近年、法律相談番組や法律家を扱ったドラマや漫画が多くみられるようになりました。
そのためか様々な法律用語も身近になり、それとともに、様々な法的な手続きが取られるようになった印象です。
遺言がしばしば作られるようになったのも、その一つと言えます。
この遺言が作られるようになった結果、最近増えている印象があるのが「遺留分」の主張です。
今回は、「遺留分」と「生前贈与」について、さいたま市大宮区で30年以上の歴史を持ち、「相続専門チーム」を擁する弁護士法人グリーンリーフ法律事務所が解説を行います。

遺留分について

遺留分とは

遺留分とは、一定の親族範囲に属する相続人がもつ、被相続人の財産の一定部分に特に強い相続権に支配されている部分を言います。
そして、この権利を有する近親者を、遺留分権利者と言います。

第九章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

遺留分権利者はだれか

遺留分を有するのは、一定の範囲属する相続人です。
上記の条文で明らかなとおり、兄弟姉妹が相続人となる場合には、遺留分は有さないことになります。
したがって、遺留分を有するのは、兄弟姉妹以外の相続人です。

誰が、誰に対して、遺留分を請求できるか?

遺留分の請求権者

遺留分を請求できるのは、遺留分権利者ですが、どんな場合でも請求できるわけではありません。
遺留分が請求できるためには、自己の遺留分が侵害されている必要があります。
被相続人による贈与や遺贈によって、遺留分が侵害された場合にのみ遺留分侵害額請求をすることができます。

遺留分侵害額請求の具体例

具体的な例を見てみましょう。
母が亡くなり、相続人は、父、長女、長男の3人とします。
母は遺言を残しており、「すべての財産を長女に相続させる」という内容でした。
長男の視点で見てみましょう。

長男は、被相続人の直系卑属ですので、遺留分が侵害されている場合には、遺留分権利者となります。
遺留分は、全体の遺留分が1/2であり、長男個別の相続分が1/4(子全体で法定相続分は1/2となり、2人の子がいることから、子全体の相続分1/2をさらに2で割ります。)ですので、
1/2×1/4で、1/8が長男の遺留分となります。
そして、遺言によりすべての財産を取得する長女は、長男のこの1/8の遺留分を侵害していますから、長男は長女に対し、遺留分侵害額請求をすることができます。

生前贈与がある場合に、遺留分の算定基礎にできるか

遺留分侵害額請求の具体的な金額の算定は

以上みたように、遺留分侵害額請求は、相続財産に対する一定の「割合」を請求できる権利です。
しかし、実際に請求する際には、相続財産を特定して具体的な金額を請求することになります。
では、相続財産はあまり残っておらず、被相続人が、多額の生前贈与をしていた場合にはどうなるでしょうか。

遺留分侵害額請求と生前贈与

先ほどの、被相続人母、父、長女、長男が相続人であるという例で、もう一度考えてみましょう。

母は遺言を残しており、「すべての財産を長女に相続させる」という内容でしたが、生前、自身が持っていた現金の大半を、父に贈与していました。
このケースを、長男の視点で見てみましょう。

(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。第千四十五条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。
2 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

まず、民法1043条1項で、「遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。」とされていますので、母が死亡時に有していた財産から、負債を引いた額が、遺留分を算定するための財産の価額となるところからスタートします。
次に、民法1044条1項本文は、「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。」としていますので、相続開始前、すなわち、母死亡前一年間にした贈与の価額が、遺留分の算定の基礎に加えられます。
但し、同条3項で、「相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。」とされていますので、本件の母から父への贈与の場合は、「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」であれば、母死亡前10年間にされた贈与の価額が遺留分の算定の基礎に加えられます。
さらに、民法1044条1項但書において、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。」同条3項で、「相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と…する。」とされていますので、本件の母から父への贈与の場合は、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」であれば、母死亡前10年間以前にされた贈与であっても(但し、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与)、その価額が遺留分の算定の基礎に加えられることになります。

当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与とは

これらについては、戦前の大審院判例を踏まえれば、
・誰が遺留分権利者であることの認識までは不要
・加害の意思までは不要で、損害を発生させることの認識
・贈与時点の認識が問題になる


とされています。

どのように遺留分侵害額請求を請求するのか?

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間と限定されています。
なお、必ずしも内容証明郵便で行う必要はありませんが、請求の時期が問題になることもありますので、日付の証明ができる方法で行うことが必要になりますので、内容証明郵便を用いるのは有効な方法と言えます。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

生前贈与のある場合の遺留分侵害額請求とグリーンリーフ法律事務所

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の特徴

開設以来数多くの相続に関する案件・相談に対応してきた弁護士法人グリーンリーフ法律事務所には、相続に精通した弁護士が数多く在籍し、また、相続専門チームも設置しています。
このように、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所・相続専門チームの弁護士は、相続案件や相続に関する法律相談を日々研究しておりますので、生前贈与のある場合の遺留分侵害額請求に関して、自信を持って対応できます。

最後に

遺言、生前贈与、遺留分侵害額請求でお悩みの皆様は、ぜひ、弁護士法人グリーンリーフ法律事務所にご相談ください。

ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、各分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 野田 泰彦
弁護士のプロフィールはこちら