1 下請法の概要

⑴下請法とは

法律で定めた一定の取引を下請取引とし、その場合の親事業者の義務、禁止事項を定めた法律を言います。

⑵下請法の対象となる取引

下請取引にあたるかどうかは、取引の内容と、事業者の資本金規模によって決定されます(下請法2条)。具体的には次のとおりです。
① ■物品の製造委託・修理委託、■プログラムの作成委託、■運送、物品の倉庫における保管、情報処理にかかる役務提供委託
親事業者               下請事業者
資本金3億円超          資本金3億円以下(あるいは個人)
資本金1000万円超3億円以下      資本金1000万円以下(あるいは個人)

② ■情報成果物作成委託(プロブラムの作成を除く)、■役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く)
親事業者               下請事業者
資本金5000万円超          資本金5000万円以下(あるいは個人)
資本金1000万円超5000万円以下      資本金1000万円以下(あるいは個人)

下請法の適用を受ける取引かどうかを判断するについて、資本金規模は分かりやすいのですが、取引内容については注意が必要です。どのような取引が、上記の■にある取引にあたるのかは下請法で決まっているので、その定義に当てはまらなければ、下請法の適用は受けないことになります。例えば、自社で使っている機械について、自社内では修理を行わず、他の会社に修理をしてもらっている場合、自社の資本金が4億円、他の会社の資本金が8000万円でも、下請法にいう修理委託には当たらないので、下請法の適用はありません。

⑶下請法の規制

下請法の適用がある場合、親事業者には、次の義務と禁止事項があります。

ア 4つの義務(下請法2条の2、3条、4条の2、5条)

① 書面の交付義務
親事業者は、発注に際して、下請法で定めた事項をすべて記載した書面(一般的には契約書)を下請事業者に交付する義務があります。
② 支払期日を決める義務
③ 書類の作成・保存義務
ここでいう書面は、取引の経過を記載した書面なので、取引開始時に定めた事項が記載されている①の書面とは異なります。
④ 遅延利息の支払い義務

イ 11の禁止事項(下請法4条)

① 受領拒否の禁止
② 下請代金の支払遅延の禁止
親事業者は、給付を受領した日から60日以内で、かつ、できるだけ短い期間内に支払期日を定めなければならず、60日を過ぎた場合は年14.6%の遅延利息を支払う必要があります。例えば、30日後を支払期日と決めた場合、30日を過ぎたときは、契約で定めた遅延利得を支払うことになりますが、さらに60日が過ぎてしまったときは、14.6%の遅延利息を支払うことになります。
③ 下請代金の減額の禁止
④ 返品の禁止
⑤ 買いたたきの禁止
発注にあたって、親事業者が下請事業者と代金を決定する場合の規制です。通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めると「買いたたき」になります。
⑥ 購入・利用強制の禁止
親事業者の指定する製品・原材料などを強制的に下請事業者に購入させたり、サービスなどを強制的に下請事業者に利用させたりすると、この規定に違反することになります。
⑦ 報復措置の禁止
⑧ 有償支給原材料などの対価の早期決済の禁止
親事業者が下請事業者に対し、原材料などを有償で支給している場合、この原材料などを用いた給付に対する下請代金の支払時期より早い時期に、原材料などの対価を下請事業者に支払わせると、この規定に違反することになります。
⑨ 割引困難が手形の交付の禁止
一般の金融機関で割り引くことが困難が手形によって支払いをすると、この規定に違反します。手形サイトが、繊維業の場合は90日、その他の業種については120日を超えていると、割引困難な手形になるという運用がされています。
⑩ 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
例えば、購買の担当など、下請取引に影響を及ぼすものが、下請事業者に対して、従業員の派遣を要請するなどです。
⑪ 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
下請事業者に責任がないのに、発注の取消、委託内容の変更、やり直しをさせることです。

なお、①②③④⑪の場合は、下請事業者の給付に契約不適合などがある場合は、契約に従って、受領拒否、下請代金の支払い拒否、代金の減額、返品を行うことができます。

2 親子会社と下請法

下請法の概要は1で述べたとおりですが、それでは下請法の規制は、親子会社間、あるいは兄弟会社間でも適用されるでしょうか。
この点について、下請法には、親子会社などの関係があっても、下請法の適用が除外されるという規定はないのですが、実際の運用上は下記のとおり扱われています。

⑴ 親子会社間の取引

親会社Aが、子会社Bの総株主の議決権の50%超を所有している場合は、親会社Aと子会社Bとの取引について、下請法上は、取引の内容、事業者の資本金規模からいって下請取引に当たる場合でも、運用上、公正取引委員会は下請法の規定は適用しないとしています。
したがって、例えば、親会社Aが子会社Bに製造委託をし、親会社Aの資本金が4億円、子会社Bの資本金が8000万円でも、運用上、下請法は適用されず、下請法の規定を考えずに取引をしてよいことになります。

⑵ 子会社間の取引

親会社Aが、子会社B、子会社Cのいずれについても、総株主の議決権の50%超を所有している場合は、子会社Bと子会社Cの取引については、公正取引委員会は、運用上、下請法の規定は適用しないとしています。
したがって、例えば、子会社Bが子会社Cに製造委託をし、子会社Bの資本金が1億円、子会社Cの資本金が500万円でも、運用上、下請法の規定は適用されず、この場合も、下請法の規定を考えずに取引をしてもよいことになります。

⑶ トンネル会社の規制

a 例えば、親会社Aの資本金4億円、子会社Bの資本金1億円とし、この子会社Bが、A、Bとはまったく関係がない資本金8000万円の会社Dに製造委託をする場合、子会社Bの資本金は1億円、会社D資本金は8000万円ですから、下請法の適用はありません。そうではなく、親会社Aが会社Dに製造委託をする場合は、親会社の資本金は4億円、会社Dの資本金は8000万円ですから、下請法の適用があることになります。
この場合、親会社Aが、下請法の適用を免れる目的で、子会社Bに製造委託をし、子会社Bが会社Dに対して製造委託をした場合に、下請法の適用がないとしたのでは、親会社Aの不当な行為を認めたことになり、下請法の規定の意味がなくなってしまいます。このようなことを許さないため、下請法ではトンネル会社の規制(下請法2条9項)と呼ばれるものがあり、上記の場合、一定の条件のもので、子会社Bを親事業者、会社Dを下請事業者とみなして、子会社Bと会社Dの取引に、下請法の適用があるとしています。

b トンネル規制の条件
それでは、一定の条件とはどのようなものでしょうか。下記のすべての条件を満たしていることが必要です。
① まず、前提条件として、親会社Aが会社Dと、製造委託などの取引をした場合に、下請法の適用を受けること、また、子会社Bが会社Ⅾと取引をした場合に、下請法の適用を受けないことが前提です。上記の例では、親会社の資本金は4億円、会社Dの資本金は8000万円ですから親会社Aと会社Dとでは下請法の適用があり、また、子会社Bの資本金は1億円、会社D資本金は8000万円ですから子会社Bと会社Dとでは下請法の適用がなく、この条件を満たしています。

② 資本金の額が1000万円を超える親会社から、子会社が、役員の任免、業務の執行または存立について支配を受けていること。
例えば、親会社が子会社の議決権の過半数を持っている場合、常勤役員の過半数が親会社の関係者である場合、実質的に役員の任免がオ社会社に支払いされている場合などです(下請取引適正推進講習会テキスト(令和3年版)17頁)。

③ 親会社が子会社と製造委託などの取引をし、子会社がその取引の全部または相当部分について、第三者の会社に再委託をすること。
例えば、親会社から受けた委託の額または量の50%以上を再委託(複数の第三者の会社に業務を委託している場合は、その総計)している場合などです(同テキスト17頁)。

3 下請法に反した場合

⑴ 公正取引委員会、中小企業庁は、親事業者、下請事業者の双方に対し、下請取引に関する報告をさせ、または立入検査をすることができます。

⑵ 公正取引委員会は、親事業者に対して、違反行為の是正やその他の必要な措置を取ることを勧告することができます。また、勧告した場合は、原則として、事業者名、違反事実の概要、勧告の概要などを公表することとしています。
親事業者が公正取引員会の勧告に従わない場合、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われることがあります。
中小企業庁は、親事業者に対して、行政指導を行うとともに、公正取引委員会に対し措置請求を行うことができます。

⑶ 罰則は両罰規定であり、次のような場合は、代表者・行為者(担当者)が50万円以下の罰金を科せられるのほか、会社も同額の罰金を科せられることになります。
① 書面の交付義務違反
② 書類の作成及び保存義務違反
③ 報告徴収に対する報告拒否、虚偽報告
④ 立入検査の拒否、妨害、忌避

下請法についてのご相談がある場合は、ぜひ当事務所までご連絡ください。
※ 当事務所と顧問契約をしていただいている会社様、アネットクラブ・Sネット・Jネット・保険ネットの会員様以外は、労働・労災・会社破産の相談のみお受けし、下請法の相談はお受けしていません。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願い申しあげます。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
代表・弁護士 森田 茂夫
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