。
このような形で、当該破産した会社(法人)は、法人格が消滅しますので、「同じ会社」として、事業を継続することは現実的に不可能となります。

(2)破産手続開始後の、事業開始は法規上の制限はないこと

破産会社の経営者が、破産した会社の事業を続けたいと希望する場合には、破産会社とは別の法人を立ち上げるか、個人事業として行うことになります。
破産した会社の代表者が、新しく会社を設立することについては、現行法では何ら妨げられていません。
すなわち、破産した会社の代表取締役などの経営者が、新たに新会社を設立し、破産した会社と同じ事業を行うことは法律上可能です。
また、会社を設立せず、会社経営者が個人事業として営業を再開することも可能です。

2 会社破産と共に会社代表者が自己破産する場合

法人(会社)が破産手続を利用しても、代表者個人も破産しなければならないものではありません。
法人(会社)と代表者個人は、あくまで別個の存在です。
しかし、代表者が、法人の債務の連帯保証人になっている場合には、その連帯保証債務の負担を検討しなければなりません。
法人(会社)が破産して、破産手続で債務が処理(清算)できても、主債務者である法人(会社)が破産したときこそ、その保証人の責任を負うことが前面に出てくるからです。
よって、連帯保証の債務額が連帯保証人の支払い能力を超えるようであれば、保証人は自己破産などの債務整理を選択せざるを得ません。
中小企業の多くは、金融機関からの融資などに際し、会社経営者の保証を求めています。よって、法人(会社)が破産する場合には、同時に、会社経営者である代表者個人も、自己破産によって、過大な債務の負担(責任)から解放されることを求めることになります。
会社経営者が、自己破産すると、事業の再開・継続には大きな問題が生じます。

3 会社破産後の、事業に関する問題点

(1)改めての事業(起業)のための資金を確保の困難

会社を興す(起業する)ためには、その元手となる資金が必要です。
資材を仕入れたり、事業所・営業所を賃貸するなど、営業のための準備をし、その設備を整えなければなりません。
破産会社は消滅しますが、経営者個人は、消滅せず(生き続け)、破産した後も、生活し続けなければなりません。
そのために、生活必需品や、破産した個人の自由に使用処分できる財産(自由財産)として、当面の生活に必要な限度(被と世帯当たりの生活費を月額33万円と見立てて、その3カ月分相当の)99万円の現金を限度として保有できます。
しかし、それを超える現金や、破産者本人名義の、自宅を含む不動産、自動車、高級ブランド品などの高額な財産は、処分され、現金化され、配当原資となります。
このように、限られた財産では、改めて起業して、事業(商売)などを始める元手を用意することが困難になることは避けられません。
初期費用が掛かる業種は、改めての起業が非常に難しくなります。
しかし、極端に言えば、パソコン一つで事業を営める職種では問題とならないといえます。
電気配線工事会社の代表者が法人ともに自己破産した事案では、もともと技師であったキャリアを活かし、他の元請け企業からの下請けとして自営業となりました。
また、起業ではありませんが、水道局申請代行会社の法人破産、代表者の自己破産においても、代表者は法人破産手続き準備と並行して、同種企業に再就職がかない、そのキャリアを活かして、速やかに相当額の収入を得る立場となりました。

(2)信用情報の悪化

会社経営者個人が自己破産しますと、銀行などの金融機関、信販会社などの貸金業者の、経済的な信用情報を収集・利用する信用情報機関において共有・利用されることになります。
各信用情報機関において、当該会社経営者個人は返済能力に問題があるから、新たな与信に注意するよう警戒されます。この状況を、俗に「ブラックリストに載る」などと言われます。
このような状況になりますと、新規にクレジットカードを作成することもかなわず、また、保有しているクレジットカード(ETCカードも同様です)も使用できなくなります。
手持ちの現金がないからとして、クレジットカード利用に頼るということはできません。

(3)融資審査の通過困難

会社経営者個人が自己破産しますと、その情報が、金融業者間で共有されますことから、事業資金を借り入れることはできなくなります。
不動産の賃貸借において、保証会社の審査を通ることが条件とされる物件も多くなりましたので、その審査も通らず、不動産の賃借もかなわないことも想定されます。
事業に必要な機材のリースも、リースの審査に通らない可能性が高くなることも見込まなければなりません。
信用情報機関において保有される、このような異動情報の共有期間中は、運転資金のやりくりに相応の困難を伴うことも覚悟が必要です。

4 事業継続を図りうるのはどのような場合か

会社経営者がその事業の継続を考えるのは、ほとんどが小規模な会社です。このような小規模な会社の経営者がその事業を継続していきたい、事業継続を図りうるのはどのような場合でしょうか。

(1)負債が消滅すれば、事業の再建は可能であるのか。

① 原因の究明

事業継続のためには、会社代表者が経営していた会社が資金繰りに困窮し、支払不能になり、破産手続を利用せざるを得なくなったことの原因の特定が不可欠です。
そのような原因を除去できれば、事業の継続(再度の起業)ができるのかを慎重に判断しなければなりません。

② 営業利益、経常利益を生み出せるか。

会社や代表者の負債が破産手続により消滅しても、再度の起業をしても、同じように資金繰りの悪化や、業績の悪化に陥るのであれば、そもそも当該事業自体が成り立つものか疑わしいことになります。
十分な利益が出る事業なのか否か、黒字体質への速やかな転換が可能なのかを見極めなければなりません。

(2)経営者の事業継続の意思

そもそも、事業を継続する意思が会社経営者にあるか否か、事業を継続する場合には会社経営者のその意思があることが大前提となります。
その意思がなければ、事業の再建は困難です。
会社経営者は、従前の会社の破産手続や自身の自己破産手続への積極的な関与が不可欠であり、そのために尽力してもらわねばなりません。また、債権者集会においては、会社の破産により、十分な満足を受けられない債権者からの厳しい意見を頂戴することも当然予想されます。

5 事業継続する場合

会社経営者において、事業継続により利益が出る見込みがあり、その強い意志がある場合であっても、事業を継続する場合には、いろいろ備えておかねばなりません。

(1)新規融資などの困難に備えるべきこと

① 自己資金の確保の問題

会社(法人)を破産させたのちに、自分で働いて、起業資金を蓄えて、目的を実現することが考えられます。
新規の融資を受けることや、不動産の賃借に支障が出ることから、当然ながら、従前の規模で開業は難しいでしょう。

② 破産する会社財産から引継ぎの問題

また、破産する会社の財産はすべて現金化されますが、新しい事業を開始するにあたって、破産(申立て)する会社が保有している工具、原材料、在庫品、賃借物件などを譲り受ける対策を検討することも考えられてよいです。
代表者の個人財産や親族などの第三者の援助によって、破産管財人から、これらの財産を買い戻すことが考えられます。
買取業者などの査定価格をもとに、適正価格を算出したうえで、破産管財人と協議することになります。
破産手続申立て前に行う場合には、不当な廉価処分にならないかを十分に注意しなければなりません。たとえば、会社経営者の親族への不当廉売であるとされれば、会社の破産管財人から否認権行使の対象となるからです。
買取時期については、会社の破産手続において、破産管財人との協議を経てから行うのが安心安全です。
賃借物件については、賃借人である会社が破産すると、賃貸借が終了してしまいます。
継続して当該賃借物件を利用したいという場合には、賃借名義人の変更が必要となります。
賃貸人の同意を得て、賃借人の変更を行いますが、会社が差し入れていた敷金については破産管財人に対し、敷金相当額を会社の破産財団に組み入れてもらうよう差し入れることになります。

③ 取引先との関係の問題

会社が破産すると、契約関係も終了(させることに)なります。取引先との関係も同様です。
新たに起業することを想定した場合、従前の取引先との関係をどうするのか対応しなければなりません。取引に空白期間ができてしまいます。それをどうするのかなどです。
会社経営者の特定の技能などを評価してくれている取引先は改めて契約してくれる可能性が高いといえます。

④ 契約関係の見直し

リース契約、業務委託契約等については、新たな起業に向けて契約を締結し直す必要があります。
会社経営者個人も破産する場合にはその前に契約し直しても、再度終了してしまいますので、起業の時期、契約の時期を慎重に見極めなければなりません。

(2)親族による新会社の設立と破産する会社の経営者の入社

親族に新会社を設立してもらい、破産する会社経営者は、その会社に入社し、以前の事業を継続するという方法も考えられます。
新会社と親族の名義であれば、金融機関からの新規融資が受けられる可能性があります。当然ながら、親族に経済的余裕があれば、直接融資を受けることができます。

なお、上記で述べているのとは異なりますが、新会社を設立して、旧来の(破産申立前の)会社の事業を引き継ぐ場合があります。
これには特別の問題があり、特段の考慮が不可欠です。
新会社を設立し、事業を引き継ぐというのは、事業譲渡に当たります。
この事業譲渡が、旧来の会社の債権者に著しく不利益を与える場合には、民法上の詐害行為取消や破産法上の否認取消の対象となる可能性があります。
債務超過状態にある会社が、破産申立に先立って、事業譲渡をすることは慎重に行う必要があります。このような手法による場合には、メインバンクとの事前交渉、金融機関の同意の取付けなどは不可欠となります。
このような場合に、第二会社方式といわれる事業再生手法があります。
この「第二会社方式」とは、過剰債務により財政状況の悪化した中小企業から収益性の高い優良な事業だけを別会社(第二会社)へ分離し事業再生を図るとともに、不採算事業・過剰債務が残された旧会社を特別清算してしまう事業再生手法の1つです。
平成21年6月22日に施行された「改正産業活力再生特別措置法」(「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」以下、「改正産活法」)により、第二会社方式による中小企業の事業再生を支援するため「中小企業承継事業再生計画」(第二会社方式による再生計画)を国が認定し、対象企業に各種支援策を与える制度が創設されました。
この制度を利用するためには、「中小企業承継事業再生計画」の認定対象となる企業でなければなりません。
これは、過剰債務を抱えて事業の継続が困難となっている中小企業で、収益性のある優良事業を有している中小企業が対象となります。
認定のためには、(1)中小企業再生支援協議会や事業再生ADR、私的整理ガイドラインなど公正な債権者調整プロセスをへて金融機関の合意を得ること、(2)従業員との適切な雇用調整が図られていること、(3)旧会社の取引先の売掛債権を毀損させないことなど、一定の要件が求められています。

(3)公的支援の利用の可否の検討

会社経営者である代表者が企業を継続するとしても、新規融資が困難です。
そのような中でも、日本政策金融個においては、一般の金融機関では、対応しにくい案件にも対応できる融資制度があります。
廃業歴などがある方向けの「再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)」というものがあり、同融資の適用要件をみたしうる方は検討・相談されるとよいでしょう。

6 まとめ

経営していた会社(法人)の自己破産を決断される企業経営者(会社代表者)は、会社の債務の連帯保証人であることが多く、その負担から逃れるために、代表者個人も自己破産することが避けられないことが多いものです。
会社は破産手続によってきちんとたたまれます。
代表者が負っている多額の負債も、代表者個人の破産手続により、免責許可を受けることにより、支払義務が免除され、多額の債務が経済的な再出発の足を引っ張ることはなくなります。
しかし、個人は、法人とは異なり、自ら、そして家族の生活を維持しなければなりません。
これまでのキャリアを活かして、同種企業を継続したいと希望する経営者の方が多いのは事実です。
しかし、法人の金融機関・取引先に対しては破産により処理し、しかし、そのキャリアを、そのキャリアの伝手を活かして、同種事業を継続することについては、破産する会社の取引債権者から、悪い意味での「計画倒産」としての不審を抱かれます。
私たち弁護士は、会社代表者の方には、同種企業でもよいから、就職してもらいたい、同会社とは雇用関係を結んでもらいたい、給与所得者になってもらいたいとアドバイスします。
これは、来る会社代表者の自己破産によっても、新しい雇用関係は終了させられないことが一番大きく、安心だからです。
他方、自営業に転じた後に、破産会社の多額の連帯保証を負った会社代表者として自己破産すると、新たに起業した自営業も、当該破産手続により、清算解体せざるを得ない可能性があることを危惧するからです。
ただ、先に述べたような、同種企業の下請事業者となった元代表者の自己破産では、管財予納金は法人破産事件との関連事件扱いを受けず、独立の破産管財事件としての予納金の準備を求められましたが、会社事業廃止後、自己資金で用意したパソコン一つで設計に携わる仕事でしたので、大きな影響は出ませんでした。
法人破産、代表者破産が必須である場合でも、まずは、今後も含めて、法人、法人代表者の破産申立や管財事件における管財人職務の経験豊富な弁護士の所属する当事務所では、適切なアドバイス、対応は可能です。
是非ともご相談ください。

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弁護士 榎本 誉
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