会社(法人)については、破産申立を行わず、法人代表者についてのみ、破産申立をすることを検討します。そもそも、法人代表者のみの破産申立をする要望、法人代表者のみの破産申立による破産手続において注意すべき点、会社(法人)と代表者双方の破産申立を考えます。

1 会社(法人)の破産手続と、会社代表者の破産手続

(1)破産した法人の代表者ないし機関

会社(法人)に破産手続開始決定がなされると、法人の代表者である代表取締役ないし取締役は、会社(法人)の代表権を失います。
法人に対する破産手続開始決定により、破産した法人については破産管財人が対応するからです。
中小企業の多くの場合、会社代表者は、会社の借入・取引の債務などについての連帯保証人となっているため、会社の倒産に伴い、会社代表者もまた支払不能の状態に陥っています。

(2)法人破産⇒法人代表者破産が必要な場合

ただ、会社(法人)が破産手続開始決定を受けたら、当然に、破産手続開始決定を受けた会社の代表者が破産するものではありません。
しかし、会社が破産する場合、上記のように、会社の代表者が会社の借入・取引の債務を連帯保証しているため、会社の代表者も多額の債務を負担することになることが通常といえます。
よって、このような場合には、会社が破産すると同時に、その会社代表者個人の破産申立ても必要になります。

(3)法人破産。しかし、代表者は破産不要の場合

ただ、会社の代表者が、会社の連帯保証債務を負っておらず、また、それ以外に支払不能等の、破産手続開始決定を求め得る破産原因がない場合には、会社代表者の破産申立をする必要がないということになります。
また、会社代表者は、経営する会社の倒産後、速やかに再就職などをして、継続的に収入を得るめどを立て、自らの生活の本拠である住宅を維持するために、住宅ローン特則付個人再生手続きを利用することができる場合に、会社代表者は、自己破産を回避する手続きもありますので、代表者個人の自己破産が必須というわけでもありません。

2 会社代表者のみの自己破産申立

(1)会社代表者についてのみ破産申立てを要望する(検討する)理由

① 法人の破産申立の予納金の工面の問題

法人の破産申立をする場合、その破産手続は、破産管財人が選任されずに手続を終結する同時廃止事件とはなりません。
なぜなら、法人は、営業中、当然に一定の財産を有していたはずですし、営業を停止した時点でも、破産手続の費用を賄うに足りる程度の財産は保有していたと考えられます。また、財産の処分などの結果、現在は財産がないとしても、その財産処分などのプロセスに問題がないとはいえないはずであるからです。問題がある場合には、破産法における否認権などの問題もあり、管財人の調査に期待されます。また、債権者も、その点に大いなる関心を持っているはずです。
よって、ほとんどの裁判所では、会社(法人)の破産手続においては、同時廃止の手続きの取扱いをしていません。さいたま地裁では、法人は管財事件としています。

会社(法人)の破産手続の場合には、破産手続開始決定と同時に、破産管財人が選任され、破産管財人が破産者法人の財産を換価し、債権者に配当するという手続きとなります。破産管財人に、このような職務を行わせるために、その管財人報酬などの担保のため、その他破産手続において予想される管財業務の費用負担のために、相当額の破産予納金を準備することが裁判所から求められます。
会社代表者が、このような破産手続に用いる破産予納金の工面ができないという点が考えられます。

② 申立てに必要な資料の散逸

会社(法人)の破産申立に必要な資料が、会社(法人)の事業停止後に散逸したり、処分されてしまって、破産手続開始決定を求める申立てがなし得ないという危惧があるという点が考えられます。

(2)法人破産申立の要請

① 会社(法人)の財産処分の経緯の調査

会社は、営業を行っていた以上、営業停止の時点において、ある程度の財産(在庫商品、不動産、売掛債権など)を有していたはずです。これら会社の財産がどのように処分などされたのかについては、債権者にとっての関心事です。
これらの処分の経緯について、破産管財人に調査してもらい、破産法において認められている否認権などを財産の回復がなされ、配当財団の形成に資することが期待できます。
少なくとも、その財産処分の当否についての詳細が報告されることになり、情報の提供がなされます。

② 会社財産と代表者個人財産との区別の曖昧、その峻別

個人企業ともいえるような小規模な会社に多く見受けられる、会社代表者個人の財産と、会社(法人)の財産との区別が明確でないことがあります。
また、会社代表者が会社(法人)に対して、貸付金、仮払金などの債権を有していることがあります。他方、会社が会社代表者に貸付金などを有している場合もあります。
法人の破産手続において、法人の財産関係が調査されなければ、会社代表者の財産状況も正確に把握することができません。

③ 会社(法人)の破産手続がなされないままに、会社代表者個人のみの破産続き開始決定がなされると不都合が生じること。

会社代表者のみが破産申立をなし、裁判所から破産手続開始決定を受けると、会社(法人)の代表者である取締役との間の委任関係は終了します(民法653条2項)。
これによって、破産手続をとられていない会社(法人)は、代表者がいない状態となります。この会社の清算手続きをとることが困難となります。
すると、清算されていない状態で法人が残りますから、このような法人の債権者が債権を償却し、税法上の損金処理をすることに大いなる支障が出ます。

(3)代表者個人の破産申立てがなされた場合に、法人の破産申立はほぼ不可避なこと

上記の事情から、多くの裁判所は、会社代表者個人の破産申立てがなされた場合には、可能な限り、法人の破産申立てを行うよう要請しています。

3 法人代表者のみの破産手続の可能性

(1)法人代表者の破産手続は管財事件となる

法人について破産申立がなされない場合、代表者個人の破産事件は、管財人が選任される管財事件となるのが一般です。
さいたま地裁では、法人の破産については、資産の有無にかかわらず、同時廃止による処理は行わないとします。
代表者個人の破産事件とはいっても、会社(法人)と代表者の財産関係の親密性や経験的な峻別の曖昧性から、法人の関係における財産調査がほとんど不可欠なることから、代表者個人の破産手続が、管財人が選任され、管財人の調査に期待されるのは当然であって、やむを得ない取扱いであると評価できます。

(2)法人代表者のみからの破産申立がなされた場合に、さいたま地裁の運用

さいたま地裁管内の裁判所では、法人の代表者のみから破産申立がなされた場合、その受付において、当該法人についても、破産申立をするよう促される運用です。
それでも、法人についての破産申立てをしない場合には、さいたま地裁は、法人の代表者の破産申立事件を管財事件として処理する、管財係に配点します。

(3)申立人及び申立代理人による、管財人の調査への協力としての調査・説明

① 破産管財人への協力

このように、さいたま地裁では、代表者個人の破産申立において、法人の破産申立をしない場合には、管財事件として、管財人が選任されます。
代表者個人の破産管財事件において、裁判所や破産管財人から、法人の資産および負債の状況についての調査、当該法人には資産がないことを疎明する資料の提出を求められることがあります。
申立代理人としては、会社代表者を通じて、法人の破産申立の際に行うべき調査やその資料の提出を行うことになります。
つまり、会社代表者のみの破産申立のみで行おうとすると、その労力として、会社の自己破産申立の準備・その後の管財人への協力と同様程度の作業を行うことになるのです。

② 管財人への協力の内容

会社代表者の方が経営していた会社の事業停止から相当長期間が経過していることや、法人に関する資料が散逸した事情を説明するだけでは管財人の調査への協力は十分とはいえないはずです。
申立代理人弁護士は、法人財産と個人財産が峻別され、双方の財産に混同はないこと(経験的にかなり困難、端的に言えば到底無理なのですが)、そして、会社代表者が自己破産申立をした現時点では、会社(法人)には、財産が現存しないこと、会社の事業停止後の会社資産の行方等について、できるだけ詳細な、そして合理的な説明ができるよう調査することが必要となり、代表者はそれに協力をし、共同作業をすることになります。

(4)破産予納金の問題

① 予納金の増額の可能性

会社代表者個人の申立てのみであっても、破産手続開始決定を出しうると破産裁判所が判断しても、代表者個人の破産手続において選任される、破産管財人は法人の関係でも調査業務をすることが予定されます。
想定される業務に応じて、予納金が増額される場合があるということは覚悟しておかねばなりません。
その場合、法人についての破産申立を回避し、法人代表者個人のみの破産申立をする切実な要請であった、予納金の負担軽減にはつながらないことになります。

② 予納金の裁判所の配慮

さいたま地裁では、法人申立てと同時に、また、近接した時期に法人代表者個人の破産申立をする場合(さいたま地裁は、法人破産申立後、3か月以内の代表種個人の破産申立てを推奨しているようです)、予納金は低額でと可能とされるのが一般です。
さいたま地裁管内の裁判所では、法人破産の最低予納金は20万円、代表者個人の最低予納金を5万円としてます。

4 代表者個人の破産申立は、法人破産が前提であること

(1)法人の財産関係の整理として、法人破産が前提とされるべきこと

会社代表者個人の破産申立は、同代表者が経営していた会社の整理がなされることを前提として行うことが本来的であり、会社経営者の最期の経営責任として、会社をきちんとたたむこと、つまり、債務超過でなければ、会社法における清算手続きを、債務超過であったり、支払不能に至ったのであれば、破産手続をとるべきことになります。

(2)法人破産と代表者の債務整理

法人の整理、特に破産申立てにより、裁判所から破産管財人が選任され、法人の財産関係の全体的な調査がなされます。これにより、手続きの公平性・透明性が保障されます。
法人代表者の破産手続でとどまることなく、法人の破産手続により、経営破綻した法人をその経営者である代表者が不在となったままで放置されるという事態を回避できます。
これは、会社経営者の社会的責任の全うです。

5 まとめ

以上、明らかなように、法人と法人代表者の債務整理は共に行われるべきことになります。
すなわち、経営破綻した法人は法人代表者の決断により自己破産申立を行います。
法人代表者は、会社倒産後の就業状況を踏まえ、その債務の額の多寡や住宅の維持を考える場合、住宅ローン特則付個人再生による債務整理や、代表者自身の自己破産申立を行い、再起を図ることになります。

裁判所も、予納金の額で、法人及び法人代表者双方の、破産手続き利用に配慮しています。
また、当法律事務所でも、法人の破産申立と同じく法人代表者などの破産申立の双方のご依頼の場合には、弁護士費用を調整するなどして、法人、法人代表者の債務整理に協力する方針・対応です。

以上
ご相談 ご質問
グリーンリーフ法律事務所は、地元埼玉で30年以上の実績があり、各分野について専門チームを設けています。ご依頼を受けた場合、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
弁護士のプロフィールはこちら