弁護士 田中 智美

Yさんは、結婚30年目にして離婚を決意しました。
原因は妻の浮気。
しかも、その浮気相手はYさんの友人でした。
妻との離婚は、話し合いで決着がついて離婚届を役所に提出。
その後、Yさんは浮気相手の友人を相手にご自身で裁判を起こし、慰謝料として300万円の支払いを命じる判決が下されました。

しかし、判決後、いつまで経っても、その友人は300万円を支払ってくれません。
その友人の自宅に判決を持って直談判にも行ったそうなのですが、
「そんな金はない」
と開き直るばかりで、ずるずると2年が経過してしまいました。
業を煮やしたYさんは、この判決に基づいて300万円を回収する方法はないかと、当事務所に相談に来られました。

聞き取りをしてみると、その友人は現在無職。数年前まで自営で左官業のようなものをしていたそうなのですが、退職金などありそうもない気配。
Yさんが入手した登記簿を見ると、その友人宅の土地・建物は新築当時からその人の奥さんの名義になっていました。
つまり、判決をもとに強制執行をしようにも、その友人には差し押さえるべき財産がなさそうなのです。

私は、
「一か八か、近所の銀行に当たりをつけて、その人の口座がそこに存在すれば預金を差し押さえることもできますが」
と説明しましたが、Yさんは、あるかないかも分からない預金口座への差押えには消極的でした。

そうして、最後には、
「もう諦めます。こんな奴とは二度と関わり合いにならないで、前を向いて生きるのが賢いってことですよね」
とおっしゃる一方、
「でも、おかしいですよね。ここ(判決)にはちゃんと私に300万円払えって書いてあるのに、財産がないからって、開き直った方が勝ちなんて・・・。
これじゃ、悪いことしても、やり得ってことですよね」
とこぼして、お帰りになりました。

私は、Yさんが最後にこぼした呟きに同情することしかできませんでした。
日本の民事裁判では、この例のように、せっかく判決を得ても、相手方に相応の財産がなければ執行もできず、判決は絵に描いた餅となりかねません。
こうした法制度にはやはり問題があるのではないかと、強く感じるご相談でした。