弁護士 田中 智美



 突然ですが、皆さんは車を運転していて、信号機のない横断歩道を渡ろうとしている歩行者を発見した場合、きちんと停止していますか?
 教習所を出たての頃は誰もが守っていたルールだと思いますが、道路交通法38条1項(横断歩道等における歩行者等の優先)は、概要、①車は、歩行者の有無を確認できなければ、横断歩道の停止位置で停まれるような速度で進行しなければならない(徐行の義務)、②横断しようとしている、あるいは現に横断中の歩行者や自転車がいる時は、車は必ず停止して、それらの通行を妨げないようにしなければならない(停止の義務)を定めています。
 これらの義務に違反した場合には、3月以下の懲役または5万円以下の罰金です(道路交通法119条1項2号、ただし故意犯の場合)。

 JAF(日本自動車連盟)が2017年に行った実態調査によると、歩行者が信号機のない横断歩道を渡ろうとしている場面で停止した車は、全体のわずか「8.5%」だったそうです。
 確かに、きちんと停まっている車は少ない(かくいう自分も含めてです)という実感はありますが、上記のように改めて数字で出されると、たった「8.5%」というのは衝撃の少なさだと思います。
 ドライバーからすれば、「後続車との車間が狭く、追突されるのが怖い」、「後続車がいないから、自分さえ通過すればその後すぐに渡れるし…」といった声もあるでしょう。
 しかしながら、改めて、「信号機のない横断歩道での歩行者優先」を肝に銘じたいものです。

 というわけで、一日一善ではありませんが、“車に乗ったらその日のうちに1回は歩行者に道を譲りたいキャンペーン”を、勝手に実施しています。信号機のない横断歩道にさしかかると、目を皿のようにして、渡りたがっている歩行者がいないかを探すのです。
 ベビーカーを押しているうえに大きな荷物を肩から下げた女性は、こちらが申し訳なくなるくらい、何度も頭を下げて渡っていかれました。
 犬を連れた小学校低学年とおぼしき姉弟は、渡り切った後、大きな声で「ありがとうございました!」とお礼を言ってくれました。
 もちろん、ほとんど停まる車のない現状では、停止すると帰って危険という悲しい現実もありますので、周囲の状況(後続車や対向車の動向、横断歩道付近に他の車が駐停車していないか等)に気を付けて実行に移す必要があるのですが、最近、「これは、これまでの人生の諸々の、せめてもの罪滅ぼしになるのでは?」などとハマりつつあるのです。

 最後に、現代らしいオチ話をひとつ。
 先日、自宅近くの県道を走っていると、信号機のない横断歩道の脇に立つ若い男性を1名発見。バックミラーを確認すると後続車との距離もかなり開いており、対向車もまばらで、絶好の停止チャンスです。
 私が停止してほどなく、対向車も停止してくれました。
 あとは、さぁ、渡って下さい、お兄さん!
 ……と、横断歩道の脇に立っている若い男性を見たのですが、その男性は手元のスマホに夢中で(イヤホンもしています)、全く渡り出す気配がありません(横断歩道の脇に立っているのに!)。
 数秒、静かな時間が流れました。
 私が「うーん、このシチュエーションで歩行者の注意を引くためにクラクションを鳴らしたら道交法違反になるのかな」と戸惑っているうちに、先に対向車がしびれを切らして発進しました。対向車線が動き出してしまったので、これ以上せき止めるのも後続車に申し訳ないと思い、私も渋々発進しました。
 お兄さんは、首を45度くらいの角度に折り曲げてスマホを覗き込んだまま、最後まで顔を上げませんでした。
 こんなこともあるのだなぁ…と、車内で一人クスリと笑ってしまいました。
                                      

以上