
M&Aの最終契約書には、売主の表明保証条項が入れられます。この表明保証条項の中で、売主、買主ともとくに気を付けたよい点についてまとめてみました。
1 はじめに

M&Aの最終契約書(株式譲渡の方法による場合は株式譲渡契約書)には、表明保証という条項が入れられます。これは、売主が、対象会社や取引に関する一定の事項について、その内容が真実かつ正確であることを保証する条項です。
「財務諸表は正確に作成されている」「訴訟は存在しない」「法令違反はない」などですが、この表明保証が事実と違っていた場合は、売主は、これによって買主に発生した損害を賠償しなければならないという強い効力を持つものです。
今回は、この表明保証の条項の中で、注意した方がよい点について述べてみたいと思います。
2 「売主の知る限りにおいて」という条項

例えば、「売主の知る限りにおいて法令違反はない」というような表明保証の条項です。
単に「法令違反はない」という表明保証の条項であれば、後になって対象会社に法令違反があったことが判明すれば、売主は買主に対して損害賠償責任を負うことになりますが、「売主の知る限りにおいて法令違反はない」とすると、後に法令違反があったことが判明した場合でも、すぐに売主が損害賠償責任を負うのではなく、売主がこの法令違反を知っていたときにだけ、買主に対して損害賠償責任を負うことになります。
この意味で、売主の責任範囲が狭くなりますから、売主はこのような文言を入れたい、買主は入れたくないということになります。
もっとも、実務上は、売主の過度な調査負担を回避しつつ、買主の保護を確保する観点から、「売主の知る限り」の「売主」の範囲を、一定の役職者(取締役、主要管理職)に限ることを明確にしたり、「知る限り」には、合理的な範囲で確認すれば知り得たであろう事項も含まれるとすることにより、売主、買主の妥協を図っていることも多いと思います。
3 「重要な影響を及ぼす限りにおいて」という条項

例えば、単に「財務諸表に間違いはない」とすると、軽微な間違いがあった場合でも、売主は表明保証に反することになりますが、「財務諸表に重要な影響を及ぼす間違いはない」とすると、間違いがあった場合でも、それが重要な影響を及ぼすものでない場合は、売主は表明保証には反しないことになります。
重大なものでなければ、売主の責任を追及しなくてもよいようなものですが、「重大な影響を及ぼす」とすると、何が「重大な影響を及ぼす」ものなのかについて、売主、買主の見解が分かれ、結局訴訟で解決しなければならないことともなりかねません。したがって、買主としてはできるだけこのような条項は入れたくないところです。
この点については、実務上、表明保証違反の有無の判断においては、重要な影響を及ぼす事項に限定はしないとしつつ、損害額の算定の場面で、これを考慮するなど、双方の負担を調整することもあります。
4 Full Disclosure条項

Full Disclosure条項とは、売主が「対象会社に関する重要な事実について、買主に対して漏れなく開示している」ことを表明保証する条項を言います。通常の表明保証は個別項目ごとに事実の正確性を保証するのに対し、本条項はそれらを補完し、列挙されていない事項であっても、重要な不利情報が未開示であれば責任を負わせる点に特徴があります。
典型的には、「本契約および開示資料には、対象会社の財政状態や事業に重大な影響を及ぼす事実で、買主の判断に重要な影響を与えるものがすべて含まれている」といった形で規定されます。
買主にとっては、デューデリジェンスで把握しきれなかったリスクをカバーできるため有用ですが、売主にとっては「何が重要か」の範囲が広く不明確であり、無限定の責任につながるおそれがあるため、実務上は強く抵抗されることがあります。
このため、この条項自体を削除するか、この条項は残したまま、上記1の「売主の知る限り」や2の「重要性」などの限定を付すなどによって、リスクを調整することもあります。
5 将来情報の扱い

将来情報の扱いとは、事業計画、予算、売上予測などの将来に関する情報について、売主がどこまで表明保証の対象とするかという問題です。
これらは本質的に不確実性を伴うため、過去・現在の事実と異なり、「正確性」を保証することは困難です。したがって、売主は通常、将来情報そのものの達成可能性や数値の正確性については保証をしませんが、他方で買主は、これらの情報が投資判断の基礎となるため、少なくとも前提条件や作成プロセスの合理性については保証を求めたいところです。例えば、「当該事業計画は合理的な前提に基づき誠実に作成されている」といった限定的な表明保証が用いられるがあります。
このように将来情報の扱いは、売主の過度な責任を回避しつつ、買主の判断材料の信頼性をどこまで担保するかというバランス調整の問題になります。
6 ディスクロージャーとの関係

ディスクロージャーとの関係とは、売主が行う表明保証と、開示資料との間で、どの範囲まで売主の責任が免除されるかという問題です。
表明保証は原則として「すべて真実である」ことを保証しますが、売主は例外事項を開示することで、その部分については責任を負わないということにしています。例えば、「訴訟は存在しない」と保証していても、特定の訴訟を事前に開示していれば、その訴訟については表明保証違反とはなりません。
このため、どのような開示が有効な免責事項となるかが重要な交渉点となります。とくに問題となるのは、①個別具体的に記載された事項のみ「開示」となるのか、②データルームに含まれる一般的な情報も含めて「開示」となるのか、という点です。
買主は限定的に記載された事項のみ「開示」としたいですし、売主はデータルームに含まれる一般的な情報も「開示」として責任を軽減しようとします。
※ データルームとは、物理的な部屋というより、クラウド上の共有システムにデータを格納し、ID・パスワードで、そこにアクセスするものです。ここに格納するのは、法務、財務・税務、ビジネス、人事などの様々な資料になります。
実務上は、データルーム内の資料に情報があるというような単なる情報提供では足りず、買主が合理的に認識し得る程度に具体的かつ明確に開示された事項に限って免責を認めるとしているのが一般的です。
7 表明保証違反の救済範囲

表明保証で何をどの程度保証させるかは、それ単体で完結するのではなく、補償条項や責任制限と結びついて初めて実効性が決まります。例えば、広い表明保証が置かれていても、補償の上限が低く設定されていれば、実際の買主の救済は限定されてしまいます。また、逸失利益、その他どこまでの損害を補償対象に含めるか否かによっても、救済の範囲は大きく変わります。
このように、表明保証の内容と違反時の救済範囲は密接に連動しており、両者をセットで調整することが、取引におけるリスク配分となります。
8 買主が表明保証違反を認識していた場合

買主が、売主の表明保証違反となる事実を契約締結前に認識していた場合でも、クロージング後にこの違反を理由として損害賠償請求できるかということが問題になります。例えば、デューデリジェンスの過程で買主が、売主の未払債務の存在を把握していたにもかかわらず、そのまま取引を実行し、後から表明保証違反として売主に損害賠償請求をする場合です。
これを認める立場は、契約上の保証は独立したものであり、買主の認識に関係なく履行されるべきと考えますし、他方、これを制限する立場は、買主がリスクを認識していた以上、事後的な請求は信義則に反するとします。
実務的には、契約条項で明示的にどちらの立場を採るかを定めることが多く、例えば「買主が認識していた事実については請求できない」と規定する場合や、「認識の有無にかかわらず請求できる」とする場合があります。
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