令和2年6月22日発表
担当 弁護士 相川 一ゑ
<相続法改正前>

税務実務上、価額弁償の合意により遺留分減殺請求の物権的効果(第一遡及効)は遡及的に失われ(第二遡及効)、遺贈の効果が復活すると考え、遺留分権利者は期限後申告あるいは修正申告を行い、遺留分侵害者は更正の請求により還付を受ければ足りるとされた。

<相続法改正後>

遺留分権利者は、遺留分の侵害部分について金銭債権を遺留分侵害者に請求できることになり、遺留分減殺請求(物権的効果)から遺留分侵害額請求権(金銭債権)へと変更された。
その結果、税務実務においては、遺留分に関する合意をしたときは、遺留分権利者は、合意した遺留分侵害額について期限後申告あるいは修正申告を行い、遺留分侵害者は更正の請求により払いすぎた相続税の還付を受ければ足りることになった(=相続税の課税に関しては改正前と変わらない。)。
 ただし、譲渡所得税については変更がある。
 改正前は不動産が遡及的に共有状態になるため、遺留分侵害者が遺留分権利者に対して遺留分として不動産を返還したとしても、その返還は被相続にから相続により不動産を取得したことになるので取得費の引継ぎにより譲渡所得税の問題は生じなかった。
 これに対し、改正後は遺留分が金銭債権化した結果、遺留分侵害者が遺留分権利者に対し遺留分侵害額に対応する不動産を分与した場合、それは「代物弁済」と評価され、取得費の引継ぎはなされず(=相続や贈与による譲渡ではないという扱いになる。)結果として、代物弁済をした不動産につき譲渡所得税が発生する。

∴遺留分侵害額請求に対して、遺産の不動産を分与する形にした場合は、譲渡所得税が発生する可能性があることに注意する!

以上