ホテル・旅館、飲食業、病院・クリニック、有料老人ホーム、学校法人などの各サービス業が破産(倒産)する場合について、飲食業である居酒屋をもとに一般的な流れを説明し、また、各サービス業が倒産する場合の特徴といえるものに触れてみました。

1 サービス業の種類

サービス業にもいろいろあり、ホテル・旅館などの宿泊業、居酒屋・レストランなどの飲食業、病院・クリニックなどの医療機関、有料老人ホームなどの老人福祉施設、中学・高校・大学などの学校法人などがサービス業に入ると考えられます。

2 サービス業が倒産する場合の一般的な流れ

このようなサービス業が破産(倒産)する場合も、製造業、流通業、小売業、不動産業、金融業など、他の業種の破産と基本的に同じ流れをたどります。
例えば、複数の店舗を経営する居酒屋が破産を申し立てる場合、次のような流れをたどります。

① 居酒屋の社長、経理担当者に法律事務所までご来所いただき、弁護士が、会社の経営状態、資産・負債の内容をお聞きするとともに、どのような手続を取るのがよいのかのアドバイスを行います。

② 貸借対照表・損益計算書、資産目録、債権者・債務者一覧表、不動産登記簿謄本、賃貸借契約書、預貯金通帳、法人印鑑・ゴム印などをご持参いただき、社長、経理担当者と詳しい打合せを行います。
また、裁判所に提出する委任状、当事務所にご依頼いただく場合の委任契約書をいただきます。

③ 従業員が出勤してくる時間に、本社、各店舗に弁護士が出向き、社長とともに、従業員に対して、破産申立てに至った理由を説明し、在庫や帳簿類の保全への協力、倒産管財人への協力を要請します。各店舗の従業員の出勤時間が遅い場合は、本社での説明後、メール、電話などで各店舗の従業員に連絡をし、どこかの店舗に集まってもらって説明を行います。
従業員の一番の関心事は給与、健康保険の切り替え、年金の処理、失業保険受給関係(離職票の発行など)ですから、これらの取り扱いについても説明します。
店舗は閉め、以後は営業を行いません。
すべての債権者に、弁護士が破産を受任した旨の通知を出します。以後は、弁護士が債権者との対応を行ないます。

➃ 弁護士が裁判所に提出する破産申立書を作成します。賃借物件がある場合、状況によって破産開始決定前に明渡しを行います

⑤ 裁判所に対して、破産申立書を提出します。

⑥ その後は、破産管財人が選任され、裁判官、破産管財人に対する説明を行ない、また、裁判所で債権者集会が行われ、破産管財人が、会社の財産をお金に変えて、債権者に配当します。
これによって、破産手続きは終了し、会社は解散となります。

3 各サービス業の倒産の特徴


一般的な流れを、居酒屋の場合を例に説明しましたが、サービス業の特徴といえるものは下記のような点かと思います。

⑴ ホテル・旅館などの宿泊業

宿泊しているお客様がいるでしょうから、夕食が終わった後に従業員に破産をする旨の説明をし、翌日のお客様にはキャンセルのご連絡をするなど、ホテル・旅館の業務内容に応じた対応をします。もちろん、今後の予約は停止します。

なお、お客様からすでに宿泊料の支払いを受けている場合、そのお客様は、支払いをした宿泊料の返還を求める債権者になるわけですが、他の債権者と扱いは平等ですので、お客様にだけ宿泊料を返還することはできません。破産管財人が、法律に従って配当することになります。

⑵ 飲食業

予約しているお客様のキャンセルの連絡をすることはもちろんです。飲食業の場合、生ものの処理、大型の冷蔵庫などの処理が破産管財人にとって大きな問題になります。

⑶ 病院・クリニックなどの医療機関

朝、できる限りの従業員に集まってもらって、破産の説明をするなど、医療機関の状況に応じた対応を取ります。
また、患者の治療を第一に考えなければなりません。ずっと治療を継続していくことは困難ですから、転院などの措置を進めなければなりませんが、ある程度は、治療を継続しなければならず、これに必要な医師、看護師、スタッフについては、すぐに解雇するということはできず、これも、医療機関の状況に応じた対応を取る必要があります。

⑷ 有料老人ホームなどの老人福祉施設

老人福祉施設が破産した場合、施設入居者に退去してもらう必要がある場合は、次の入居先となる施設を探す必要があります。また、施設をそのまま買って引き継いでくれる会社がある場合は、条件にもよるでしょうが、引き継いだ会社と入居者が契約をし、その施設が入居し続けることができるようにします。

また、老人福祉施設に入所する場合、入居一時金を払うことがありますが、施設が破産した場合、入居一時金は、入居者が老人福祉施設に対して返還を求める債権者になり、他の債権者と扱いが平等ということになりますので、入居一時金の返還を入居者に対して行うことはできません。他の債権者と同様に、破産管財人が配当をすることになります。

ただ、老人福祉法の改正に伴い、2021年4月1日以降は、すべての老人ホームについて入居一時金が保全され、老人ホームが破産した場合、損害保険会社、銀行、公益社団法人有料老人ホーム協会などが、500万円を限度として入居者に支払うことになっています。

⑸ 中学・高校・大学などの学校法人

中学・高校・大学などの学校法人が破産した場合、学生、保護者は、今後どうなるのか非常に不安になりますから、今後の見通しについて、具体的な根拠とともに説明することが必要です。

また、破産法36条には、「破産手続き開始の決定がされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる」となっており、破産手続き開始後でも学校は、在校生が卒業するまでの間、運営を続けることが可能です。もちろん、新規の学生募集は停止します。
ただ、運営を続けることが可能とはいっても、教職員の人件費、施設の維持費などの資金は必要ですから、資金繰りができないのであれば運営を継続することはできません。

学校法人を、どこかほかの学校法人に買ってもらい、生徒を引きついてもらうことができればそれが一番よいですが、それができず、また、運営の継続もできない場合、生徒にほかの学校に移転してもらうことも必要になってきます。

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■この記事を書いた弁護士
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代表・弁護士 森田 茂夫
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