令和2年2月  弁護士 木村 綾菜

【事案の概要】
1.人物紹介
A(父)・B(母)は債権者及び債務者の実父・実母であり、債務者が長男(兄)、債権者が長女(妹)である。








A:平成25年9月10日から通院している医院で、
アルツハイマー型認知症と診断。
平成29年4月27日付、要介護1と通知。
B:平成27年12月21にアルツハイマー型認知症と診断。
平成29年4月26日付、要介護2と通知。

2.経緯
⑴ 両親の「連れ去り」
両親は福岡県小郡市の自宅(債権者近隣)に居住。
平成29年6月20日、債務者が両親を横浜市(債務者の住居)へ連れて行った(債権者に事前連絡なし)。

⑵ 親族間の紛争調停
同年9月29日頃、債権者は、債務者及び両親を相手方として、横浜家庭裁判所に、親族間の紛争調整の調停申立てをした。
同年11月8日、第1回調停期日。債務者・両親は出頭せず。
家庭裁判所調査官が債務者・両親に対し出頭を求めたところ、債務者から、調停には一切出席しないこと、両親の希望で債務者が両親の介護の責任を持っていること、債務者が両親に代理して両親の回答をしていること、調停には応じる考えはない旨の電話回答あり。
同年12月6日(第2回期日)、調停不成立。

⑶ 両親入居先の隠蔽
同年10月頃から、債務者が地域包括支援センターに相談するなどして、両親は老人ホームへ入居。同年11月頃、両親は横浜市の老人ホーム「Q」に転居し、現在まで同施設に入居している。
同年11月頃、債権者が、地域包括支援センターに問い合わせをしたところ、両親は施設に入所中であるが、債務者から施設名を教えないように言われている旨の回答。

⑷ 成年後見開始審判の申立、債務者の非協力
同年12月頃、債権者は、横浜家庭裁判所に対して、A・B両名につきそれぞれ成年後見開始の審判を申立。
家庭裁判所調査官による親族調査の際に、債務者は、Aの所在については明らかにしたくないとの意向を示した。また、同調査官が、両親が入居していると想定される施設へ問い合わせをしても、入居しているか否かについて回答を得られなかった(精神鑑定実施できず)。

⑸ 面会妨害禁止仮処分命令申立事件、同保全異議事件
債権者が、債務者及び施設(老人ホームの経営会社)を相手方とし、人格権を被保全権利として、債権者が両親と面会することを妨害してはならないとの仮処分命令を申立。
平成30年6月27日仮処分決定(認容)。
債務者が、これを不服として保全異議を申立(本件保全異議申立事件)。
本件の審尋期日において、債権者は、債権者が両親と面会することにつき債務者が応じないのであれば、家庭裁判所調査官と両親が面会することで、債務者に成年後見開始審判申立事件に協力することを求める旨の意向を示したが、債務者は、家庭裁判所調査官の調査にも応じるつもりはない旨述べた。
平成30年7月20日本決定。

【争点】
・被保全権利の存否
(・保全の必要性)

【裁判所の判断】
「債権者は、両親の子であるところ、前記認定事実のとおり、両親はいずれも高齢で要介護状態にあり、アルツハイマー型認知症を患っていることからすると、子が両親の状況を確認し、必要な扶養をするために、面会交流を希望することは当然であって、それが両親の意思に明確に反し両親の平穏な生活を侵害するなど、両親の権利を不当に侵害するものでない限り、債権者は両親に面会をする権利を有するものといえる。
そして、前記認定事実のほか、債務者提出の証拠及び本件に顕れた一切の事情を考慮しても、債権者が両親と面会することが両親の権利を不当に侵害するような事情は認められないことから、本件被保全権利は一応認められる。」

【検討】
本件で代理人を務めた弁護士山下敏雅先生は、面談強要禁止の仮処分が一般的に認められていることから、これを応用して、面談「妨害」禁止の仮処分に挑戦したと述べている(山下先生HP参照。http://ymlaw.sakura.ne.jp/)。
しかし、面談強要禁止の仮処分が、生命・身体の安全等、被保全権利として分かりやすく強いものを守る対象としているのに対して、面談の妨害が一体何の法的に保護される権利利益を侵害するのかは、一般に明らかでないように思われる。

誰かに会う権利としては、別居親が未成年の子に会う権利(面会交流権)がメジャーであるが、これは民法766条1項に明文がある。また、このほかに子どもが親に会う権利としては、子どもの権利条約9条3項も根拠になり得る。
民法766条1項
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
児童の権利に関する条約9条3項
締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
しかしながら、本件のように、成人した子が、その親に会うことについての明文の根拠となる規定は存在しない。

決定文によれば、債権者は、「人格権等により導かれる、親族である両親との面談を不当に妨害されないという地位に基づく妨害排除請求権及び妨害予防請求権が存在する」と主張したようである。
この主張に対して、決定は、「両親に面会をする権利を有する」と、権利であることは明確に述べつつも、その根拠を明らかにはしていない。
ただし、判例時報(上記)の匿名解説は、人格権が保護される根拠を憲法13条(幸福追求権)に求め、人格権の侵害に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求が認められているほか、侵害される人格権自体に基づく妨害排除ないし予防請求権としての差止請求権が認められていることを適示して、本件を「子の両親に面会する権利を認めた初めての画期的事例」と紹介している。
この解説からすれば、本件は、人格権の一内容としての「両親に面会する権利」が、法的に保護される権利利益に当たるとの判断をしたものと考えられる。

本件の翌年である令和元年11月22日には、80代の母親を自宅から連れ出した長女と次女が、それぞれの自宅や施設に母親を住まわせ、三女に会わせず居場所を知らせることもしなかったという事案で、三女による110万円の損害賠償請求(不法行為)を認めた東京地裁の判決があった。
この判決では、詳細は判決文未公開のため不明なものの、被侵害利益については「親と面会交流したいという子の素朴な感情や、面会交流の利益は法的保護に値する」と述べられており、両親の扶養に必要という点を指摘した本件とは多少色合いが違うものの、権利性を肯定している。
(以上につき、日本経済新聞2019年12月30日付記事参照。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53993210Q9A231C1CZ8000/

以上より、高齢の親の「囲い込み」については、その根拠を明確に人格権に求めるかはさておき、子が親に会う権利を肯定する事例が出てきている。このような「囲い込み」事案は、相続トラブルとも相まって増えているとも言われており、不当な面会の妨害を許さないとする事例が今後も増えると予想される。
課題としては、いかなる場合が不当な面会の妨害と評価されるのかという点(保全の必要性と関連)と、仮に面会の「妨害」が禁止されたとして、それは「面会をさせる」命令ではないのだから、実際に債権者はどのように親と面会していくのか、債務者はいかなる行為をしない又はするべきなのか、具体的な内容が明らかでない点がある。今後も動向を注視していく必要がある。     

以上