親事業者による納期の後ろ倒し(納期の延長)は下請法に反するのか、具体的に下請法のどの規定に反するのか、納期の後ろ倒しを要請された下請事業者はどう対処すればよいか、親事業者が、下請事業者の理解を得て納期の後ろ倒しをするにはどうしたらいいのかについて解説をします。

1 納期の後ろ倒し

親事業者が下請事業者に対し、すでに決まっている納期を遅らせて納品させる(納期の後ろ倒し)こととした場合、このような親事業者の行為は下請法に反するでしょうか。例えば、5月20日と決まっている納期を、親事業者が都合で6月10日とするような場合です。
このようなことは、他の部品の供給が止まり、製品の製造ができない親事業者が、下請事業者に対して部品の納期を遅らせるよう要請した、親事業者の販売不振のため、在庫が増えてしまっているなどの場合に起こり得ます。

2 受領拒否の禁止

⑴ 受領拒否とは

親事業者は下請事業者の責に帰すべき理由がないのにかかわらず、下請事業者の給付を拒むことはできません(下請法4条1項1号)。したがって、下請事業者が、親事業者と予め決めた納期に納品しようとしたのに、「今はその製品は必要ないから、●日後の、●月●日に納入して欲しい」として納品を断れば、受領拒否として下請法に違反することになります。

下請事業者が納品しようとしたにもかかわらず、納期が後ろ倒しになれば、下請事業者は納期が延期になった分、商品を保管しなければなりませんし、また、次の3で述べるように請負代金の支払いも遅くなり、下請事業者の経営にとって大きな痛手になります。

⑵ 下請事業者の責に帰すべき場合

下請事業者の責に帰すべき理由があれば、親事業者が受領を拒否しても下請法に違反することはありませんが、「下請事業者の責に帰すべき場合」とは、次の2つの場合とされています。
① 注文と異なる物又は給付に瑕疵がある物が納入された場合
② 指定した納期までに納入されなかったため、その物が不要になった場合

したがって、冒頭にあげた、今は部品が必要ない、在庫が多すぎるなどの事情は、「下請事業者の責に帰すべき理由」がある場合にはならず、受領拒否にあたることになります。

3 支払代金の遅延の禁止

⑴ 遅延になる場合

親事業者は、物を受領した日から起算して、60日以内に定めた日までに下請代金全額を払わないと、支払遅延として下請法に違反することになります(下請法4条1項2号)。具体的には、次の3つの場合です。

① 親事業者と下請事業者の間で、支払期日が受領日から60日以内に定められているときは、定められた期日までに払わなければならない。
② 親事業者と下請事業者の間で、支払期日が受領日から60日を超えて定められている場合は、受領日から60日以内に支払わなければならない。
③ 親事業者と下請事業者との間で、支払期日が定められていない場合は、受領日に支払わなければならない。

⑵ 支払代金の遅延

親事業者が下請事業者に対し、すでに決まっている納期を遅らせて納品させる(納期の後ろ倒し)こととした場合、納期の後ろ倒しに応じて、代金支払いの時期も遅らせることになると思われますので、その場合は、この支払代金の遅延にもあたることになります。
なお、注文と異なるものが納品された、下請事業者の給付に瑕疵があるなど、下請事業者の責に帰すべき理由があり、給付のやり直しをさせ、再度納品された場合は、やり直しをさせた後の物の受領日が支払期日の起算日となります。

4 不当な経済上の利益の提供要請の禁止

親事業者は下請事業者に対して、自己のために経済上の利益を提供させることによって、下請事業者の利益を不当に害すると下請法に違反します(下請法4条2項3号)。
例えば、親事業者が所有する金型を下請事業者に預けて、部品などの製造をしていたが、製造が終了した後も、親事業者がその金型を下請事業者に無償で保管させる行為は、不当な経済上の利益の提供要請にあたる恐れがあるとされています。

今回の納期の後ろ倒しについても、納期が延期された製品の数が多くスペースを取る、延期された期間が長いなどの場合には、不当は経済上の利益の提供要請の禁止に当たる可能性があります。

5 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

⑴ 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しとは

親事業者は、下請事業者に責任がないのに関わらず、発注の取消、委託内容の変更を行い、または受領後のやり直しをさせて、下請事業者の利益を不当に害すると下請法に違反するとされています(下請法4条2項4項)。

⑵ 下請事業者の責に帰すべき場合

次のような場合を指すとされています。
① 下請事業者の要請により給付内容を変更する場合
② 給付を受領する前に、下請事業者の給付の内容を確認したところ、給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なること、または下請事業者の給付に瑕疵があることが合理的に判断され、給付の内容を変更させる場合
③ 下請事業者の給付の受領後、下請事業者の給付の内容が3条書面に明記された委託内容と異なるため、または下請事業者の給付に瑕疵があるため、やり直しをさせる場合

⑶ 不当な給付内容の変更

上記のような下請事業者の責に帰すべき理由がないのに関わらず、親事業者が給付内容を変更すれば、不当な給付内容の変更として下請法に反することになります。
不当な給付内容の変更には、下請事業者に部品の製造を委託したが、在庫が増加したという理由で、部品の発注の一部を取り消す行為も含まれるとされていますが、今回のように、下請事業者の責に帰すべき理由がないのに関わらず、納期の後ろ倒しをする行為も、不当な給付内容の変更に当たる可能性があります。

6 納期の後ろ倒しをされた場合の下請事業者の対応

上記のとおり、納期の後ろ倒しは下請違法に反する可能性が大きいので、納期の後ろ倒しをされた場合、公正取引委員会にある相談・届出・申告の窓口に行って相談することが考えられます。

公正取引委員会や中小企業庁は、調査のために親事業者の事業所などに立ち入ることができますし、禁止行為の取りやめを求める勧告、企業名などのインターネットでの公表、最大50万円の罰金を科すなどの措置を取ることができます。

また、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会、中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して取引数量を減じたり、取引を停止したり、その他、不利な取扱いをした場合も、下請法に違反することになります(下請法4条1項7号

7 納期を変更したい場合の解決法

⑴ 下請事業者の利益を害しない

それでは、親事業者が会社の事情から納期を後ろ倒しにしたいという場合、どうすればよいでしょうか。
納期の後ろ倒しが問題になるのは、これによって下請事業者の利益が害される恐れがあるからです。したがって、下請事業者が納期の後ろ倒しを了解しており、また、納期の後ろ倒しをしても下請事業者の利益を害することがないということであれば、納期の後ろ倒しをすることも認められます。

⑵ 具体的な例

それでは、納期の後ろ倒しをしても下請事業者の利益を害しないというのはどのような場合でしょうか。

例えば、納期の後ろ倒しをすることによって、下請事業者が、仕掛品、完成品を保管しなければならず、これによって、保管費用がかかるということであれば、親事業者はその費用を負担することになります。
また、例えば、製品を作るために人を雇っていたが、納期を延長されたことによって、その人を雇い続けなければならず、そのための費用が増えたということなら、その費用を負担しなければなりません。
また、納期の後ろ倒しによって請負代金の支払時期が遅れ、そのために下請事業者に損害が発生するということであれば、その損害も補償しなければなりません。

このように、納期の後ろ倒しによって下請事業者に損害が発生した場合は、その損害を補償する必要があります。

⑶ 話の進め方

具体的は話の進め方としては下記のようになります。

① 話合い

下請事業者と話し合いの場所を持ち、なぜ、親事業者が納期の後ろ倒しの要請をしなければならないのかを丁寧に説明し、下請事業者の理解を得ます。
また、納期の後ろ倒しによって、下請事業者にどのような損害が発生するのか、また、その損害を親事業者がどのように補償するのかについて、下請事業と話し合いをします。
新しい納期をいつにするのか、新しい下請代金の支払日をいつにするのかを話し合います。

② 合意書の作成

合意に達したら、親事業者と下請事業者の間で合意書を作成します。その合意書には、①にあること、つまり次の点を記載します。
■ 親事業者が納期の後ろ倒しをしなければならない事情
■ 下請事業者に生じる損害と、その補償の方法
■ 新しい納期
■ 新しい下請代金の支払時期
■ その他、決めておくべき事項

なお、新しい納期を決めれた場合、下請代金の支払期日が、新しい納期から60日以内に決められていれば、下請法に反することはありません。

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■この記事を書いた弁護士
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代表・弁護士 森田 茂夫
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