株式会社(法人)の代表取締役は、株式会社の業務に関する裁判上、裁判外のすべての行為をする権限を有します(会社法349条4項)。株式会社においては、代表取締役社長の、資質・能力にしたがって、会社の重要な任務を任されていますが、代表取締役が欠けた場合どうするのか問題があります。さらには、当該会社においては事実上、社長が会社の営業活動も、会社の財務・労務もすべてを把握しているが、この社長以外には、この会社の実情を知る者がいない、よって、当該会社の継続を断念せざるを得ないという、中小企業があります。このような企業において、唯一のかじ取り役である社長が不幸にも亡くなってしまった場合、どうすべきなのか、相続の問題も含め考えます。

1 代表取締役と会社の関係

代表取締役と株式会社の関係は、委任の関係にあります(会社法330条)。
代表取締役が死亡すると、株式会社との委任関係は終了します(民法653条1号)。
よって、代表取締役の不在の状況となります。このような状況が続くと、従業員や取引先に不安を与えることになります。

2 後任の代表取締役の選任

(1)取締役会設置会社の場合

取締役会設置会社では、取締役会の決議により、後任の代表取締役を選任することが必要となります(会社法362条3項)。
なお、代表取締役の死亡により、取締役が2名以下となる場合には、取締役会を開くためには、株主総会において、3人目の取締役を選任しなければなりません。
取締役会設置会社では、取締役の数が3名以上とされているからです(会社法331条5項)。

(2)取締役会非設置会社の場合

取締役会非設置会社で、取締役が2名以上いる場合、各取締役が会社を代表すると定められています(会社法349条1項本文、2項)。
しかし、多くの会社では、代表取締役等の代表者を定めた場合には、その代表者のみが会社を代表します(会社法349条1項但書)。
この場合、代表者が死亡し、他の取締役が存在しても、その取締役が代表権を回復することはありません。
株式会社が、取締役会設置会社でない場合は、定款によって、もしくは定款に基づく取締役の互選か、株主総会の決議によって取締役の中から選任することになります(会社法349条3項)。新たに、代表取締役を選任することが必要となります。

(3)取締役会設置会社かどうかの確認

これを確認するには、会社の商業登記簿謄本(登記事項証明書)により確認できます。
会社が取締役会設置会社でない場合には、次に、会社の定款を確認します。
定款から、後任の代表取締役の選任方法を確認します。

(4)後任の代表取締役の登記

後任の代表取締役が決定したら、法務局にて、代表取締役の変更の登記を済ませます。
なお、登記手続は変更が生じてから2週間以内に行わなければならないとされています(会社法911条3項14号、915条1項)。
変更登記の懈怠には、過料の制裁があります(会社法976条1号)。

3 事例1

取締役会非設置会社の、2名の取締役のうち、代表取締役社長が急逝、取締役配偶者が後任代表取締役に就任した事例

(1)社長の急逝、残存取締役による経営継続困難

機械製造などの企業を経営する会社の社長が急逝しました。
同社は、当該社長が一代で築いた会社であり、配偶者も取締役に就任し、登記されていましたが、配偶者取締役は、夫の会社の事業内容を詳しくは知らず、同社の経営を継続する意欲もありませんでした。
なお、重病におかされ、永くはないことを悟った社長は、事業承継を考え、税理士と協議中であったようですが、残念ながら、間に合いませんでした。

(2)会社の財務内容、信用保証協会付借入金の団体信用生命保険

同社の財務上は、決算書によると、債務超過でありました。他方、金融機関からの借入については、その保証協会を通じて、社長を被保険者とする団体信用生命保険(保証協会団信)が掛けられていました。
この保証協会団信とは、信用保証協会からの債務保証を伴って融資を受けた債務者(債務者が法人の場合には、その業務執行につき代表権を有する連帯保証人)が、その債務を全額返済されないうちに死亡もしくは所定の高度障害といった不測の事態に陥られた場合に一般社団法人全国信用保証協会連合会が生命保険会社から受取る保険金をもとに、金融機関に対する債務を弁済する制度です。
これが適用されれば、債務超過状態が大幅に改善される可能性がありました。

(3)配偶者取締役の後任取締役への就任

当該企業今後の手続き、金融機関、保険会社、従業員関係、社会保険関係、リース関係、不動産賃借関係などの対応のためには、会社代表者として、代表取締役に就任してもらうのが好ましいのは明らかです。
他方、急逝した社長の配偶者相続人として、保証協会団信のない借入の連帯保証を引き継ぐのも躊躇されました。
そこで、まず、定款を確認したところ、「当会社の取締役が1名であるときはその者が代表取締役となる」という規定がありました。
そこで、同定款に基づき、配偶者取締役を代表取締役に就任してもらうことになり、必要な登記手続きを揃えました。

(4)相続放棄のための熟慮期間伸長の手続き

なお、当該会社の、従前の社長の保証協会団信の適用による保険金の支払については、引受保険会社から調査が入り、保険金支払いがなされるかは不明です。よって、依然として、債務超過状態が解消されるかは判然としないため、被相続人の債務の総額が不明です。代表者に就任した、相続人でもある配偶者には、相続放棄すべきかどうかを検討する必要があり、そのために、十分な調査期間が必要であるとして、まずは、管轄家庭裁判所に熟慮期間伸長の手続きをとり、相続放棄の選択の余地を残しました。

4 事例2

代表取締役が唯一の取締役である家具製造・卸の会社の代表者が急逝し、配偶者が後任の取締役に就任し、当該法人の破産手続をとった事例

(1)取締役の不在

代表取締役が唯一の会社でしたが、その会社社長が急逝しました。
この場合には、代表取締役だけでなく、取締役も存在しない状態となりました。
取締役は株式会社にとって不可欠の機関です(会社法326条1項)から、すぐに後任の取締役を選任しなければなりません。

(2)死亡した取締役の(相続)債務の調査

本件社長には、配偶者と一人の子がありました。一戸建ての自宅は、建物は死亡した社長の単独所有でしたが、土地は社長とその兄弟の共有でした。配偶者と子は、できれば、自宅を維持し、被相続人が経営していた会社のみの整理(自己破産)ができないかと考えました。
会社の顧問税理士の確認したところ、金融機関からの借入の保証はなく、また、取引先との債権債務関係が残るだけと確認されました。
自宅に届く社長個人名義のカード明細からは、キャッシングもショッピングもそれほどの利用残高はありませんでした。
そこで、本件相続を承認することとし、相続人である妻子が、相続した株式に基づき、株主総会を開き、配偶者を新取締役に選出し、同社の代表取締役に就任することとし、登記を備えました。

(3)会社の新代表者の職務と破産申立て

新たな代表取締役に就任した配偶者から、破産申立の依頼を受けました。
新代表者には、会社が賃借していた事務所の明渡等をしてもらい、帳簿を整理し、未回収の売掛の有無、未払の買掛の有無の資料を確認してもらいました。
それらの資料と、過去の決算書に記載されている取引先に、受任通知を発し、一応の債権調査を行い、申立を行いました。
後は、破産裁判所、破産管財人に委ねました。
管財人の調査の結果、特に、新たな債権債務関係や、財産関係も発見されず、異時廃止により破産手続は終結しました。

5 事例3

一人会社の代表者が急逝するも、相続人間の協議が調わず、一人会社の経営の存続が危うくなった事例

(1)当該法人は債務超過でない

相談を受けた法人は、賃貸不動産管理、自社所有不動産の貸付、不動産売買の仲介、自社での売買も行っている不動産会社の社長が、事故死を遂げ、急逝した事案でした。
当該企業は、地元で長く、不動産業を営んでおり、経営は順調で、債務超過ではありませんでした。

(2)相続紛争

被相続人である社長は、資産家でもあり、相続人は配偶者と子の3名(うち、2名は先妻の子)です。
相続発生後すぐに、先妻の子らには、代理人弁護士が就任し、遺産分割調停を申し立てると宣言され、遺産分割協議は、家庭裁判所の調停の場に持ち込まれることになりました。

(3)後任代表取締役の選任

この会社法人は、不動産業を営んでおり、賃貸人として、不動産の売主として、会社の機関である代表者取締役の選任が不可欠です。
また、不動産売買の決済は、スケジュールが確定しているものが多く、時間の猶予はありません。すぐにも後任の代表取締役を選任しなければなりません。

(4)取締役の選任

取締役の選任は、株主総会の決議によって行います(会社法329条1項)。
株主総会は、取締役が招集すると規定されています(会社法296条3項)。
しかし、本件では、取締役が不在です。
この場合には、全株主の同意を得て、招集手続きを省略して株主総会を開催することが考えられます(会社法300条)。
しかし、本件では、上述の相続紛争があり、全株主の同意を得るのが困難な可能性がありました。
まずは、元社長が経営していた企業の継続のためには、後任の取締役を選任する必要があることの理解を求め、相続紛争相手方の同意・承諾を得て、株主総会を開催し、同窓会による取締役選任に至る方法を選択しました。

(5)仮取締役の選任申立の検討

仮に、全株主の同意を得ることが困難な場合に備え、管轄裁判所への仮取締役選任の申立ても検討しました。
管轄裁判所に、当該申立後のスケジュールなどを確認したところ、次のとおりでした。

① 選任までの期間(目安)

申立て書類(不備のない場合)の提出による申立て後、(通常期であれば)1~2か月。新型コロナウィルス過による、緊急事態宣言などの影響により、通常より、時間がかかる可能性がある。

② (裁判所)予納金

仮取締役のへの依頼業務内容次第によるが、数十万円程度をお願いしている。仮取締役に選任され、同職務終了までの報酬の担保として、裁判所に納めるため。

③ 申立て費用

印紙代 1000円、予納郵券 6000円

④ 選任・退任の各登記嘱託の登録免許税の予納

その他、裁判所から法務局への登記嘱託の関係で、選任登記の登録免許税金3万円、(事務終了)退任登記の登録免許税金3万円

⑤ 申請書書式

東京地裁商事部の申請書式・必要書類を参照、流用されたい。

特に、選任までの期間が1~2か月というのは時間がかかりすぎるというのがネックでした。そこで、やはり、全株主の同意を取り付けることに注力することとしました。

6 まとめ

代表取締役社長の急逝は、会社法人の事業経営に大きな影響を及ぼします。
すなわち、社長の急逝により、事業継続を諦め、また、経営破綻した法人をきちんとたたむためには、会社法に基づく(解散決議を経ての)清算手続、債務超過であれば、破産手続をとることになります。遺族が清算手続を、破産手続をとる場合には、法人の財務状況、ひいては、被相続人である社長の負債(連帯保証)の状況を知ることが不可欠です。
それらを踏まえて、法人の継続・整理を判断することになります。
偶発的な事故や病気を除き、任期の途中で代表取締役が不在となる事態は避けたいところです。取締役役員の高齢化には、予め事業を円滑に承継できるように準備しておくことが不可欠です。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
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