交通事故で骨折が治りにくい部位とは?後遺障害と慰謝料増額のポイントを弁護士が解説します

本記事は、交通事故で骨折し、治療が長期にわたっているものの、なかなか骨がくっつかず、「いつになったら治るのだろうか」とご不安な日々を過ごされている被害者様や、そのご家族様を対象としています。

骨折の治療は、通常であれば数ヶ月で骨が癒合し、リハビリを経て回復に向かいます。しかし、骨折した部位や損傷の程度によっては、骨の治りが著しく悪く、治療が1年以上に及ぶケースも少なくありません。

特に、これから解説する「骨折で治りにくい部位」の骨折は、後遺症が残りやすく、交通事故の損害賠償実務においても、後遺障害等級や賠償額を巡って保険会社と大きな争点になりやすいのです。

この記事では、なぜ治りにくい骨折部位が存在するのか、具体的にどの部位がそれに当たるのか、そして、もし後遺症が残ってしまった場合に正当な賠償を得るための重要なポイントについて、交通事故チームの弁護士が分かりやすく解説します。

なぜ骨折が治りにくい部位があるのか?

なぜ骨折が治りにくい部位があるのか?

骨が折れると、私たちの身体の中では骨を再生しようとする働きが起こります。折れた部分の周りに血の塊(血腫)ができ、それが次第に「仮骨(かこつ)」と呼ばれる軟らかい骨組織に置き換わり、最終的に硬い骨へと再造形(リモデリング)されていきます。

この一連の治癒プロセスが正常に進むために、最も重要な要素の一つ「血行(血液の流れ)」です。

骨もまた、血液から酸素や栄養素を受け取って生きています。骨折の修復には多くのエネルギーが必要となるため、豊富な血液供給が不可欠です。

しかし、身体の部位によっては、もともと血液の供給ルートが限られており、血行が乏しい骨が存在します。そうした部位を骨折すると、骨の修復に必要な栄養が十分に行き渡らず、骨の癒合が遅れたり(遷延治癒)、最悪の場合、骨がくっつかないまま治療が終わってしまったり(偽関節)するリスクが高まるのです。

治癒までに要する日数は、骨折部位や年齢によって異なります。肋骨で約3週間、鎖骨で約4週間、上腕骨で約6週間、大腿骨で約8週間、大腿骨頸部で約12週間と言われております。

交通事故で問題となりやすい「治りにくい骨折」の代表例

交通事故で問題となりやすい「治りにくい骨折」の代表例

交通事故の賠償実務上、特に治りの悪さが問題となりやすい代表的な骨折部位を3つご紹介します。

① 大腿骨頸部骨折(股関節の付け根の骨折)

大腿骨(太ももの骨)の上端で、股関節を形成している球状の「骨頭」のすぐ下部分が「頸部」です。この頸部を骨折すると、骨頭への血流が損なわれることがあり、癒合が難しい骨折のひとつとされています。

主な事故態様:歩行者やバイク乗車中に、自動車にはね飛ばされるなどして腰や股関節に強い衝撃を受けた場合に発生します。

② 舟状骨骨折(手首の親指側にある骨折)

手首にある8つの小さな骨のうちの一つで、転倒して手をついた際などに骨折しやすい部位です。手根骨の中でも位置的に重なりが多いため、レントゲンでは見落とされることがあります。

主な事故態様:バイクや自転車からの転倒時に手をついた場合や、歩行中に転倒した場合に多く見られます。

脛骨遠位端骨折(足首に近いすねの骨折)

脛骨(すねの骨)の中でも足首に近い部分は、皮膚や筋肉などの軟部組織が薄く、外力の影響を受けやすい部位です。そのため、交通事故のような強い衝撃で骨折すると、骨が粉々になる粉砕骨折や、骨が皮膚を突き破る開放骨折を伴うこともあります。こうした場合は感染のリスクが高く、治療が難航しやすい骨折です。結果として、骨がうまく癒合しない偽関節や、足首の可動域が制限される機能障害が残ることもあります。


主な事故態様:バイク事故や、自動車の正面衝突で足元がダッシュボードなどに強く挟まれる「ダッシュボード損傷」と呼ばれるケースで多くみられます。

治りにくい骨折が「後遺障害」として認定されるまで

治りにくい骨折が「後遺障害」として認定されるまで

治療を尽くしても骨が癒合せず、痛みや機能障害が残ってしまった場合、その症状は「後遺障害」として等級認定を申請することになります。治りにくい骨折では、主に以下のような後遺障害が問題となります。

  • 偽関節(ぎかんせつ)に関する後遺障害 骨がくっつかないまま、異常な可動性が残ってしまった状態です。
    • 第7級9号:上肢に偽関節を残し、常に硬性補装具を必要とするもの(上肢)
    • 第7級10号:下肢に偽関節を残し、常に硬性補装具を必要とするもの(下肢)
    • 第8級8号:上肢に偽関節を残すもの(上肢)
    • 第8級9号:下肢に偽関節を残すもの(下肢)
    • 第12級8号:長管骨に変形を残すもの(偽関節であっても、日常生活に支障がなく補装具も不要な程度に安定している場合は、変形障害としてこの等級が認定されることがあります)


  • 機能障害(関節の動きの制限)に関する後遺障害 骨折の影響で、股関節や手首、足首の動く範囲(可動域)が狭くなってしまった状態です。
    • 第8級7号:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
    • 第10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
    • 第12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

  • 痛みなど(神経症状)に関する後遺障害 骨は癒合しても、痛みが慢性的に残ってしまった状態です。
    • 第12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
    • 第14級9号:局部に神経症状を残すもの

事故発生から症状固定までで被害者が知っておくべき注意点

事故発生から症状固定までで被害者が知っておくべき注意点

・ 事故直後こそ精密検査を・ レントゲンだけで安心は禁物です

事故直後の病院でレントゲン検査を受け、「骨に異常なし」と言われても安心はできません。特に、骨のわずかなヒビ(不全骨折)や、骨折による周囲の靭帯・神経の損傷は、レントゲンだけでは判別が難しい場合があります。

痛みが続いたり、身体を動かすと特定の場所に痛みが走ったりした場合は、必ず医師にその症状を伝え、CTやMRIといったより詳細な画像検査(精密検査)を受けるようにしてください。この初期段階での客観的な画像所見の有無が、後の後遺障害認定において決定的に重要になることがあります。

・治療に専念するためのポイント

肋骨骨折の治療は、バストバンド(胸部固定帯)による固定と安静が基本となります。しかし、最も大切なのは、医師の指示に忠実に従い、治療を継続することです。痛みが強いからといって自己判断で通院をやめたり、逆に痛みを我慢しすぎたりすると、後の賠償請求で不利になる可能性があります。

・過失がある場合や治療費が大きくなる場合は健康保険利用も

交通事故は第三者行為による傷病であるため、「原則として加害者が治療費を全額負担すべき」という考え方が一般にありますが、健康保険の利用は可能です。たとえば、あなたが赤信号で交差点に進入した自転車であり、車と衝突した場合など、被害者側にも過失があると、相手方保険会社は過失割合に応じて一部しか治療費を支払わないことがあります。
この場合、自費で治療を続けると多額の負担となってしまうため、健康保険を使うことで経済的負担を軽減できます。

・保険会社による「治療費の打ち切り」

事故から数ヶ月が経過すると、加害者側の保険会社の担当者から「そろそろ治療を終わりにしませんか」「来月で治療費の支払いを打ち切ります」といった連絡が入ることがあります。
しかし、治療の終了(症状固定)を判断するのは、保険会社ではなく、原則として、あなたの身体を診察している主治医です。まだ痛みやしびれが残っており、医師が治療の必要性を認めているにもかかわらず、保険会社の都合で治療を中断させられてはたまりません。
このような不当な治療費の打ち切りに対しては、弁護士が介入し、医学的な観点から治療継続の必要性を主張することで、支払期間を延長できる可能性が高まります。

治りにくい部位の骨折で認定されうる後遺障害等級について

治りにくい部位の骨折で認定されうる後遺障害等級について

「症状固定」とは、これ以上治療を続けても、症状の大幅な改善が見込めなくなった状態を指します。

この症状固定日をもって治療は一区切りとなり、残ってしまった症状については「後遺障害」として、別途賠償を請求していくことになります。

後遺障害等級は、症状の重さに応じて最も重い1級から最も軽い14級まで区分されています。そして、等級が認定されるかどうか、また何級に認定されるかによって、後遺障害慰謝料や逸失利益といった賠償金の額が、数百万円から、重い場合には数千万円以上も変わってくるのです。

参考までに、頚椎骨折で認定されうる等級の後遺障害慰謝料(弁護士基準)の相場をご紹介します。

※下記はあくまで目安です。任意保険会社の提示額は、これよりも大幅に低いことがほとんどです。

後遺障害等級 裁判基準 労働能力喪失率
第1級 2,800万円 100/100
第2級 2,370万円 100/100
第3級 1,990万円 100/100
第4級 1,670万円 92/100
第5級 1,400万円 79/100
第6級 1,180万円 67/100
第7級 1,000万円 56/100
第8級 830万円 45/100
第9級 690万円 35/100
第10級 550万円 27/100
第11級 420万円 20/100
第12級 290万円 14/100
第13級 180万円 9/100
第14級 110万円 5/100

後遺障害慰謝料の3つの基準について

後遺障害慰謝料の3つの基準について

適切な後遺障害等級が認定されたら、次はいよいよ保険会社との具体的な賠償金の交渉です。ここで知っておかなければならないのが、慰謝料などの計算に用いられる「3つの基準」の存在です。

→慰謝料の計算には3つの基準がある

  1. 自賠責基準: 法律で定められた最低限の補償。最も金額が低い。
  2. 任意保険基準: 各保険会社が独自に設定している基準。自賠責基準よりは高いが、次に述べる弁護士基準には遠く及ばない。
  3. 弁護士基準(裁判基準): 過去の裁判例をもとに設定された基準。3つの基準の中で最も高額であり、法的に認められる正当な賠償額です。

保険会社が被害者本人に提示してくる金額は、通常「任意保険基準」か、それに近い低い金額です。被害者が「弁護士基準」で賠償金を受け取るためには、弁護士を立てて交渉することが事実上、不可欠となります。

請求できる損害賠償の項目

請求できる損害賠償の項目

後遺障害が残った場合、交通事故で請求できるのは後遺障害慰謝料だけではありません。主に以下の項目があります。

  • 治療関係費: 治療費、入院費、通院交通費、装具代など。
  • 休業損害: お怪我で仕事を休んだことによる収入減。
  • 入通院慰謝料: 入院や通院を強いられた精神的苦痛に対する補償。
  • 後遺障害慰謝料: 後遺障害が残ったことによる将来にわたる精神的苦痛への補償。
  • 逸失利益: 後遺障害によって将来得られるはずだった収入が減少したことへの補償。

逸失利益 – 将来の収入減に対する補償について

逸失利益 - 将来の収入減に対する補償について

将来得られるはずだったが、後遺障害のために得られなくなってしまった収入のことを「後遺障害逸失利益」といいます。専門用語で「得べかりし利益(うべかりし利益)」とも言います。

逸失利益は、基本的には1年あたりの基礎収入に、後遺障害によって労働能力を失ってしまうことになってしまうであろう期間(労働能力喪失期間。)と、労働能力喪失率(後遺障害によって労働能力が減った分)を乗じて算定することになります。

ただし、将来もらえる金額を、一括してもらう事になるので、「中間利息」というものを控除する事になります。

中間利息の控除は、一般的にはライプニッツ式という方式で計算されます。

まとめると、後遺障害事故における逸失利益は以下の計算式によって算定されます。

1年あたりの基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数

・基礎収入⇒ 事故にあった方の事故時の収入です。
・労働能力喪失率⇒ 後遺障害によりどの程度労働ができなくなるかの率です。表により大体定型化されています。先ほどの表に載っています。
・労働能力喪失期間⇒ 症状固定の日から67歳までとされています。
・ライプニッツ係数⇒ 定型化されています。こちらのページで解説しています。

治りにくい部位の骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)

治りにくい部位の骨折等の重傷の場合の入通院慰謝料(弁護士基準)

後遺障害慰謝料とは別で、通院慰謝料が請求できます。後遺障害が認められない場合は、この通院慰謝料のみを請求します。

骨折など、むちうちより重い怪我の場合は、より高額な慰謝料基準が適用されます。

過失がある場合は、過失分が引かれます。

  • 通院期間6ヶ月の場合:基準額 約116万円
    • 過失9対1の場合の請求額:116万円 × (1 – 0.1) = 約104.4万円
  • 通院期間1年の場合:基準額 約154万円
    • 過失9対1の場合の請求額:154万円 × (1 – 0.1) = 約138.6万円

※上記は通院のみの場合の目安です。入院期間があればさらに増額されます。

●表の見方

・入院のみの方は、「入院」欄の月に対応する金額(単位:万円)となります。
・通院のみの方は、「通院」欄の月に対応する金額となります。
・両方に該当する方は、「入院」欄にある入院期間と「通院」欄にある通院期間が交差する欄の金額となります。

後遺障害障害の等級認定について

後遺障害障害の等級認定について

後遺障害は、慰謝料等の保険金に大きな影響を及ぼします。

後遺障害の等級認定は、医師の診断書を元に損害保険料率算出機構が行いますが、被害者が考えているような認定が受けられないことがしばしばあります。

つまり、考えていたよりも低い等級で認定されてしまったり、等級がつかない「非該当」とされることもあります。

適正な後遺障害の認定を受けるためには、適切な治療を受け、適切な検査を受け、適切な行為障害の診断書を作成してもらうことは、重要です。

同じ症状でも、医師がどのような治療を選択するか、検査を選択するかは、全く違います。また、診断書の書き方も全く違います。

従って、適切な後遺障害の認定を受けるためにも、受傷直後、症状固定前から、弁護士に相談されることが重要です。

交通事故に遭われた場合、できるだけ早い段階で当事務所にご相談ください。

・法律相談料は初回無料
・10分無料電話相談実施中(お気軽にお電話ください)
・ラインでの相談無料

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

弁護士特約とは?弁護士費用がかからない?

【弁護士費用特約】とは、ご自身が加入している、自動車保険、火災保険、個人賠償責任保険等に付帯している特約です。

弁護士費用特約が付いている場合は、交通事故についての保険会社との交渉や損害賠償のために弁護士を依頼する費用が、加入している保険会社から支払われるものです。

被害に遭われた方は、一度、ご自身が加入している各種保険を確認してみてください。わからない場合は、保険証券等にかかれている窓口に電話で聞いてみてください。

弁護士特約の費用は、通常300万円までです。多くのケースでは300万円の範囲内で、自己負担一切なしでおさまります。

骨折や重傷の場合は、一部超えることもありますが、弁護士費用特約の上限(通常は300万円)を超える報酬額となった場合は、越えた分を保険金からいただくということになります。

なお、弁護士費用特約を利用して弁護士に依頼する場合、どの弁護士を選ぶかは、被害に遭われた方の自由です。

※ 保険会社によっては、保険会社の承認が必要な場合があります。

弁護士費用特約を使っても、等級は下がりません。弁護士費用特約を利用しても、等級が下がり、保険料が上がると言うことはありません。

弁護士特約はご自身に過失があっても使えます。また、過失割合10:0の時でも使えます。なお、被害者に過失があっても利用できます。

まずは、ご自身やご家族の入られている保険に、「弁護士特約」がついているか確認してください。火災保険に付いている事もあります。

まとめ:治りにくい骨折は、弁護士への早期相談が重要です

まとめ:治りにくい骨折は、弁護士への早期相談が重要です

これまで見てきたように、「治りにくい部位」の骨折は、治療が長期化するだけでなく、「偽関節」や「関節の機能障害」といった重い後遺障害を残す可能性が高いという特徴があります。

後遺障害等級が7級や8級に認定されるようなケースでは、損害賠償額も数千万円単位と高額になり、加害者側の保険会社も支払額を抑えるために、あらゆる反論をしてくることが予想されます。

特に、労働能力への影響を評価する「逸失利益」の計算は非常に複雑であり、専門知識なくして保険会社と対等に交渉することは困難です。

もし、交通事故で「大腿骨頸部」「舟状骨」「脛骨遠位端」などの骨折を負い、治療の長期化や後遺症にご不安を感じていらっしゃるのであれば、後遺障害の申請を検討する段階、あるいはそれよりも前の段階から、一度、交通事故に精通した弁護士にご相談されることを強くお勧めします。

ご相談 ご質問

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大きなケガの事故では、相手保険会社の提示額が、弁護士基準よりも大幅に低い「任意保険基準」で計算されているケースが少なくありません。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、多数の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

交通事故においても、専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。

交通事故でお悩みの方に適切なアドバイスができるかと存じますので、まずは、一度お気軽にご相談ください。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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