経営が立ち行かなくなった製造業の会社から相談を受け、再建の道を考えてみたのですが、資金繰りの関係から破産の手続きを選択せざるを得ませんでした。また、破産申立てをする場合の製造業の特色について考えてみました。

1 資金繰りに困った会社からの相談

以前に、原材料のカット(切断)、研磨を専門としている、従業員150人程度の製造業の会社から、資金繰りに困り、借入金、買掛金、手形、リース料などの来月の支払いができない、会社を潰したくはないが、何とかならないかという相談がありました。

2 考えられる法的手続

資金繰りに困り、今のままでは事業が継続できないという場合、法的には、会社を再建する手続として、会社更生、民事再生という手続きがあります。ただ、会社更生は大規模な会社向けですので、従業員150人程度の会社ですと、民事再生を使って、会社を再建できるか、倒産を回避できるかということが問題になります。

民事再生というのは、裁判所が選任した監督員の下で、会社の経営者が再建計画を作成し、それを債権者が承認し、裁判所が認可すれば、会社は再建計画に従って、債務の弁済をしていけばよいという制度です。
弁済期間は10年以下で、例えば、債権額の10%を10年間で分割支払いをしていくというような再建計画になります。

ただ、(この手続きに債権届出をした)債権者の頭数の過半数かつ債権者の議決権額の2分の1以上の賛成が必要です。破産して配当を受けた方がよいと債権者が考えれば、民事再生手続に賛成しませんから、破産して配当を受けるより、民事再生の中で配当を受けた方が得だと債権者に思ってもらえるような再生計画を立てることが必要です。

3 再建型手続をとる場合の困難性

ところで、経営に行き詰まった多くの会社は、これまで本業を一生懸命やってきたにもかかわらず売上が上がらず、その結果、赤字が何年も続き、その結果、資金繰りに行き詰まってしまったというケースがほとんどで、なかなか民事再生を利用できる会社というのはありません。

民事再生を利用するためには、仮に債権額の10%を10年で返済するという場合でも、その間、会社の経営は黒字で、会社を維持することができ、しかも、会社の利益の中から、過去の債務の10%を10年で返済していく必要があるからです。

この会社の場合、原材料のカット、研磨に関してはよい技術を持っており、顧客を、国内から海外に広げていこうという展開の中で無理が生じ、経営が行き詰まったということでしたので、戦略を立て直すことができれば、会社を存続していくこともあり得るように思いました。

この点は、経営に行き詰まった通常の会社とは違っていたのですが、問題は資金繰りでした。資金繰りが行き詰まった会社と、掛けで取引してくれる会社はありませんから、すべて現金取引になり、現金を支払うことができなければ、仕入れもできなくなり、会社の経営は成り立たなくなります。

かといって、資金繰りに行き詰まっているのですから、自分で資金を調達してくることは難しく、この会社の持つ、カット、研磨の技術に注目して、少なくても数ヶ月の資金難を乗り切れるだけの融資をしてくれる銀行などの金融機関、あるいはこの会社を支援して資金を出してくれるスポンサーとなる会社が必要です。

努力はしてみたのですが、両方とも難しいということから、結局民事再生は断念し、破産手続きを選択しました。

4 製造業が破産申立をする場合の特色

今回のような製造業の場合、破産手続きをするときに、(他の業種も多かれ少なかれそうですが)次のような特色があるように思います。

① 売掛金による費用の支払い

弁護士に破産手続きを依頼する場合、弁護士費用と裁判所に納める予納金が必要ですが、会社に十分な現金、預金がない場合でも、半月後、1ヶ月後に入ってくる売掛金があるので、それで弁護士費用、予納金を賄うことにし、当初は、弁護士費用の一部だけを支払って弁護士に代理人になってもらいます。

② 従業員に対する説明

従業員の数が多ので、破産手続きを取ることを対外的に明らかにする段階で、従業員に集まってもらい、従業員に説明をする必要があります。従業員は、給料は払ってもらえるのか、雇用保険や社会保険はどうなるのかなどの不安を持っていますから、これらを説明します。

③ 工場の返還

製造業の場合、工場を持っているのが通常で、その工場を借りていることが多いと思います。工場内のものを整理し、できるだけ早く工場を貸主に返還する努力が必要です。そうでないと、未払い賃料が増加していきます。

④ 海外とのやり取り

最近の製造業は、海外と取引していることも多いので、海外の取引先に対し、英文のメールでやり取りをする必要があります。

以上のようなことを考慮しながら、裁判所に破産申立をし、破産管財人が選任されて、破産管財人が、この会社の財産の売却、債権者に対する配当を行ない、破産手続きは終了となりました。
よい技術を持っている会社でも、資金繰りが何とかならないと、破産を選択するしかないということを感じた件でした。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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